楽しい
課題曲はⅠ~Ⅴまであり、1曲3~4分程度だ。大体2曲はマーチである。課題曲Ⅴは特別で、高校生、大学生しか演奏ができない。曲の難易度も上、ビャーバードガーンみたいな変な曲だ。
俺にとっちゃ、毎年課題曲Ⅴは良さがわからない。ただ、上手い学校は課題曲Ⅴが多い気がするな。まぁ誤魔化せそうな曲だし。
「1,2,3,4のカウントで入ってください。まずは課題曲Ⅱ行きます、1,2,3,4」
パラン、出だしがズレる。
柿原は無表情。俺は柿原の無表情が怖かった。
課題曲Ⅱはマーチ、ファンファーレからのクラやトランペットがメロディーを吹く、中低音の勇ましいメロディー、そして最初のメロディーに戻る。そこでユーフォニアムなどの対旋律が合流、ゆったりとした旋律に移行する。
音程がめちゃくちゃだし、テンポが遅くなってる……って笑顔っ!?柿原が笑みを浮かべているだと?
カツン カツン カツン……
優しい笑みとは反対に柿原は指揮棒で式台を激しく叩く。
こえーよ、柿原。
ゆったりとした部分を抜ければ、ファンファーレが響き、最後に向かって盛り上がっておしまいだ。
「みなさん、下手ですね。中学生からやり直ししたほうがいいみたいです」ニコッ
気まずい雰囲気が流れる。
言われるまでもなく、ひどいことはわかるからだ。それを笑顔で指摘されたほうがダメージは来る。
「なぜ、頭の、最初の音さえ合わないんですかねぇ?ブレス合わせてますか?中学生だって出来てますよ。それから、初見だとしても慌てないでください。私だって初見は間違えますから。間違えるなとは言いませんが、基礎はしっかりしてください……じゃあ次、課題曲Ⅳ」
コイツ、じわじわ来るタイプだ。正直、苦手だ。淡々と、そして笑顔で毒を吐かれると倍のダメージだ。なまじ、美人だから迫力満点だ。
それから、Ⅱを覗いた課題曲Ⅰ~Ⅳを吹き終わる。
「本当は課題曲Ⅴもやりたかったのですが、スコア通りの編成人数分居ないので無理ですね。最後にもう一回、課題曲Ⅱをやります」
「「「はいっ」」」
あーあ、柿原軍隊の完成だ……てかⅤもやる気だったのかよ。
「1,2,3,4」
パーパパパーパッパッ……
最初は上手くいった。後打ちが後ろに引き気味になってる……先輩っ気づいてくれっ。
高遠先輩にアイコンタクトを送る。すると、細かく楽器を縦に振る先輩。
気づいたみたいだけど、それでよくリズム崩れないなぁ……
「クラ、音抑えてください」
なんだろう、一回目より集中してる。みんな、調子がでてきたのか?さっきと別物だ。楽しい……みんなが一つでアンサンブルしているのがわかる。なにより、指揮がいい。上手く盛り上がりを伝えてくる。
「ファンファーレ、山を越えるように高らかと」
山なりに指揮棒を動かす。
パーパパパーパッパッ……
ファンファーレを担当している楽器が一つになったみたいだ。支えの低音もいい。
クライマックス直前、一旦落ち着きそこから一気に最後までっ!
パッパンパパパン
「楽しっーーーーーーー!!」
田中先輩が雄たけびを上げる。
そこから、みんなも興奮を爆発させる。
カツンカツン
「やればできるんじゃないの」ニィ
不遜な柿原の声が響いた。
しかし、誰一人も不愉快な気持にはならない。なぜなら、「できると信じていた」と聞こえるからだ。
この後は普段の柿原に戻り、怒涛のダメ出しが続いた。
「この集中力を毎回発揮できれば予選は突破できる。でも、全国には届かない。これ以上の集中力を発揮してください。それから、音程はもっと正確に。それからチューバはもっと音をクリアに。フルートは…」




