フルートの1コマ
お別れ演奏会まであと3日。
「今日はほかのパートの練習度を見に行くので二人で練習しててください」
部活前ミーティングを終えたすぐ後のこと。
「じゃあ、俺も付いてく。柿原だけじゃ退部者、出しかねないからな」
「はぁ!?私だって最近、物言いは気を付けるようになったわ。私よりは下手なんだから練習しなさい」
「傷ついたー。全然直ってないね。先輩、行ってきていいですか?」
「いいよー。いやぁ、二人はイイコンビだね。未来の部長、副部長かなー?」
「副部とか上役はめんどいんで遠慮しときますよ。じゃあいってきます」
「いってらっしゃーい」
ブツブツ何か言っている柿原を引きずるようにして木管が集まっている階に向かう。
ウチの吹部は楽器ごとに練習する教室が決められていおり、かつ、金管は3階で木管4階、といった具合で階が分かれている。パーカスは部室だ。ただし、部室=音楽室というわけではない。音楽室は合唱部が使っている。
部室の隣は軽音部が使っているので毎日うるさい……下手だし。
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フルートの教室に行くと甲高い音が聞こえてくる。廊下で聴いていると、どうやらパート練をしているようだ。
「松尾君、グングン上達するわね。フルートっていうのは構造上、息が半分無駄になる楽器だから肺活量のある松尾君にはピッタリな楽器よね。最近はちゃんと似合うようになってきたしね。フフッ」
「ちょっとバカにしてるだろ……曲練やってるみたいだけど、やっぱり音程悪いな」
「フルートは音程が変わりやすいし合わせにくい楽器だからね。だからと言って妥協させるつもりなんてないんだから……しつっ「ちょっと待て。いいか、ダメ出しするときは相手のいいところを言ってからしろ、いいな?」
教室に入ろうとする柿原を止める。
「はいはい。失礼しまーす!」
道場破りかナニかのように勢いよく教室のドアを開ける柿原。
「先程から練習を聴かせていただきました。指もしっかり回っています。装飾系の音符も軽やかに響くようになりました。音量も申し分ありません。ですが、音程が最悪なので全て台無しです」
あーあ、最後でホメたのも台無しだよ……
「わかってるわよ……どう頑張ってもどうにもならないんだもの」
2年の先輩が反論する。
「頑張ったって、どう頑張ったんですか?頑張っているように見えないのですが……わかってるなら直してください。フルートの音程の合わせづらさは理解していますが、妥協はしません」
殺気立つフルートパート。
やばいやばい、松尾以外敵意むき出しだ……
「ストップストーーップ。今からもう一回頑張りましょう。なんか、いい練習法とかあるんだろ?」
柿原に落ち着けと、アイコンタクトを送る。
「コホン、いい練習法っていうものはそんなにないですけど……音程なんて一朝一夕で出来るものじゃないです。まず、それを再度深く肝に銘じてください。練習法の一つとして、音でリレーをしてください」
俺、知ってる……
「俺やったことあるぞ。前の人と音を被らせて吹くんだよな。1人8拍吹くとしたら、
12345678
12345678
12345678……
って続いていくんだ。中学んとき一時期やってたけど効果なくて止めたわ」
「そう、これは止めたら効果がない。習慣化し、忍耐強く続けなければならい。もしこの練習をするならば、柳井先輩から始めてください。先輩の音は先輩なだけあってイイ音してますから」
フルート2年、柳井千尋。さっき反論した先輩だ。
フルートは3年、前田智乃。2年、斎藤和葉。1年、松尾の計4人だ。
「気に食わないけどやってやる……練習するので出て行ってちょうだい」
「最後に、吹部は絶対音感ではなく相対音感が重要ですので、それを鍛える練習もしてください。失礼しました」
「お騒がせしました。きっと、音程がビタッと合えばもっと楽しいと思います」
「次はクラね」




