不協和音
お別れ演奏会まであと2日。
結局、柿原の調子は元に戻ることなく合奏を迎えた。
「チューニングします。B♭の音お願いします。低音からどうぞ」
チラリとバスパートを見るが昨日のことがなかったかのような顔をして吹いている。
ただ……音が心ここにあらずのような浮ついた音だ。まとまりがない……土台がこれじゃあ合わせづらい。
パーーーーーー……
チューバから始まり高音楽器が次々と重なってゆく。
音が合わない……うなってる。何も言わない柿原。
「ストップ。音程が悪いです。じゃあ課題曲Ⅱやります」
それだけ言って曲に移ろうとする柿原。空気がざわつく。
「今日の柿原さん、変じゃない?」
高遠先輩が話しかけてくる。
「そうですね……」
なにやってんだよっ……柿原はただ作業をこなすロボットのようだった。
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合奏の結果はサンザンだった。表情に出なくても気まずさ、確執は音に出るのか。それをなんとなく察知したのか他のパートまで気まずい音を出し始め。まとまらないったらまとまらない。技術は前回合奏した時よりも上がっているはずなのに、一体感がなく不協和音さえ出す始末。
その雰囲気を引きずったまま、お別れ演奏会当日が来てしまった。
「どうすんだよ……どうしたらいい……?」
昼休み、俺は廊下の端で頭を抱えていた。
「冴木、保健室行くか……?」
肩に感じる人の温かさ。
「松尾か。人の温もりってこんなに心に沁みるんだな~」
あんなに楽しくない演奏なんてもうしたくない……
「同感だ……柿原に何があったんだ?」
「えっ?人の温もりどうのこうのをわかってくれるのか!?」
「違う。楽しくない演奏はしたくないの方だ。心の声全部漏れてたぞ」
「まじか~。柿原にはカクカクシカジカってことがあってよ。それから変になっちまったんだ」
「そうか……俺は正直、神楽先輩の気持ちがわからない。なんとなくで楽しいのか?全力で練習するから楽しいって思えたりするもんじゃないのか?練習はつらいけど、自分の技術が上がって、経験者について行けたときは気持ちいいし、一体感が出て楽しい。なんとなくで技術なんか上がらないと思う……神楽先輩は勘違いしてる」
「だよな。柿原に聞かせてやりたいぜ、今の松尾の言葉」
「とりあえず、俺たちだけでも楽しんで演奏しよう……」
「そうだな」
俺の声は柿原に届かない……柿原が1人で立ち直るのを祈るしかない。
2人はそれぞれの教室へと帰る。もう1つあった影に気づかずに。