学生指揮者たるものは
部室、楽器庫を閉めようとするとバタバタと走る音が近づいてくる。
忘れ物か?
「ちょっと待ったぁああ!」
楽器を持った柿原が突っ込んでくる。
「あぶねぇな。待つから落ち着け」
「楽器、危ない……」
息切れをしながら楽器を片づける柿原。
「終わったわ、悪いわね。鍵は私が戻しておくわ」
部活あとは鍵を職員室に返さなくてはいけないのだ。
「別にいいよ」
「ダメよ、私が一番遅かったんだし」
「時間、ないぞ……」
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結局、みんなで戻すことになった。
「柿原ってー朝練してんのか」
「朝早めにいくとトロンボーンの音する……朝だけは弱いから朝練は無理だ」
鍵を戻す場所には借りた人と返した人を記入する紙があるのだが、柿原の名前がたくさん載っていた。
「そうよ。学指揮をやる以上は誰よりも上手くなくちゃいけないって私は思うの。だからよ」
話しながら学校を出る。
「でも、プロになるわけじゃないんだろ?」
「そうねー、なりたいとは思わないわね。ただ、指揮を振って人に教える以上は下手だったら説得力ないじゃない?私だったら絶対に嫌ね。部活における部長は集団の先頭に常にいなければならない。でも音楽に関しては指揮者は楽器の先頭に立っていなければならない。学生だからって指揮者は指揮者。それと、純粋に朝練しないと落ち着かないのよねっ、中学からの習慣なの。私はこっちだから、また明日ね」
当たり前のように言ってのける柿原。
「おー、明日なー」
「バイバイ……」
柿原が見えなくなる。
「すげーな」
無意識に言葉が出る。
思ったことを本当に実践する行動力に尊敬する。なによりも自分に甘くしないことにただただ、感動した。
「だな……」




