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嵐の前の静けさ

「楽器、運んだだけで疲れた……。正直、楽器吹くのがつらいわ」


 今日は初めての体育館練習の日。


 覚悟はしていたが、蒸し暑いことこの上ない。


「はーい。水分補給は済んだかしら?時間がないので始めるわよ」


 楽器を運び、水分補給タイムで休憩していると涼しげな顔で尾崎先生がやって来る。


「は、や、くっ!」


 どうしても人間暑さには勝てないものらしい。柿原でさえノロノロした動きになる。


 こうして、体育館練習は幕をあげた。


「さて、まずは課題曲を通しますよ。い、い、で、す、ね?」


 下手になっていたら承知しないぞ、と眼差しを送る尾崎先生。

1,2,3,4


 軽やかに始まる課題曲。暑かろうが寒がろうが曲を吹くときは爽やかに。楽譜に、身体に刻み込まれた音楽はもう消えることはない。

 さっきまでの重しがのったような雰囲気が一掃される。


 ユーフォの裏メロディーが山を作り、クラやサックス、トランペットが山の上から爽やかな風を運ぶ。


 中低音がその風を途切れさせないように、風の通り道を作っていく。


 途中途中、風はうなりをあげ、遠く遠くへ運ばれていくが最後は何事もなかったかのように消える。


パッパンパパパン


「トリオと木管はもっと楽器の動きをそろえて。パーカスは最初以外は全体的に抑えて、でもいい音で……では、自由曲」


1,2,3,4


チャァアアアン


 シンバルやバスドラの音と共に音符たちがあふれ出る。


「ストップ。シンバルっ!!その安っぽい音は何なの!?」


 出鼻をくじかれる。


「いい?打楽器は叩けば音が出る。そんなものはサルにもできる。でも、貴女人でしょ?吹奏楽やっているんでしょう?音色にこだわりなさい。叩く角度、接触している場所、接触している時間によって音は変わる。打楽器一つひとつとっても音は違うのよ」


 もう一度指揮棒を構える。


1,2,3,4


チャァアアアン


「ダメダメっ。基本がなってない!シンバルはピッタリ合わせるんじゃないのよ!!左手は下、右手は上。斜め下から右手のシンバルを入れて、叩くよりは擦るようにして鳴らすの。シンバルだけどうぞ」


チャァアアン……

「違う」……


 このやり取りを何度も繰り返す。


 シンバルを担当しているのはパーカス1年、神崎美琴。

 パーカスは3年、花岡芽衣子。2年、加賀さえ。同じく2年、暁かのん。計4人だ。


シャァアアアン


「それよ。最後にもう一回」


チャァアアン


「ダメ、退場。100発100中にしてきなさい」


「はい……」


 先生は何事もなかったかのように指揮を振り始める。

 神崎は静かに体育館を去った。


 一人ひとりが一音一音にこだわりを持つ。そうしなければ、全国には届かない。わかってはいても、できない焦りと不安が忍び寄り始めていた。


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