自由曲
「曲決めしなきゃーーー。30人ちょっとで演奏できるいい曲どこかに落ちてないかしらぁ~~~~」
部室にある譜面置き場に二つの姿。自由曲に使えそうな曲を柿原と俺は探していた。
「だから、なんで俺まで」
「1人だと大変だからよ。それと他の人の練習の邪魔できないじゃない?」
「俺ならいいのかい……」
「冴木は私より下手だけど上手いわ。最近は音も生き生きしてる」
「そりゃどーも」
できるだけ、声に感情を出さないよう努める。
やばいなー。褒められるのは慣れてるはずなのに……結構うれしい。
「そういえば、福島弘和の楽譜とかいい感じのありそうだけど?」
「そんなお金ないでしょう、ウチにはっ……うーん、とど、か、ないっ……」
棚の一番上にある楽譜を引き抜こうと手を伸ばす柿原。
「どれが欲しいの?」
「なんでもいいからなにか取って。冴木がいてくれてよかったわー」
「へいへい」
中々抜けないぞ……?
ぎっしり詰まった棚はだいぶ手ごわいようだ。
「いよーーーいしょっ!!のわっ!」
「バカ、危ないじゃない!」
バサバサバサ
大量の楽譜が落ちてくる。楽譜から柿原をかばうため覆いかぶさる。
「悪い、大丈夫か……?」
「大丈夫よ、さっさとどいてくださいっ!近いわよ」
「あっあぁ」
言われて気づくその距離の近さに多少ドキマギする。
バサッ
俺の背中に載っていたのか、動くと楽譜が落ちる音がした。
「これは……アルフレッド・リードの「春の猟犬」。これにするわっ!」
落ちた楽譜を拾い、眼を輝かせる柿原。
「さすがに無理だって……コンクールには向かない曲だぞ?それにみんながどういうか……」
「やれるもの。無理だって決めつけたら本当に無理になるんでしょ?できたらカッコいいわよー。この曲は目立たない楽器なんて一つもないの。そしてね、他の学校に見せつけてやるの、人数が多いいからなんなのってね」
「確かに……どうしても人数が多いバンドが正義になってるからなぁ。少人数バンドは日の目を見るなって感じの風潮あるよなー」
「絶対できる!尾崎先生もただ者じゃないわ。きっといい思い出にもなるはず」
ワクワクしてるコイツ見ると、俺までワクワクしてくる。
「とりあえずみんなに伝えてみるか」
「えぇ」
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楽譜を見つけたその日の帰りミーティング。
「今日、楽譜置き場から自由曲によさそうな曲を探しました。見つかった曲はアルフレッド・リードの「春の猟犬」です」
「ドラマでやってた!私知ってる」
ザワザワ
「中学で吹いたことあるけど、激ムズだった……」
ザワザワ
「そんな曲やるの?」
「ざわつくのは止めてください。楽譜を配りますから、家で聴いてきてください。シンプルな曲構成でとてもカッコいい曲ですから」
配り始める柿原。譜面を見たそれぞれの反応は絶望、または歓喜する者と2極化した。
「よさげな曲じゃない」
部長の一言で空気が固まる。
「「「……」」」
これでほぼ曲が決定したと言っても過言ではないだろう。