■第1話 知ってたかい? ネコマタって尻尾が敏感なんだよ。
とりあえず1話だけの物語です。
見渡す限り広がる山々は雪に染まり、積もった雪は氷となり冷水を生み出す。
いくつもの流れが合わさり、そして流れて谷底へと集まる。
すぐ横は谷底という危険な細道。むき出しの岩肌が目立つ細い山道を歩む一行がいた。
「あぁ……やっとです。長かったぁ……」
透き通った青空を見上げ、白い息を吐き出す少女。
赤い頭巾に赤いミニスカート、白のエプロンドレスを身に着けている。
この時期には少し肌寒そうだ。
「何言ってるんだ、オーリ。まだ目的地は遥か先だぞ」
そう答えたのは全身を毛皮で覆った若い男性。腰に黒と銀色で装飾された見事な片手剣を着けている。
男が立ち止まり、後ろを歩いていた少女が男と並ぶ。少女の頭の高さは、男の胸の位置までしかない。
少女と並んだその男大きさはかけ離れているように見えるが、実際のその男の身長はおよそ170cm程しかない。
対して少女の身長は140cmと非常に小さめだ。そのため、二人はまるで親子であるかのように見える。
しかし、この二人の関係はまるで違っている。
主人と奴隷。男が主人であり、少女が奴隷であった。
「いえいえ。ご主人様! ベクトール様! ここなのです。私がずっとずっと待ちに待った場所……私の新たな始まりの場所がここなのです」
目を細めて遠くの景色を眺める笑顔の少女を怪訝な顔で眺めるベクトールと呼ばれた男。
そう、その男がボク。そして勇者と呼ばれているベクトール・フランベルだ。
ある日、ボクは魔物の捕獲を目的として森に入っていた。
魔物を捕獲する行為は『テイミング』と呼ばれ、自分で好きな魔物を捕獲して調教し、自分の冒険や他の目的に使役する行為だ。
偶然裸でぽつんと彷徨っているネコマタを発見し、ボクは捕獲を試みた。ネコマタはとても希少で、しかも良い種族特性を持っている。
ネコマタにボクをご主人様と認めさせることが出来れば、ボクにご主人様補正という強化がかかる。
特にボクのような一点特化型には更に強化が上乗せされるので、とても相性がいい。
ボクの『特殊技能』は、『剣技LV5』だ。『特殊技能』というのは、生まれ持って身に着けている特殊能力のことだ。
例外的に成長や外的要因で獲得できることもあるが、世間では特殊能力保有者がとても少ない。
更に、ボクは『アクティブスキル』の『片手剣向上』も所持している。
『アクティブスキル』とは、自身で任意のタイミングで使えるスキルのことだ。
この片手剣向上は、使用すると10分間片手剣での攻撃威力や攻撃速度が大幅にアップするスキルだ。
しかもそれだけではない。オーリの持つ複数のスキルや特殊技能を合わせると、ボクの剣技は超大幅に強化されるのだ。
おかげでボクは今現在『勇者』と認められる程になっていた。
いやぁ……オーリを捕まえることが出来て、ボクは本当に幸運だ。ボクが強くなれただけじゃなく、他の意味でも幸運だと言える。
何故なら、オーリはとてつもなく可愛く、そしてエロいのだ! 特に尻尾を強く握ってこするだけで、簡単に発情してくれる。
発情すると記憶が飛ぶらしく、ボクは好き勝手できるのだ。とはいっても、オーリは頑なに処女を奪われることだけは拒否してくる。
発情させて記憶を飛ばし、無理やりすることも可能だろう。だが、ボクはまだそれはしていない。
できればオーリに自主的に心を開いて欲しいという感情もあるし、何よりボクはオーリを調教して徐々に自分好みに変えていっている最中なのだ。
それが楽しくてたまらない。
ただ一つ不満なのは、貧乳な所だけだな。
