引退宣言
坂下高校吹奏楽部は1年12名、2年11名、3年8名、計31名だ。吹部にとっての大きなイベントは夏のコンクール。主にB編成とA編成がある。
B編成は30人以下のバンド編成で、自由曲だけ。演奏時間は7分以内と決められている。この編成で出ると全国大会はなく、東日本大会までしかない。
A編成は、高校生の部は55人以下のバンド編成で自由曲のほかに課題曲というものがあり、2曲演奏する。演奏時間は2曲合わせて12分以内。両編成とも時間をオーバーすると失格とみなされる。
つまり、全国に行くにはA編成で出なくてはならないし、大体は上限いっぱいで演奏する。そんな中で30人そこらのバンドが勝てるわけがない。
でも、全国に行くと言った以上は勝たなければならないのだが……
「私たち、引退させてもらいます!受験があるのにこれ以上練習を増やされたりしたら、たまんないわ」
歓迎会から数日後、部活初めのミーティングで部長が放った一言。田中先輩とトロンボーン3年の高遠心美先輩以外の3年が立ち上がる。
「ちょっと待てよ!ただでさえ人数がいないのにやめられたら困るぜ。みんなで全国行こうぜっ……!」
3年が抜けると、先輩を入れても24人。
出れないことはないが、さすがに厳しい。
「正直、全国行きは諦めているの。行けもしない全国のために時間を使って、受験失敗なんてまっぴらゴメンね。しかも、1年の柿原さん、うまいからって調子にのらないでほしいわ。下手くそ下手くそって耐えられないわっ」
確かに、面と向かってアイツは言うなぁ。しかも、先輩とか関係なしに下手だったら下手って言うし。トロンボーンの先輩泣かせたし……でも、立ち上がった先輩の中には入ってないんだよな。
「確かに、柿原はオブラートに包まず言ってしまいますが、ちゃんとアドバイスがあったハズです。ちゃんと聞いていましたか?」
「そうだよ!うち、泣かされたけど上手くなったときはちゃんと褒めてくれたよ?最後の夏、一緒に頑張ろうよ。去年悔しいって泣いてたじゃん!」
トロンボーン3年、高遠心美。おっとりとした先輩で、よく柿原に泣かされ、俺が慰める。どっちが先輩だかわからない先輩だ。でも、根性はあるし、トロンボーンが大好きだ。
ちなみに、トロンボーンの先輩は3年の高遠先輩しかいない。
「うるさいわねっ!引退するったら引「わかりました、一週間後お別れ演奏会を開きましょう。一週間後、部室に来てください。それから、私が学指揮をやらせていただきます」
「どうぞ、お好きなようにしてください」
無言の中、3年達が部室を出ていく。バタンと扉の閉まる音がより一層部室の空気を重くさせた。
学指揮とは学生指揮者の略で、指揮者が忙しいときに代わりに指揮を振ったり、合奏前の音合わせ(チューニング)を担当する。
中学の吹部は学校の先生が指揮をするが、高校では外部指揮者がいる場合がある。外部指揮者というのはプロの演奏家を雇い、指揮をしてもらうのだ。
ウチはお金がないので、もちろん顧問が指揮者だ。
「送り出していいのかよ?」
「いいわけないじゃない……下手でも演奏してくれなきゃ。私、言ったわよね。今のメンバーで全国に行くって。今のメンバーで演奏できる機会なんて今しかないのよ……大人になって集まろうたってそうはいかないしね。お別れ演奏会なんて言ったけどお別れなんてする気、さらさらないわ」
「柿原……演奏会って、何演奏するんだよ?」
うつむいていた田中先輩が顔を上げた。
「何か思い出の曲とかないんですか?」
「ない」
即答する田中先輩。
「はぁーー、わかりました。普通に課題曲を練習しましょう。今日で課題曲を決めて、この一週間で課題曲を極めます……返事はっ?」
「「「はいっ」」」
ここは、軍隊か何かか?
「そういえば、顧問の先生の合奏ってどうやって決めるんですか?」
近くにいた高遠先輩に質問する。
「自分たちで頼みに行くんだよ。この日に合奏お願いしますって。放任主義っていうの?ほとんどうちらに任せっきりだよ。あとね、指揮棒握るとすっごく怖いんだよ~」
「はぁ」
俺はこのとき、なめていた。そのことを後悔する。




