坂下高校吹奏楽部顧問、その名は
「冴木~、楽器片づけたらちょっと付き合いなさい」
怒涛のダメ出しが終わりやっと柿原から解放されたと思ったのに……
「いやだって言ったら?」
「貴方には、ハイかイエスか喜んでの権利しかないわ」
俺の目の前に仁王立ちし、豊満な胸を見せつけるように腕を組む柿原。もれなくドヤーという文字が背後に浮き出ているようだ。
「わーたよ。めんどくせー、なんで俺なんだよ……」
「だって……残った3年と冴木以外、みんな私を怖がるんだもの」
両手の人差し指の先端をくっつけ、ふてくされた表情をする柿原。
こういうとこ、みんな知ってたら親しみやすいだろうに……なんか妹みてぇ。
「ぷっ、片づけ終わったぞ。さっさと行って用事済まそうぜ」
つい、8つ離れた妹を思い出し柿原の頭をなでる。
「頭叩くことないじゃないっ!」
「叩いてねぇよ、なでたんだよ」
「ふんっ!!」
肩を怒らせ、ドッスンドッスン前に進む柿原。
「嫌なら嫌だってハッキリ言えばいいのに……女心ってめんどくせ~」
俺は柿原の後を追いながらつぶやいた。
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「A編成で挑むみたいね。課題曲はⅡってとこかな?」
「そうですけど……なんで課題曲Ⅱだってわかったんですか?マーチだったらもう一曲ありますし」
「だって聴いてたもの、あなた達の合奏。それから3年の引退宣言も。合奏で一番良かったのはⅡだった。最後にもう一回やったとき、抜けた部員分バランスは悪いところもあったけれど、居たと仮定すればいい演奏だったわ」
両手の指先を合わせ指の運動をする吹奏楽部顧問、尾崎正敏。白髪の混ざった髪、適度なしわ、細長の顔に筋の通った鼻、高身長。
渋いおじさんって感じなのにオネェ入ってるよ!!!キャラ強烈だ……
「は、はぁ。自由曲も自分たちで決めても?」
若干気おされている柿原。強気な態度が鳴りを潜めていた。
「いいわよ~。で、合奏はいつやればいいの?」
遊んでいた手から目を離しこちらを見る。
鋭い眼、すべてを見透かされているみたいだ……
「まだ決まってません。とりあえず3年生の問題を解決してから、先生には合奏を頼みたいと思います。今日は、私たちが全国を目指して練習することと学指揮が私になったことを伝えに来ただけです」
全国か……柿原がいるとできる気がしてくる。これからが楽しみだ。
「そう。今日は1年生に挨拶しようと思ったらあんなことがあってダメになった。1年生に挨拶は3年が戻った後の合奏にしましょうかね。さっ、もう帰んなさい。あと少しで下校時間よ」
「はい、失礼しました」
柿原の後に続いてさようならをしようとすると、あの鋭い眼に捕まる。
「冴木花さん。貴方、要領がよさそうね。逆に、あの子はまっすぐ過ぎる。例えば、自分の進む道に障害物があっても曲がることを知らないし、あってもはねのけてしまう。そんな強さを持つ彼女はきっと嫉妬され、羨まれたくさんの人とぶつかるでしょうね。それから、本気の本気で全国を目指している。でも理想ばかり叶えられるわけじゃない。だから、貴方が彼女の緩衝材になってあげなさい」
先生は酷く現実的だ……正直、全国はキツイそう言っている。ただし、無理とは言っていない……
「めんどい……です」
「わかったわ。引き留めてごめんなさいね」
見透かしているのか、ただただ柔らかく微笑む先生。
「失礼しましたー」
あーあ、あの先生としゃべると調子狂うわ。
俺は頭をガシガシ掻きながら帰路についた。




