トロンボーンの1コマ
お別れ演奏会まであと4日。
「もう4月の下旬だろ?末に3年が戻ったとしてー自由曲決めて練習するだろで、5月に入るじゃん。5月末には前期のテストがあってすぐに体育祭。7月はまた期末のテストか……時間ないな」
練習している教室の予定表を見て愚痴る。
「そんなのわかりきったことじゃない。いちいち言わなくてよろしいっ。パート練しまーす。窓側を向いて横一列にならんでください」
パート練とはパート練習の略で、同じ楽器だけでする練習だ。逆に個人練と言えば個人練習を指す。ウチのパートリーダーは高遠先輩なんだけど……先輩曰く、
「私、口下手だから莉子ちゃんがやってくれて助かってるよ~」
と、まったく気にしていなかった。
こういう先輩でよかったと心底思う。気性の強い先輩だったらゾッとするぜ。
「莉子ちゃんっ!!!!!!」
滅多に声を荒げない先輩が声を張り上げる。
「窓は開けて吹いちゃダメなんだよ。ご近所迷惑になって苦情が来ちゃう!」
「それは先輩たちの音がただただ汚くて騒音にしかならなかったからじゃないですか?」
「そういう風に言っちゃう……?私の音は大丈夫ですみたいなこと言って平気?これで苦情来たら「おーい、お前たち苦情来てるからほどほどにしろよー」
ひと声かけて去ってゆく教師。
「……」
バンッ バンッ バンッ バンッ!!!!
勢いよく窓を閉めていく柿原。
「ぷっ、ぶははははははーー」
「莉子ちゃん、落ち着いて。莉子ちゃんの音は汚くないよ、むしろずっと聴いていたいくらいいい音してるよ、うん。でも、周りには少しうるさかったかもしれないね、うんうん」
机を叩いて大笑いする俺と必死に柿原をフォローする高遠先輩そして、耳まで真っ赤にして固まる柿原だった。
それからほどなくして平常に戻りパート練を始める。
「ハーモニー練習をします。4つカウントするので入ってください。1,2,3,4」
プパーーーー
出だしに異音が混ざる。
「あっごめん、入りミスちゃった。なんか緊張するんだよね莉子ちゃんと一緒に吹くの」
「柿原が泣かしたからな~」
ジトーと柿原を見る。
「あれは!悪かったと思ってるわよ。まさか泣くなんて……先輩、前はすみません。でも、先輩は上手くなってますし、ハーモニーのバランスの感じ方にはセンスがあります。自信をもって吹いてください」
「ふぇ、ありがと……」
「なんで泣くんですか!?冴木、私の言い方変だった?」
「変じゃなかったけど……」
さっぱりわからん。
「私ってトロいし、なんも取柄がないのに、面と向かっていいところ言ってくれたのが、認めてくれたのが嬉しくって。グスッ、ありがと。練習再開しようか」
涙を払い、花が咲いたような笑顔を見せる先輩。
柿原のいいとこは、素直にものを言うことだな。短所にもなるが……
こうして個人・パート練で1日は終わった。




