お墓参り
「緑と家しかなかったな」
しばらく住宅地を歩き、雑木林の中を少し歩くと小さい寺のある墓地に案内された。
「田舎ですから。ここよ」
「池田綾乃さん、ね。もう花が供えてある」
墓石には花びらが少し茶色に変色した花が佇んでいた。
「1週間くらい前に命日だったから、親御さんが供えたんでしょうね」
お墓を綺麗にし、持ってきた花を差し替える柿原。最後にキャラメル一粒を供える。
「命日に行けばよかったんじゃ?」
「だって、部活を休むわけにはいかないでしょ。部活は這ってでも出ろって中学の時に叩き込まれたから」
「そうか」
こういうのが、吹奏楽部がブラックって言われる所以なんだろうな……
「先輩の好きなキャラメルですよ。天国にあるかもしれませんけど、食べてくださいね。あと、私ちゃんと友達ができましたよ」
しゃがみ込み手を合わせる柿原。
「友達の冴木花です。口は悪いけど、柿原はいい友達だと思っています。それと同時に、共に音楽を作り上げる仲間です」
しゃがむ柿原に倣って手を合わせる。
「綾乃先輩。私は坂下高校吹奏楽部で新しい音楽を自分たちのために、自分たちに関わってくれた人たちに奏でます。どうか、聴いていてください」
ザァアアアア……
強い風が吹き付ける。砂が舞い、二人とも目をつぶる。
「ない……キャラメルが、ない。きっと、先輩が食べてくれたんだよね」
ポロポロと涙を流す柿原。
「あぁ、誰が何と言おうと先輩が食べたんだ、きっと。だから先輩は俺たちの音楽を聴いててくれるさ」
この出来事を刻みつけるように、俺たちはゆっくりと帰った。