ボクはそんなことを思い出していると、オーリがまた訳の分からないことを言い出した。
「ご主人様。本当に……本当に……今までお疲れさまでした。ご主人様とご一緒できて、私……本当に……本当に……」
振り向いたボクを見つめるオーリの笑顔は、感情がこもっていてとても可愛く見えた。
あぁ……可愛い可愛いオーリ。ボクの大事なオーリ。帰ったら可愛がってあげよう。もちろん性的に。
「最低でした」
オーリの冷たい言葉が風に舞う。
「何……?」
ボクはオーリの言葉に腹を立ててオーリへと歩み寄る。
「まだお仕置きが足りないよう……」
ジャリ……。
ボクは雪に足元を取られ、体制を崩してしまった。
「しまった……!」
転げた勢いで、雪の上を滑るボク。すぐ横には谷底だ。
「オーリ! 助けてくれ!」
ボクがオーリを見ると、冷たい目に口元を吊り上げたオーリがこちらを眺めていた。
「さようなら」
オーリは手を振っていた。だんだんオーリの姿が小さくなっていき、ついには見えなくなってしまった。
そして……ボクは谷底に落ちた。
ボクが目を覚ますと、目の前に1人の女性がいた。
白いドレスをきており、頭の上に耳がついていて、尻尾がうねうね動いている。
ネコマタなのだろうか。
周囲を見渡しても何もない。真っ白な空間。何もない空間が広がっていた。
ボクはその白い地面に座り込んでいた。
ボクは確か、谷に落ちて……助かったのだろうか。
痛みも特に感じない。体もどこも異常は無さそうだ。
「ここは……?」
ボクは目の前の女性に話しかけた。
パンパカパーン!
「はーい! オメデトウゴザイマス!」
どこからか音が鳴り、目の前の女性がしゃべりはじめた。
「あなたは死んじゃいましたー! なので、これから転生しまーす!」
右手を腰に当て、左手を上にあげ、腰をくねくねさせながら踊っている。
言っている内容ととっている行動のギャップが酷い。
これは……ボクを煽っているのだろうか。
「くっ……ボクが……死んだって本当なのか?」
「ほんとうなのデース!」
上にあげていた左手をボクの方に向け、ピースサインをして腰をくねくね動かしている。
本当になんだこいつは。
「てゆうか、お前さっきから何なんだ? 一体誰なんだよ! ボクが死んだっていうのにその態度はなんだ!」
ボクの言葉に女性はぴたりと動きを止める。
「あたしはネコマタ女神のネコーニャ様だよん。ネコマタにひどいことした人は、ネコマタに転生されるのです! それがあたしの役目。ヤッタネー!」
両手をボクの方に向け、ダブルピースで腰をくねくね動かして踊りだした。
「は!? ボクがネコマタに転生だって……!?」
「その通りデース! でも安心してネ。転生特典バッチリつけちゃう。はい、これ! どーん!」
目の前の何もない場所にスクリーンが表示された。
「なんだ……これ?」
「それがキミの新たな体のスペックよん! きゃー! スゴ~イ!」
種族名 ネコマタ
性別 女
□ステータス
基礎体力 E
基礎技術力 E
基礎筋力 E
基礎魔法力 E
基礎敏捷力 E
□特殊技能
転生特典その1 エキサイトメント パッシブ
転生特典その2 スーパーカム パッシブ
転生特典その3 スピードスター パッシブ
転生特典その4 勇者誕生
転生特典その5 エリアエンチャントメント アクティブ
転生特典その6 セクシャルバーサーカー
□種族特性
・発情期がある 一度発情期になると、いくまで治らない
・ご主人様強化 ご主人様が強くなる(男限定)
・周囲の異性を惹きつける
□スキル
キスエンチャントメント
バストヒール
□職業
性奴隷
これが……ボクの新たな身体のスペック?
