浮上意識
真白。空もなく、太陽もなく土もなく。ただ何もない、無機質な視界。
静寂。そういえば、自分は呼吸をしているか。
…嗚呼、生きている。私はちゃんと存在している。もしや自分の鼓動すら聞こえなくなったのかと、勘違いするほどの無音。
現にこのような思考だってしているのだ。疑った私が馬鹿だった。
居るのは私、一人のみ。空虚な心に吹く、在るはずのない風が冷たい。
ここは未だ始まってすらいないのだろうか、それとも既に終焉を受け入れているのか。どちらにしても、やはりここには何もないのだ。
そう、何も。
懐疑。私はちゃんと存在している。そうちゃんと確かめた、筈だった。
ではこれは、一体全体何だというのだ。そのようなことがあっていいものか。
否、事実有りえているのだ。
私の意識は浮いている。足が地面に着いていないとかそういう問題ではない。足が、体が、この世界を捉えた目が。いまここで、これらの情報を統括するはずの脳が。
無いのだ。何も。
視界が真っ白になりそう。いやそういえば既に真っ白だった。
悪寒を感じる、吐きそうだ。今すぐ座り込んで泣き喚きたい。
だから出来ないんだって。動かすものが無いんだから―――
…できた。確かに私は座りたいと思った、だから視線が低くなった。
止まらない混乱。というか加速している気さえする。
もうなんかどうでもよくなって寝転んだ。空を見上げる。
青い、青い空を。
「????????????」
いや白いし、真っ白だし。私は何を―――
慌てて首を持ち上げる。剥げかけたビルのグレーが、街灯の錆びが、歩道のカラフルなタイルが、自分の服も手の肌色も。
分かる。いやでもやっぱり白色だ。分かるだけで、そこにあると捉えられるだけで色がない。
「まるで…」
まるで、なんだ…
あれだ、塗り絵か。「そこにはこの色が当てはまる」っていうのが理解できて、完成図が組みあがる感じ。
一発で真理に辿り着いた達成感。実のところ、何も解決していないのであるが。
…とりあえず、デカい道路のド真ん中に寝そべるというのはどうかと思った。移動しようか