ギャップ
テスト明けの、久しぶりの尾崎先生の合奏が始まった。
「みなさん、テストはどうでしたかね?いい人も悪い人、職員室でよく聞かれますよー。悪かった人は頑張りましょう」
隣にいる柿原が固まる。
どうやら柿原はとても悪い人だったようだ……
基礎合奏を終え、課題曲に入る。
テスト前は自由曲がメインで合奏をしていたので課題曲は本当に久しぶりだ。
「は、課題曲に入ろうと思いますがー冴木!この曲はどう吹きたいのかしら?そして、どういうイメージを持っていますか?」
合奏で過ごした時間は、名前の君付けやさん付けを呼び捨てに変えた。
いきなり指されてドキリとする。
頭の中で曲を再生する。
「……とにかく華やかに吹きたいです。イメージは冒険者の旅路です。冒頭は冒険者がみんなに盛大に見送られる。トリオでは仲間が増え、最後は仲間と共に盛大に帰還します」
「はい、ありがとう。じゃあ…」
ランダムにこの質問をぶつけていく。
「わかりました。皆さん派手好きですねぇ~。正直言って、ウチの部では皆さんの吹き方はできません。皆さん、自由なイメージを持っていてよろしいのですが、課題曲だけは限定させてください」
目をつぶり、指揮棒を横に軽く振る。
「爽やかなイメージでお願いします。さらりと吹き終えて自由曲に移りたいんです。前にも言いましたが、迫力じゃ勝てません。では何で印象を付けるか?」
一呼吸を置く。
「課題曲と自由曲のギャップです。この2曲を吹くときは別人になってください。では、課題曲を通してみます。爽やか君、爽やかちゃんになってくださいよぉ」
1,2,3,4
パラン
カンカンカンッ
激しく指揮台を叩き、鬼の形相になる尾崎先生。
「ブレス意識して。もう一回」
空気が1,2度下がる。
1,2,3,4
息を吐き、吸う前に近くの人とアイコンタクトを取る。
パァーパパパン パァーパパパン
先生の一言でエンジンがかかる。
パッパンパパパン
通し終わる。
「一言、一言いえば変わるんですよねー。毎回、言わないとできないんで、す、かっ!前奏からバカのBまで」
突然のローマ字は楽譜に表示されているので、曲の流れが変わるところなどにAからアルファベット順にふってあるのだ。
この曲はA~Kまである。
長い曲になると小節番号になり、ローマ字も含め、練習番号と呼ばれる。
「クラ!音程が悪い。クラだけAから、どうぞ」
あーあ、捕まった。
捕まったとは、ある楽器が、ある部分だけをみんなの前で、できるまで吹かされ続けるのだ。
それが酷いときは退場となり、吹けるようになるまで1人またはそのパート全員が合奏に参加できなくなるのだ。
「はい。じゃあAからメロディーを吹いている人たち全員で」
どこかのパートが捕まっているときは、どうしても重い雰囲気が流れるので終わるとホッとした気分になる。
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「最後に。高校のコンクールでは音程が合って当たり前そして、基礎ができて当たり前の世界です。それからやっと全国に目指すスタートラインに立てるんですよ。ウチはただでさえ人数がいない。どこの学校よりも音程も基礎もできていないと目立つんですよ。コンクールにおいて、人数は大事です。中学から吹奏楽を続けてる方はわかるハズですね?」
中学の時、高校A編成の演奏を初めて聴いたときの衝撃はよく覚えている。ホール全体を揺らすような音圧。体の芯にまで響く音。
「そんな学校と戦うのです。音楽に勝ちも負けもないと言いますが、点数をつけられる以上は勝負事だと私は思っています。皆さんはどう思っているかはわかりませんが、今言ったことを念頭においてくださいね」
「起立、礼」
部長が号令をかける。
「「「ありがとうございました」」」




