大切なもの
俺はいつも兄さんの後ろについて行った。
兄さんは俺の誇りだった。
デカくて、たくましくて、強くて、
俺にないものを持っていた。
俺も兄さんみたいに
強いオスになりたくて
兄さんのあとを付けては
真似をしてみたりした。
俺は時々悪夢を見る。
でかいヤツらに囲まれて
必死に抵抗する俺。
虚しくもでかい奴らは
比にならないくらい力が強くて
呆気なく急所を捉えられる。
もがき苦しんで助けを求めても
味方が来てくれるどころか
でかい奴らがどんどん増えてくる。
そこで目を覚ますと
兄さんの背中が見える。
あぁ、兄さんだったら
あんな奴らこてんぱんに
してしまうんだろうな…。
落ち込む俺に兄さんは言った。
「強さを求めれば、
大事なものを失うだろう。」
俺にはその意味がわからなかった。
ある晴れた日。
俺は珍しく一人でいた。
兄さんの言葉が、
ずっと胸につかえていた。
朝露に濡れた葉が光を反射して
キラキラ輝いていた。
とても綺麗だった。
ふと目をそらすと
俺より体の小さい奴がいた。
こいつなら俺でも…。
とにかく勝ちたかった。
勝って自信に繋げたかった。
そんな疎かな考え方が
いい意味でも悪い意味でも
自分を変えることになるとは
その時は気づいていなかった。
俺は夢で実践したとおり
めいいっぱいの力で襲いかかった。
小さいやつはビクッと跳ね上がり
逃げようともがくが
力の差は明らかだった。
俺は心の中でガッツポーズをした。
これで兄さんに一歩近づいた…!!
トドメをさそうと右腕を振り上げる!!
動かない。
体が…動かない…!?
小さいやつを睨みつける。
小さいやつは意地悪く微笑む。
「悪いけど、私の勝ちみたいね。」
息が苦しい。
体がだんだん冷えてきて
頭がぼんやりする。
「体の大きさだけが力じゃないの。
私も、自分を守るので精一杯。」
視野がボヤけてくる。
力は完全に入らない。
それどころか体の感覚がなくなってきた。
「安心して。
今はゆっくりおやすみなさい。
お腹が空いたけど、今は待っててあげる。」
あぁ、兄さん。
こういう事だったんだ。
そんな難しく言うから
俺、分からなかったよ。
「兄さん…」
俺は間もなく、
消えてしまうのだろう。
今年3歳になる息子が
急にしゃがんだ。
「なに見てるの?」
視線の先には蜘蛛の巣。
そこに掛かったのは、
まだ成長しきってないであろう
小さなカマキリ。
残酷だが、これも現実。
息子は何を言うとでもなく
カマキリが蜘蛛の胃袋へと消えていくのを
ただただ見つめていた。
「何が強いのかわからない世の中よね。」
息子が私を不思議そうに見上げた。
「1番大切なのはね、自分の“命”なのよ。
さ、帰っておやつの時間にしましょ。」
手を繋いで歩くふたりの親子を
草陰から見つめるカマキリは
つらつらと涙を流していた。
ーENDー
大切なもの ~短編集~
初めて書いた小説なので伝わるか心配です。
とにかくなんでもいいので感想が聞きたいです。
お願いします。