でも、ステータス全部Eになってる。相当低いなこれ……。
なんか、知ってるのがいくつもあるぞ……これ、オーリも持ってたやつだな。
勇者誕生!? もしかして、これすごいんじゃないのか?
ボクがスペック画面を眺めていると、ぱっと画面が消え去った。
「え、もう消しちゃうの? まだ最後まで見てないのに!」
うろたえるボクに、前かがみになって顔を近づけ、指を左右に振るネコーニャ。
「そんなの後で見てくださーい! 最後に注意事項言っておくね! 前世のことは一切話せなくなるから、注意ね~!」
そ・れ・か・ら! と一言づつボクのおでこを指でつつきながら、ネコーニャは続ける。
「後キミは今後一切、人間や動物、魔物の命は奪えないからね! 微生物や植物はおっけーだよ! スゴイネ!」
そして、ネコーニャは嫌らしい表情でボクの顔を覗き込む。
「つ・ま・り! キミは今後一人で生きていけないの。誰かに守ってもらわないと生きていけない身体になるのだーっ! せいぜいいいご主人様を見つけるのね!」
言い終わると、人差し指でボクのおでこをピンとはじく。そして……。
パン!
ネコーニャは両手をはたいて大きな音を鳴らす。
すると、上空に黒い渦が現れた。
「さーて! キミの新たな旅立ちに災いあれ~!」
災いって……それに、一気に言われ過ぎて頭が付いていけてないよ。
そんなボクの都合などおかまいなし。
ボクの体の周りが光だし、急速に上空へと吸い込まれていった。
「待って待って!! うわぁぁぁぁあああああああああ!!!!」
目を開けると、ボクは森に放り出されていた。
どこだここ……あれ? なんとなく見覚えあるような……。
とりあえず、体の確認をしよう。
どんな感じなのだろうか。
え!? 全裸!?
落ち着け。とりあえず細部の確認だ。
まずは手。ほっそ! 細すぎるくらい細い。そして白い。
そして足。こっちも細い。すらっとしてる。
女性って書いてあったからな。きっと女性の体なのだろう。
そしてボクは胸元を見る。
ん? これは……。
微妙に胸はあるようには見えるけど、もう少し胸あってもいいんじゃないか?
それに、やけに小さくないか? 全体的に……。
ボクは立ち上がり、自分の視界の高さを確認する。
「うわぁ……すごい小さい! なんだこれー! っていうか、声……可愛いなこれ!」
しかし、裸というのはまずいな。何かないだろうか。
森の中を見渡してみたが、衣服など落ちているはずもない。
どうしよう。裸でうろつくのもなぁ。
すると、いきなりボクの体に何かが巻き付いた。
「え!?」
見ると、紐が両手ごと体に巻き付いていた。
ざざっ。何かが近寄ってくる音。
「やったぜー! 1回で捕まえた!」
男の声がする。
え? どういうこと?
ボクは後ろを振り返ると、猛ダッシュで駆け寄る男が見えた。
ボクを捕まえる気だ!
ボクは恐怖を感じ、そのまま駆け出す。
「ちくしょう……転生してすぐこれとか……あんまりだ!」
ボクは体の違和感に気が付いた。
体がすごく重い……というか遅い。
なんだこの体……運動能力まるでないんじゃないのか!?
これじゃ追いつかれる!
縛られた上半身が自由に動かせない。腕や体の勢いを速度に変換することができない。
必死に足だけで逃げるしかない。
「おらまてー!」
すぐ後ろに男の声が迫る。
まずいまずいまずい! 捕まったらどうなるんだ? ボク……確かネコマタだったよね。
ネコマタっていったら……オーリみたいな性的な奴隷にされてしまうんじゃ……?
浮かび上がるは、自分がオーリへ行った数々の行為。
ボクが……今度はボクがやられる……!?
