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【銀河連合日本外伝~おもてなし作戦を発動せよ~】

作者: とや松さん

 無限の銀河間空間。きらめく星々。

 ある星の物語……



─ケネディ宇宙センター─


【同・管制室】


「……どうしたISS?!アルファ応答せよ!アルファ応答せよ!」

 国際宇宙ステーションに響く衝撃。それはデブリでも船体の爆発でもなかった。


 人類文明と対峙する存在。


 未確認大型人工物体。コードネーム『ギガヘキサ』。

 全高600mにして対角線長10kmのこの巨大物体は、世界を混乱の渦に引きずり込んでいく…………。









======《銀河連合日本外伝~おもてなし作戦を発動せよ~》======









─首相官邸─


【内閣情報集約センター・危機管理センター】


 異星文明の襲来。


 似たような対策本部をポンポン設置するなど日本の危機管理に汚点を残した民生党の二の舞を避けるべく、官邸は初動対応に全力で取り組んでいた。


【同・官邸連絡室】


 指揮を執るのは、国家危機管理の長たる内閣危機管理監。

 内閣に21世紀初頭に新設された役職で、内閣官房長官等に直轄し、内政における危機管理を担当する。

 彼はその名に恥じぬ働きをみせていた。


「ホワイトハウスからの情報では…………」

「ギガヘキサとやらの映像拡大できないか!!?」

「総理に報告だ!!」

 ディスプレイの光に照らされる薄暗い室内に、怒号に似た指示や連絡が飛び交う。


 男が入室してきた。

「!……総理がお見えです!!」

「「総理!!」」

 立ち上がる一堂に「座ってくれ」とジェスチャーし、その男は危機管理監に歩み寄る。


 内閣総理大臣、二藤部新蔵(にとべしんぞう)

 民生党から政権を奪い返した自由保守党総裁だ。一般には保守系の改憲論者として知られている。


「わざわざお越しくださり恐縮です総理」

「緊急事態ですので。……天皇皇后両陛下、皇族方の避難は?」

「総理のご指示通り、既に陸自の輸送ヘリで松代(まつしろ)にご出発されました」

「よかった……」二藤部は安堵する。

「総理、現時刻を以て官邸連絡室を『官邸対策室』に格上げすることを進言します」


 官邸対策室は内閣危機管理監が室長を務め、関係各省庁との調整、内閣総理大臣への報告にあたる。

 初動対応であり、『対策本部』が設置される以前の段階である。


 二藤部は頷き、危機管理監に「頼みます」と一礼したのち、閣僚らと協議のために上の階へ戻っていった……。


【同・内閣総理大臣執務室】


【未確認大型人工物体に関する内閣総理大臣レクチャー】


 閣僚や官僚がソファーに座り、二藤部との協議を行っていた。

「よろしいですかい?」

 副総理兼外務大臣、三島太郎(みしまたろう)が挙手する。

「おお、お願いします」

「要は、あのお客さんを常にマークできる組織を作れれば良い訳だろ?」

 頷く二藤部。

「内閣官房副長官補の指揮下に『未確認大型人工物体監視委員会』ってのを作って、何かあれば内閣総理大臣を長とする『未確認大型人工物体対策本部』に改組すればいい。官邸対策室は24時間態勢を維持してもらいましょうや。内閣情報集約センターは別に危機管理以外で使ってもいいんですから」

「それしかないようですね、ではそれでいきましょう」


 総理大臣は忙しい。

 ブリーフィングを済ませると、彼はマスコミを待たせてある会見場へ足早に向かっていった。

 

 執務室のメンバーに迷彩服を着込んだ銀髪の男がいた。

 自衛隊統合幕僚監部統合幕僚長、戸村浩一(とむらこういち)

 統合幕僚長は他国軍の統合参謀長に相当する制服組トップである。戸村は海上自衛隊出身で、イージス艦艦長など申し分ない経歴……猛将として知られている。

 

 幕僚長たる将の階級章と、その緋眼をぎらつかせながら、戸村は考え込む。


(忙しくなりそうだな…………)


     *    *


【国民保護に関する情報:発射情報。先ほど衛星軌道に静止する未確認人工物体から、なんらかの飛翔体が発射された模様】


【対象地域:日本全域】


 ギガヘキサより飛翔体の発射。その一報に官邸は衝撃を受けた。


「未確認大型人工物体対策本部に改組!」


 日本国政府は、未確認大型人工物体監視委員会を『未確認大型人工物体対策本部』に昇格し、二藤部総理を本部長、三島副総理を副本部長とする、万全かつ最高レベルの対応にシフトしていった。


