部長の存在
「お早いお帰りで」
「えぇ、全くよ。やっと本気を出したと思ったのに、あの程度だったなんて」
職員室にて。
話しかけてきたのは隣の席の体育教師。
「高校生なんて、まだまだ子供ですよ。ケツひっぱたいてやらなきゃダメなものですよ。ハッハハハハ」
「下品な表現はよしてください。私の部活の子たちはちゃんと、自分たちで動きますよ。多少は……ひっぱたくときもありますけれど」
今年の代はどんな何色のハーモニーを奏でるんでしょうね。
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一方、部室では。
「「「……」」」
不測の事態に動けないでいた。
「みんなで、曲でも聴きましょうか」
さすがは部長というのか、第一に動く。しかし、声を発した後動かない。
「「「……」」」
「もしかして、どうすればいいかわからないのかなー?」
高遠先輩がのんきな声で言う。
「そ、そそそんなことない!!松尾君、セッティングお願いね」
わかってなかったんだな……そしてキター、吹部あるある。
機械系は全部男子。
「そういえば、楽器庫にスピーカーあったわ。松尾、俺が取りに行くからユーチューブ開いといて」
楽器庫のスピーカーの存在を思い出し、取りに行く俺。
「わかった……」
固くなった雰囲気がやっと柔らかくなる。持ってきたスピーカーにスマホをつなぎ、セットを完了する。
「羽田先輩、いつでも流せます」
「ありがとう。じゃあお願い」
流れ出す「春の猟犬」。
シンバルの威勢のいい音と共に始まる。音が溢れ、高音の軽やかな動きに低音の逞しい音が追い掛ける。そしてクレッシェンドで小さな山場を作る。
最初のように高音楽器が若さを表現するが、抑えて抑えて、同じフレーズをいろんな楽器がつないでいくことで若さ特有のムズムズした動きを楽器で表現する。
果てしない空に向かって吠える。無限に続く高揚感かと思えば、暗雲のような何かが漂う。しかし、それは決して悪いものではなく恋の前の嵐というものか。恋を経て、男の子から男になる。曲の中間部に入り、サックスが告げる恋の始まり。ホルンの優しい和音が、中低音の支えが、恋の幸福感を演出し、木管は恋の切なさを伝える。やがてペットによって、恋人たちの甘い時間はピークを迎える。フルートの繊細な音、そしてホルンがフルートを引き継ぎ甘い時間は終わる。
さて甘い時間は終わったぞと、木管から金管と同じテーマが引き継がれ、新たな物語が始まる。曲はじめとは少し異なる、甘さも持ち合わせた男の余裕が醸されているような後半。そしてラストへ向かう疾走感。すべての楽器が最後へ向かって突き進む。
パァアン
思わず、拍手が漏れる。
「今聴いてもらったのは全国大会で演奏されたものです。これはあくまでも、あくまでもっ!参考であって天地がひっくり返ってもおんなじ演奏はできません。これから、私たちは私たちの音楽を作るのです。いままでの私は甘かったと痛感しました。この曲を聴いて、いろいろと思うところがあったハズです。今から、本番に向かって心を一つにしていきましょう!!」
やっぱ、部長は部長なんだなーと実感する。
「「「はいっ」」」
ちゃんと、音楽というものに向き合ったのは初めてかもしれない。中学ではどこかに諦めがあった。どうせ上になんて行けっこない。それが音楽に対しての向き合い方に響いていたかもしれない。音楽がこんなにも自分に語り掛けてくれるものだなんて思いもしなかった。
「…木、…えき、さ・え・きっ!!何泣いてるの?大丈夫?」
「うおっ!泣いてたのか。自覚なかったわ」
「気持ち悪いわね。今日は最終下校まで練習する人は練習して、帰る人は帰ってよしだって。聞いてた?」
「聞いてなかった。サンキュウな」
練習するか……
「待って、私も教室行くわ」