「冗談じゃない! 捕まってたまるかー!!」
「捕まえたー!」
ボクはあっけなくその場で取り押さえられてしまった。
これはまずい状況だ。
せめて捕まえたやつが良識的な男であることを祈るしかない。
「くぅぅ……」
ボクはボクを捕まえた男の顔を見る。
そして、ボクは言葉を失った。
そこにいたのは、ベクトール・フランベル、かつてのボクだった。
どうしてボクがここに?
ボクは致命的な失敗をしてしまった。
呆然としてそのまま身動きもできなかったのだ。
ばちっと音が鳴り、ボクの首に首輪がつけられてしまった。
ボクはこの首輪を知っている。
『テイミングカラー』
この首輪を取り付けると、魔物は取り付けた主に逆らえなくなるのだ。
とはいっても、主を殺せない、傷けることができないといった程度だ。
主が死ぬまで有効で、自分で外すことはできない。
しかし、かつてのボクそっくりな男がもし本当にボクならば……。
ボクはまだ助かる可能性がある。
キミはもしかしてベクトールフランベルなのか?
「キミは……」
そこで言葉が詰まった。
声が出なくなったのだ。
どういうことだ!?
ふと先ほどのネコーニャの言葉が思い出される。
「前世のことは一切話せなくなるから、注意ね~!」
なんだこれは。何かの力なのか。
ボクが前世のことを話そうとすると制限がかかるのか?
そのままじっとかつてのボクを見つめてしまう。
「ボクはベクトール・フランベル。君のご主人様さ! うひひ、こりゃ大当たりだぜ!」
ボクを見て大喜びするベクトール。
やはりそうだ。この男はベクトール。かつてのボクと同じ人物で間違いないようだ。
しかし、これは未来のボク? 過去のボク? それとも平行世界のボク?
ボクは一度死んだ。ならば未来のボクという可能性はないだろう。とすると、過去のボクか平行世界のボクということになる。
信じられないが、ボク自身転生なんて信じられない状況にあるんだ。
何があってもおかしくはないだろう。
ベクトールは裸のボクの体をじろじろと眺めている。
完全に嫌らしいことで頭がいっぱいのようだ。目が垂れていて、鼻の下も伸ばしている。
バカ辞めろ! それは自分なんだってば! 中身は男なんだぞ! そんな目で見るな!!
「おっぱいが小さいのは残念だなぁ。だけどそれ以外は素晴らしい!」
ボクの胸をつんと突くベクトール。
「んっ……!」
全身に高速で広がる感覚に思わず喘ぎ声が漏れてしまう。
なんだこの感覚は。突かれただけで……。
「感度もいいみたいだねぇ。最高だ~!」
バカが浮かれている。
なんとかしてこのバカを冷静にさせなければ。
どうしたらボクが自分だとわかってもらえる?
「離せ! そして落ち着け! ボクはお前が考えてるネコマタじゃない!」
身体をくねらせてベクトールの腕から逃れようとする。
しかし、ベクトールはそんなボクを抱きしめてきた。
「逃げようったって無駄だからな! お前はこれからボクの性奴隷になるんだからな。あははは!」
ちくしょう!なんだこいつは。
思い出されるのは、かつてオーリを捕まえた時のこと。
確かにボクは昔、オーリを捕まえた時同じようなことを言った記憶がある。
ボクはこんなにひどい人間だったのか……。
オーリはこんな状況を耐えていたのか……っ!
「君に名前を付けてあげよう。うーん……そうだなぁ……セクスアルーネ オーリ。今日からはそれが君の名前だ!」
は? 今なんて?
「さあ、オーリ! 大人しくしていろよ。よしっと!」
ベクトールはボクの両腕を後ろで縛り、首輪についた鎖を手に持って立ち上がった。
「何でボクが、セクスアルーネ オーリ……?」
ボクは意味が解らなかった。
オーリはボクの奴隷だったネコマタだ。
なぜボクがオーリと呼ばれる?
まさか……ボクはオーリに転生したとでもいうのか!?
「そんな……ばかな……」
TS物を書いています。
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