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自分を殺して  作者: アサガオ
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夏の図書室

 俺は男だ。そう、男であるはずなのだ。

 しかし、現実とは残酷である。

 俺の体は、女として生まれてきてしまったのだ。

 別に女の人が嫌いとかそういう訳では全く無い。

 ただ、心は男である俺が、体が女の人間に生まれてしまった、それだけの事なのだ。

 ただそれだけのはずなのに、俺は今、自ら死のうと学校の5階から身を投げ出そうとしている。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 

 「ねえユズー、この問題教えてー、マジで何聞かれてんのかすらもわけわかんない。」

 

 突然、勉強していた俺の前にスッと一枚の問題用紙が置かれた。


 「んー?何これ。」

 「アタシの塾のマジで意味分かんない宿題。」

 「1問も解いて無いみたいだけど?」

 「だって物理じゃん。」


 こう言って、座っている椅子の思いっきり背もたれに体重をかけ、くでーと、疲れ果てた草のようになっているのは、俺の幼馴染みであり親友の桜だ。


 「頑張れって、物理なんて教科書やら参考書見れば一発だろ?此処にも探せば多分あると思うぜ?知らんけど。」


 そう此処は学校の図書室、俺達は高1の夏休みに暇な時間を利用し、わざわざ暑い中、学校まで自主勉強しに来ていたのだ。


 「そんなんユズだけでしょー、知ってんでしょ、アタシが物理やら数学やらの理系教科が全く出来ない事。」

 「でもさ、これ大問1の1問目だよ?」

 「無理なもんは無理、物理だし。」

 「別に自分が教えるのはいいけどさ、塾で習ったとこでしょ?ノートとかさ見返して自分で解こうとしなきゃ意味ねーじゃん。」

 「ちょっと何言ってるか分かんない。」

 「なんでだよ。」


 桜はいつもこの調子だ。分からない問題(理系)があれば俺に聞き、理解したと思えば次の日には解き方を忘れている。何故復習しようとしないのか、大きな謎である。今日は、全く聞かれていなかったので、やっと成長したのかと思っていたが違っていたようだ。


 「つーか、聞く前までずっと静かに何やってたんだよ。それ解いて無かったのかよ。」

 「血液型占いの本読んでた。」

 「小学生かよ。」


 そんな気はしていたがやはりか。 

 そして桜は爽やかにこう言った。

 

 「ふっ、心はいつでも小学生さ。」

 「恥を知れ。」

 「ひでー。」


 もういい加減始めないと、進めまないなし、仕方がなく教えるか、、、と思っていた所で横から突然、声がかけられた。

 

 「よっ、柚綺ゆずき、桜、久しぶりじゃん!」


 こう言ってキラキラ目を光らせている男は春樹、同じクラスで中学の頃からの友達だ。


 「おー、久しぶりー。つーか、珍しいなお前がこんなとこ来んの。」

 「確かにー、アタシ達はちょこちょこ来てるけど、春樹は意外過ぎ。」

 

 そう、春樹はかなりの馬鹿なのだ。

 高校受験の時だってコイツと桜を俺達と同じ高校に合格させる為に、俺とコイツの双子の弟の2人で、何とかコイツに勉強を教え込み、何とかギリギリ合格させたのだ。

 初めて過去問題集をやらせてみた時、2人で絶望したのは昨日の様に思い出せる。意外と言われてしまうのも無理も無い。

 だが、桜が言うのは少しおかしいとは思うが。


 「ひでーなおい、まあ、今日は部活が午前だったからな、いい加減勉強しねーととやべーと思ってさ。」

 「確かにー、てことは今日一人で勉強しようとしてたの?」

 「いや、秋樹しゅうきと一緒。」

 「あーね、シュウに全部教えて貰おうとしてたんでしょー。」

 「まーな。」


 春樹と秋樹しゅうきこの2人は顔は大変よく似ているのだが、性格はまるで違う。

 兄である春樹は明るく基本的に何も考えていない、いわゆる馬鹿系の人間だが、弟の秋樹は常に落ち着いており、頭もかなり良い。

 何故ここまで差が出てしまうのか、謎である。


 「で?シュウは何処行ってんだよ。」

 「アイツなんか女子に呼ばれてどっかいってた。」

 「ヒュー!モテるねー!流石イケメン君。」


 そうこの双子野郎どもしっかり美形なのだ。そしてバスケ部という事も有り中々身長も高く、そこそこ体格もいい。故にモテる。とてもモテる。うざいと思うくらいには。


 「シッー!静かにしろって、聞かれてたらあんま良くねーだろ。」

 「まあまあ、そんな心配しなくてもここ使ってんのアタシらだけだってー。」

 「確かに。」

 「確かにって、お前らここ図書室なんだから人居なくも一応静かにしとけよ。」

 「「はーい。」」


 アホ2人を相手すると疲れるなと思い、少し呆れてながらも、そろそろ解こうと目線を目の前にある問題用紙に向けた時、「ガラガラガラ」と扉が開く音がした。

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