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最強は俺じゃなく隣で寝ているこいつです  作者: ぱれつと
1章 モンスターの狂暴化
13/30

13話 優しい大人

 セイラが去った後、ノアは避難していたコスモ達を、危険はもうないと保育園へ呼び戻した。

 皆の顔に薄く安堵の色が浮かんだことを、ノアは見逃さなかった。


 保育園のグラウンドに、ノアを含め全員が集まる。


「俺が原因で、コスモさん達にご迷惑をお掛けしてしまって、すみませんでした……」


 ノアはコスモたちへ深々と頭を下げた。本当に申し訳ないという気持ちで心がいっぱいだ。


 セイラがここへやって来たのは、ノアのペンダントを狙ってのこと。ノアがここにいなければ、コスモ達に迷惑をかけることもなかった。

 そう考えると、罪悪感がノアの心をぎゅっと締め付けた。


「君が謝ることじゃないさ。子供たちも全員無事だし、そう気に病む必要もない。──怪我はしていないかな?」コスモが穏やかな口調で言う。


 ノアは目を見開き、顔を上げた。


「……はい、大丈夫です」


「それなら良かった」コスモが微笑む。


 本当に、コスモは気にしていない様子だった。その笑顔が、ノアには少し眩しすぎた。


「あ、そうそう。君の戦いっぷり、皆で見てたよ」


「えっ見てたんですか?!」全然気が付いていなかった。


「うむ、素人ができる動きではなかったな、あれは。例えば──」


 そう言うと、マインドは片足で地を蹴り、見事なバク転を披露してみせた。


 子供たちの間で、お~っと拍手が鳴る。


 素人ができないという動きをさらっと()って退()ける辺り、マインドも素人ではないと言っているようなものである。


「そういえば、ノア殿は腰に剣を差しておるな。もしや、冒険者なのか?」


「えっと、はいそうです。あとモニカも」


 コスモの隣に立つモニカが微笑む。


「最初会った時に言っていただろう。お前は聞いてなかったのか? あれ、でもそうなってくると……ノア、君、年いくつだい?」


「今年で16になりますけど?」


 ノアがそう答えると、コスモの目が大きく見開かれた。


 この反応、慣れてはいるが、やはり……


「あはは……見えないですね」自傷気味の乾いた笑いが漏れた。


 ちなみに冒険者登録が可能なのは、満15歳以上の人間だ。


 身長が低いがために、大抵ノアは実年齢よりも幼く見られることが多い。


「す、すまない。申し訳ないが、てっきり13歳くらいかと」


「ではモニカ殿はいくつなのだ?」


「私は15歳です」


「あぁ良かった。こっちは思ってたとおりだ」


「は、はは……」ノアはがっくりと肩を落とした。


 一日で二回も身長のことを言われると、流石のノアでも心に来るものがある。


「あのねーちゃん、落とし穴で転けてて面白かった!」


「ねー!」


「ズザーってなってたよねー!」


「うむ、あれは見事な転けっぷりだったな」


 落ち込むノアをよそに、子供たちは素直な、ちょっぴり辛辣ともとれる感想を思い思いに交えていた。一名、大人も混じっているが。


「……あの子について、深くは尋ねないでおくよ。他人があれこれ聞くのも失礼だ」コスモが言う。


「はい、助かります」


 だが正直なところ、ノアもセイラの素性に関して一切分かっていない。以前にどこかで出会った覚えもない。

 そもそも、セイラの方もノアのことを以前から知っていたような言動はなかった。

 ……どんどんセイラに対する謎が膨れ上がってくる。


「こんちには、お迎えに来ましたー」


 保育園の門を開けて、子供たちの母親と思われる女性が入ってきた。

 後ろからもぞろぞろとやって来る。

 門の方へと駆けていく子供もいた。


 もうそんな時間か。


 コスモは女性たちに微笑むと、ノアとモニカの顔を交互に見た。


「もう手伝いは大丈夫だ。今日は、突然こんなことを頼んでしまってすまなかったね。でも、凄く助かったよ。ありがとう」


「お役に立てたようなら良かったです」


「私たちも凄く楽しい時間を過ごせました!」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。子供たちも、とても楽しそうだった。たまには、マインドもいい仕事をしたもんだよ」


「む?」


 子供たちに肩車をせがまれていたマインドが、しゃがんだ格好のままコスモを見上げた。


「コスモ、()()()()ではなく()()()、ではないか」


「ふふ、はいはいそうだね」


 こう二人の会話を聞いていると、姉と弟が会話をしているように聞こえる。もう一つ言えば、熟年夫婦微笑ましい団欒(だんらん)にも。


「冒険者ということは、近いうちにこの街を離れるのかい?」コスモが尋ねてきた。


「はい。明日にも」ノアはゆっくり頷いた。


「そうかい。なら、去る前に一度また、会いに来てくれると嬉しいな」


「「はい。必ず来ます」」ノアとモニカは、声を揃えて言った。


 このたった数時間でのことしか、ノアはこの二人のことを知らない。けれど、二人の優しさや温かさは、たった数時間でも十分に知ったつもりだった。

 また会いたいと思える程に。


 ノアがすぐに人を信用しやすいというのもあるだろうが、モニカも同じことを思って言っただろう。


 その証拠に──ノアにとって、コスモとマインドが向けてくれた笑顔は、今まで知り合った大人が向けてくれたどんな笑顔よりも、温かく感じた。



  ◇◇◇



 コスモ達と別れ、カイルの待つ(寝ている)宿に戻る帰り道。


 西の空に見える日はもうすぐ、完全に沈みそうだった。頬を撫でる風も、鋭さを増している。


 ノアは、今日一日の出来事を振り返る。

 いつもなら質素で何もない休暇が、今日はとても充実したものだった。少し濃すぎた気もする程に。


 今日一番の出来事といえば、やはりマインド、コスモと知り合ったことだ。


 モニカをナンパしたマインドに、コスモの保育園を手伝ってくると頼まれ、子供たちと遊んでいたところに突然セイラが現れ、そしてなんとか勝った。皆には、本当に迷惑をかけてしまったが、その時コスモは、笑顔で許してくれたどころか、ノアの身を案じてくれた。


