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伝説の魔女に恋したら俺が闇落ちした件  作者: 葛西渚
第一章 トキノ
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後ろから衝撃が走る。またか、と思った。

後ろから蹴り飛ばされたのだ。僕は前方に転んでしまう。痛みを感じながら、後ろに振り返った。

意地悪な顔をした男の子が僕を見下ろしている。


「おい、いらない子供が何偉そうに歩いてるんだよ」


ニヤニヤと笑いながら僕を蔑む。僕は別に偉そうに歩いているつもりはなかったので、何と言うべきか分からず黙っていた。それは逆効果だったらしく、意地悪な男の子は僕を睨み付ける。


小学生になってから、僕はいじめられてばかりだった。学校という場所は窮屈だった。村の子供たちが集まる小さな学校なので十数人程度ではあるのだが、僕はその中に馴染むことができなかった。一緒に走り回って遊ぶことができないし、笑い合いながら会話することができなかったのだ。彼らと遊ぶよりも本を読んでいた方が楽しかったから。


僕はいつの間にか、いじめの対象になっていた。みんなの輪の中に入れないのはもとからだったから、最初は気付かなかったけど、休み時間にボールをぶつけられたり、ノートを隠されたりと、少しずつだが、いじめられていることに気付いた。でも、それは仕方ないことなのだと僕は納得することができた。なぜなら僕みたいな暗い人間が誰かに好かれるなんてことがあるわけがないからだ。

意地悪な男の子が僕をもう一度蹴り飛ばそうとした。


「やめなさい!」

その声に意地悪な男の子の動きが止まる。

「どうしてトキノくんをいじめるの!」


僕と意地悪な男の子の間に一人の女の子が割って入った。村長の孫であるトモエだ。

「やべ、ゴリラの孫がきた。逃げろー!」

意地悪な男の子はトモエを見て逃げ出してくれた。


「大丈夫? やり返さないとダメだよ。トキノくんは優しすぎるんだから」

トモエが僕に手を差し出すが、僕は自分で立ち上がる。


「ごめん」と僕は言った。

「なんで謝るの? トキノくんが悪いわけじゃないのに」


トモエは首を傾げる。僕は何と説明すればいいのか分からず、黙ってしまう。トモエは友達に呼ばれ、僕の返事を聞くことなく「またあとでね」と云って去って行ってしまった。


謝った理由は簡単なことだった。彼女に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだったからだ。トモエはとても正義感の強い女の子だ。その正義感のために僕なんかを助けて、毎回面倒ごとに首を突っ込まなければならない。正しい気持ちで正しいことを行っている彼女に負担を与えている自分が好きになれなかった。放っておいてくれたら、その方が楽かもしれない。でも、そんなことは言えない。彼女は正しいことをしている。その気持ちを裏切るようなことは絶対に言いたくはない。


でも、僕は彼女の親切を少し迷惑に思っている。手間をかけさせてしまっているにも関わらず、有難迷惑だと感じているような薄情な人間である僕。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。そんな薄情な僕に神様が罰を与えたのか、帰り道にまたあの意地悪な男の子につかまってしまった。


襟首をつかまれて無理やり歩かされる。僕をどこかに連れていくらしかった。


「今度はあのゴリラの孫も助けに来ないぞ」


意地悪な男の子はそういって僕を山の上にある誰も使わない小屋まで連れて行き、その中に閉じ込めた。どうやったのかは分からないが、ドアが開かなくなり、外に出れなくなってしまった。


僕はすぐに諦めた。このまま、死んでしまいたい、と考える。痛いのは嫌だから、何も考えずに少しずつ意識がなくなって、眠るように消えてしまえたら良いのに。


夜になって僕は目を覚ます。消えてしまえば良いと願いながら眠っていたようだ。目覚めて、何も変わらず同じ世界にいることに失望する。どこにも行けるわけがない。誰かが助けてくれるわけでもない。分かってはいるのだけど。


外で物音がした。扉の辺りだ。もしかしたら、トモエがこの事態を聞きつけて助けに来てくれたのだろうか、と思って僕は扉を引いてみた。あれだけ固く閉ざしていた扉が、何事もなかったかように開いた。外に出てみると真っ暗だったが、同じ年くらいの男の子の背中が遠ざかっていくのが見えた。それはトモエではなく男の子の背中だった。見たことがある背中だ。


カネタという男の子だということが分かった。彼も学校の子供たちと馴染めていない。もしかしたら、彼は次にいじめられるのは自分かもしれないと思っているのだろう。それで、僕がいじめられているのを目で追っていたに違いない。助けてくれたのは罪悪感だろうか。それとも今後の保険のためだろうか。どっちにしても僕が彼に感謝して山を降りた。




夜になって僕が帰ると、おじさんもおばさんも心配した様子もなく食事をしていた。おじさんに関しては僕に何も言葉をかけることなく、おばさんは「あら、遅かったわね」とだけ言った。

彼らにとって僕の帰る時間なんてどうでも良いことなのだ。


僕の本当の両親は幼い僕を残して事故で死んでしまったそうだ。


おじさんが僕の死んでしまったお父さんの遠い親戚だったため、僕を仕方なく引き取ったそうだ。

彼らは食事や衣類の用意などは十分に用意してくれるが、他の親たちが子供を可愛がるように、僕に優しくしてくれることはない。だから僕は「いらない子供」なんて言われて、いじめられることがあるのだ。


でも、僕は彼らにとても感謝している。

彼らにとって僕は他人でしかない。それなのに、こうして不自由なく生かしてくれるのだから。例え、怪我をして帰ってきても心配そうな顔をしないとしても。


「早く食べなさい。貴方の分もあるんだから」

「ありがとうございます」

おばさんに言われるがまま、僕は冷めた食事を口にした。


寂しくなる日はない、と言えば嘘になる。

僕に親しさを与えてくれる人間はいないからだ。家族も友達もいない。僕は自分の存在価値を疑ってしまうことがある。生きている必要なんてあるだろうか。


親の愛情を受けずに育った子供は歪んでしまう、と誰かに聞いたことがあった。周りの子供たちに比べたら僕は親の愛情を受けているとは言えないだろう。


では、僕は歪んでいるのだろうか。周りの子供を見ると確かにそうなのかもしれない、と思うことがある。周りの子供は僕よりも感情が豊かだった。よく笑うし、よく泣く。僕は笑うことを苦手だった。いじめっ子に殴られて痛いと感じることはあったけど、涙は出なかった。僕は特別に変なのだろうか。だから、いじめられる。


でも、そうじゃなかった。僕は普通の子供だったと知ることになった。僕より変わった子供が引っ越してきたのだ。



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