 また、航空自衛隊には、自衛隊法第22条『特別の部隊の編成』および『弾道ミサイル等に対する破壊措置命令』につき、『未確認飛翔体群対応統合任務部隊』の編成を指示。

 そして、陸上自衛隊には、同法第77条に基づき、自治体知事の要請による、国民の保護のための措置を実行するため『国民保護統合任務部隊』の編成を、内閣総理大臣の承認を経て、防衛大臣が命令した。

 

 防衛大臣は直ちに、航空自衛隊実働部隊の司令官たる航空総隊司令官を、統合任務部隊指揮官に任命した。


 統合任務部隊は、自衛隊の混成部隊であり、北の独裁国家が事実上のミサイルを発射したケースのように、自衛隊各部隊が参集される。

 大災害などでも統合任務部隊が結成されるケースが多い。単一の指揮官のもとに全戦力を結集した方が合理的だからだ。


 一方陸上自衛隊については、関東エリアの防衛を受け持つ東部方面総監を、統合任務部隊指揮官とした。


 無論、統合幕僚長たる戸村は、命令の伝達や調整などに忙殺されるのであった…………。



─首相官邸─


【同・内閣情報集約センター・危機管理センター】


 二藤部たちはこの国家危機に対峙していた。

 閣僚や官邸スタッフに加え、自衛隊、警察、消防、海上保安庁の担当者が二藤部を補佐する。


 戸村浩一統合幕僚長は()崎修二(ざきしゅうじ)防衛大臣とペアとなり、防衛省からの報告に備えていた。


 戸村が井ノ崎に状況を伝える。

「全部隊の配置完了。総理の下命があれば直ちに動けます。航空総隊司令官は対領空侵犯措置を発令しました」

「分かった……総理、全部隊配置完了しました。各基地の自衛隊機はスクランブル発進」さらに防衛大臣は二藤部に報告する。


 命令系統がまどろっこしいようだが、武官トップと言えども文民たる防衛大臣の配下に入らなければならないのだ。ゆえに、直接内閣総理大臣に報告することはできない。

 どこぞのリメイク怪獣映画でもそれはリアルに描写されていた。


 二藤部は「分かりました。引き続き連絡を密に。決して先制攻撃などないように」と応じた。

(分かってるよ総理……)戸村は少し不満に思う。


 しばらくして、現場からの映像中継が繋がる。


【渋谷スクランブル交差点中継映像】


 どよめく室内。ディスプレイには、商業施設上空を飛ぶ機影がはっきり写っている。その姿は、まるで…………。


「UFO…………」口をあんぐり開ける二藤部。

「ええ……UFOですね」とスタッフ。


 今更だが信じられない。ゆっくりと立ち上がる二藤部。


 その時だった。


【国民保護に関する情報:接近情報。先ほど衛星軌道上に静止する未確認人工物体が地球に降下。極東地域に進行中。東京上空通過の可能性あり】


 ちょうどその頃、UFOに名刺ぶちこんで説教垂れた突撃バカがいたことを戸村は知る由もなかった…………。


     *    *


 突撃バカがUFO……世界共通コード『ベビーヘキサ』とファーストコンタクトを取ってから1週間が経った…………。


 ギガヘキサおよびその艦載機ベビーヘキサとは通信が試みられたものの、応答がなく、各国は途方に暮れていた……。


 詳細は公表されなかったが、陸上自衛隊主体の国民保護統合任務部隊はベビーヘキサの誘導作戦を実施。主要都市および国家中枢への侵入を免れた。


 一方、航空自衛隊指揮の未確認飛翔体群対応統合任務部隊は、別段交戦状態に入ることもなく、暇を持て余していた……。


 政府は事実上の戒厳令であった非常警戒態勢を解除。弾道ミサイル等に対する破壊措置命令を維持しつつも、国民に日常生活に戻るよう呼び掛けた。


 だが、日本を取り巻く環境はむしろ悪化していった。


 国際連合安全保障理事会が、『日本隔離案』を採決しようとしていたのだ。相模湾に鎮座するギガヘキサを日本一国に押し付ける気であった。


 二藤部はすぐさま渡米し、日本隔離案を阻止すべく奔走している。


 日本国政府は、異星人文明ギガヘキサとコンタクトを取るべく、財界からの推薦につき、民間のビジネスネゴシエイター『柏木真人(かしわぎまさと)』を内閣官房参与級の『政府特務交渉官』に大抜擢。 

 柏木の、ベビーヘキサに名刺をぶちこんだ果敢(?)な行動が、ギガヘキサの日本への降下をもたらしたと考えられた。

 彼はベビーヘキサに指を突き立て「異星人、文句があるんだったらいつでも俺が受けてやる。俺はビジネスネゴシエイターの柏木真人だ。覚えとけ!!」と言い放ち、ベビーヘキサが面食らって退却したそうだ。


