ホルンの1コマ
「ホルンって難しい楽器としてギネスに載ってるって知ってたか?」
「いきなり何よ」
「ホルンの音聴いてて思い出した」
俺たちは今、ホルンの教室の前にいる。
「まぁ、ある程度は誰でも吹けると思うわ。でもね、私には絶対ホルンは極められないと思った。ホルンは表現の仕方がたくさんあるけれど、ある分表現するには高度な技術が要求される。それを、私は一生やっても無理だと思ったのよ。それからホルンはベルに手をつこっむからその手も重要になっていく。音域もずっと高いとこ吹かされるしね。ホルン吹きは結構高度なことをしているのよ」
「そうなのか。今聞いて思ったことは、ウチんとこのホルンはそこまでホルンのことを考えてないと思うぞ」
「でしょうね……マイペースな人が多いようだし。でも、性格が出ているのか音が伸び伸びしてる。そこは長所ね」
がっくりと肩を落としながらもホメる。
そうしている今も放牧的な音色の音が聞こえてくる。
「失礼します」
「冴木君と柿原ちゃんだ。どうしたのー?」
反応するのは2年、花園美優。高遠先輩とよく一緒にいる。類は友を呼ぶのかおっとりしている。その他には3年、高橋きいろ。1年、真鍋美弥がいる。
「前回のダメ出しが直っているかチェックしに来ました。1人ずつ吠えてもらってもいいですか?」
「いいよー」
パォーーーーーー パォーーーーーー
「……もう少し強く。息をまとめて、私を吹き飛ばすくらいのイメージで吹いてください」
「うーん……厳しいよー」
物足りない表情をする柿原。
今は柿原の気持ちがわかる。ホルンの人達が必死に吹いているのもわかる。わかるけど……足りない。あと一押しだけ足りない。
パォーーーーーーー パォーーーーーーー
吹き続けるがやはり一押し足りない。
「下手くそ。中学生のほうがもっと上手いです。迫力があります。それでも高校生ですか?」
怒らせよう作戦か、なるほど。
「柿原さんうるさいよっ!!」
パォオオオオオーーーーーーーン
「それ!真鍋さんそれです。いい吠えよ。それに引き替え、花園先輩は恥ずかしくないんですか?後輩にもできることができなくて」
「怒らせようとしてやってることに怒れないよ~」
「はぁーーー」
大きなため息をつき、委縮する花園先輩に近づく柿原。
「ひゃん。お腹触られるとくすぐったいよー」
「私がお腹を押すので、押しのけるようにしてブレスをしてくださいね」
鬼だ……俺には角があるように見えるぞ。
「息吐いて、しっかり吸って。しっかり吐かないと吸えませんよ」
「ふぅ~~~~。はぁぁあああ~~」
「そうです。息は流すだけ」
パァァアアオオオオオオオーーーーン
「今の感じ覚えててくださいね。明日の合奏楽しみにしていますので。失礼しました」
「最後、すごくよかったですよ。お邪魔しました」