 その言葉を耳にした時、ノアは心底驚いた。こんな風に、ノアを心配してくれる大人がいるのだ、と。

 そんな人、初めてだった。


 カイルも、ノアのことをよく気にかけてくれるが、ノアの中でカイルは大人という枠組みにはもう収まらない。

 キャロルもノアを心配してくれるが、大人ではない。


 だからノアにとって、大人に心配されるというのは、“初めて”だったのだ。


「そういえばノアさん、セイラさんにあのことは聞けましたか?」モニカが首を傾げた。


「え、あのこと?」突然振られた話題に、それが何のことを指しているのか分からず、ノアはポカンとなる。


「あれ? ノアさん、今日病院で話し合った時言ってたじゃないですか。“今度セイラさんに会ったら、何故ノアさんのペンダントを狙うのか、その目的を聞いてみよう”って」


「……ああ──っ!?」


 数秒の間の後、数時間前に言った自分の発言を思い出し、思わず大きな声が出た。

 モニカが驚いたようにきゅっと目を瞑る。


「そういえば、そんなこと言ってた……」


「まさか、忘れてましたか?」


「は、ははは……忘れてた、完全に……」


「あぁ……絶対に次があります。その時に聞きましょう」


「そ、そうだな。できれば、その、“次”は来てほしくないけど……」


 聞きたいが、来ないでほしい。複雑な心境だ。






 宿に到着した頃には、日はもうすっかり落ちていた。


 受付の人に、カイルの部屋を尋ねると、二階の一番奥にある、三人用の部屋にいるとのことだった。


 その時に一緒にもらった鍵で、部屋の扉を開けると、ベッドでカイルが毛布にくるまって寝ていた。ぴくりとも動く気配がない。


「まさかこいつ、今日一日中寝てたわけじゃ……」


「あはは、カイルさんならあり得ちゃいますね……」


 その後、宿の一角にある売店で夕食を買ってきて、静かに眠るカイルを起こした。


 ゆっくりと瞼が開くと、数回瞬きをした後、カイルは体を起こした。


「……おかえり」そう一言だけ言い欠伸を漏らすと、また布団を被ろうとする。


「ちょい待て待て待て、寝るな。取りあえず飯を食え」再び寝ようとしたカイルの背中を押す。


「……俺、不老不死だから食べなくても平気」


「そーゆー問題じゃなくて……。てゆーか、どんだけ寝たいんだよ。今日ずっと寝てたんだろ?」


「ああ」


「やっぱしかい。なら尚更寝るな! 食べろ!」


 カイルのこの睡眠欲を、少しでいいから食欲にお裾分けしたいものだ。


 モニカはまだカイルとの距離感が探り探りの状態なのか、カイルとノアの会話に対して、あまり積極的に入ってこようとはしなかった。


 カイルの口に、下で買ってきた焼き鳥を突っ込むと、流石に寝ようとはしなくなり、串を持って超スローペースで口を動かし始めた。


 食べてくれたことに安心しつつ、ノアとモニカも、机の上に置いた焼き鳥をそれぞれを手に取り口に入れた。甘辛いタレと柔らかい肉の相性が抜群だ。

 思わず口元が綻ぶ。空腹気味だったため、尚更美味しかった。


「そうだカイル、今日な──」


 ノアは、今日あった出来事を、一日中寝ていたカイルに話そうと思い、口を開いた。しかしすぐに口を(つぐ)む。


 カイルは、既に焼き鳥を食べ終え寝ていた。


「えっ早!?」


 机の上を見ると、肉がなくなった串がきちんと置かれていた。いつの間に?

 そんなに寝たかったのか、カイルよ……。


「カイルさんは、何故寝るのがお好きなんでしょうか?」モニカが言った。


「さぁ? モクモグ……趣味(?)みたいなものなんじゃないか?」焼き鳥を頬張りながら言う。


「……カイルさんなら、何か理由があるような気がするんですよね……」


「理由? まぁ、そう思う気持ちも分からなくはないけど……寝ることの理由に、“眠い”以外あるか?」


「……そう、ですよね。私の気にし過ぎですね」


 この話には一旦区切りをつけ、二人は依頼書を見ながら、明日からの予定を立て始めた。






「……」


 布団の中で暗く開いていたカイルの瞳を、二人は知らない。

この物語の世界観についての疑問を頂きました。

そのことについて、物語で明かすことはないと思われるので、ここでご説明させていただきます。


この物語の中世ヨーロッパのような世界観は、あくまでも“人間の文明”です。ペットボトル等の、便利で進んだ近代技術は“人間の文明”ではなく“魔族の文明”を人間が借りているものだと思ってください。


勇者が魔族を倒した、という過去から、人間と魔族は仲が悪いと思われるかもしれませんが、現在は全ての種族同士が和平を結んでいるため、お互いに貿易等で文明を共有する平和な世界になっています。


ちなみに人間の文明があまり進んでいないのは、まだ各種族同士の仲が悪かった頃、人間は特に能力も持たない最弱の種族だったため、生活に便利な技術を発展させるよりも、護衛や武力を向上させる技術の発展を優先したためです。

逆に魔族は、神明に続く最強の種族だったため、人間と逆で生活に便利な文明を優先して発展させていました。なので今は、文明が一番発達した種族になります。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!次話も読んでもらえると嬉しいです!

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