 そう、件の突撃バカは、人類初のファーストコンタクトに成功したのである。


 そんな彼も交え、各党の政策部会議員、各省庁の関係者や専門家、自衛隊制服組などを招集し、三島副本部長による『未確認大型人工物体対策本部』の数度目の会合が開かれていた……。


【首相官邸4階大会議室・未確認大型人工物体対策本部会合】


 政府関係者がいきいきと会議に取り組んでいた。

「ウチの消防艇も使えるよな?」

「陸自さんは先制攻撃なんかするなよ?」

「ではギガヘキサの基礎データ、対策本部内で共有してください」


 柏木の「乗るかそるかは政府次第」というアイデアは会議の流れを変えていた。


 資料を読み上げるだけの官僚の作文発表会に嫌気が差していた三島は、柏木の『妄想』に興味を持った。

 柏木の案は以下の通りであった。

・コミュニケーションが取れないのはバリアのせい。

・よって映像で意志疎通を図る。

・スクリーンは、ヘリコプター搭載護衛艦『いずも』の飛行甲板を改修することによって作る。


 統合幕僚長戸村は「その発想はなかった」とばかりに、目を輝かせ、柏木のプレゼンに聞き入っていた。

 

「……できますか?」柏木が尋ねる。


 戸村は目を瞑っていたが、やがて、「今ならできます」と。


 ここに、『未確認大型人工物体の防壁解除を目的とする作戦要綱』、通称『天戸作戦』の策定が決定された。


 天の岩戸。スサノオの傍若無人ぶりに業を煮やしたアマテラスが、洞窟に引きこもったという日本神話に由来している。神話では女神ウズメが外でドンチャン騒ぎをしてアマテラスの気を引き、結果的に引きずり出すことに成功する。

 戸村も日本人であるから、その由来はよく理解していた。そして、件のリメイク怪獣映画においても、日本神話のある飲料が作戦名に用いられていたことを思い出すのであった。


 この時、天戸作戦の発動まであと僅かであった。


     *    *


─館山─


【天戸作戦仮設指揮本部】


「いよいよだな」

 戸村は時計をちらと見、呟く。


 夕焼けのコントラストが大空を彩る。天戸作戦は当日を迎えていた。


 作戦司令官たる統合任務部隊指揮官には、自衛艦隊司令官加藤幸一海将が任命された。自衛艦隊司令官のもとに航空自衛隊の飛行隊、陸上自衛隊のヘリコプター部隊などが指揮下に組み込まれる.


 戸村は統合幕僚長として、仮設指揮所に駐在していた。

 この指揮所は、未確認大型人工物体対策本部を兼ね、副本部長たる三島や官邸スタッフたちが陣を構える。


 間もなく二藤部が到着する予定だ。


 マスコミも撮影の砲列を敷き、今か今かと待ち構えている。

 なぜかメディアはこの作戦名を『おもてなし作戦』としている。『天戸作戦』というネーミングを考案した特務交渉官殿は苛立ちを隠せない様子であった。


「遅れました」


 二藤部本部長が指揮本部に到着。と同時にスタッフたちが立ち上がり内閣総理大臣を迎える。


「加藤海将ですね?」と声をかける二藤部。

「天戸作戦統合任務部隊指揮官の加藤と申します。光栄です総理」

「日本国……いや全人類の未来が、この作戦にかかっています。どうかよろしくお願いします…………!」

 頭を下げる内閣総理大臣。加藤は恐縮する。


(気合い入れてかないとな……!!)

 戸村はその様子に、決意を新たにするのだった。


「……本部長、中露の戦闘艦艇がEEZに接近しています。作戦を始めて構いませんか?」首相に訊ねる加藤。

「はい。この機は逃せません。関係各省庁と地方自治体に作戦開始を通告してください」

「かしこまりました。──以後12時間、日本国内の全放送事業者に対し、放送準備の要請を実施」

"航空総隊司令官より連絡。空自第11飛行隊『ヤタガラス』、離陸"

「護衛艦いずも、出港。ゼロポイントを通過」


「──天戸作戦、発動!!」


【作戦第1段階 曲芸飛行部隊 ヤタガラス】


 高空を駆け抜けるブルーインパルス。


「ヨ」「ウ」「コ」「ソ」スモークで器用にメッセージが描かれる。


「曲芸飛行成功!作戦第1段階終了」

「作戦第2段階!花火打ち上げ開始!」

「了解!該当自治体に連絡」

『打ち上げ開始!』


【作戦第2段階 地方自治体による花火】


 色とりどりの火球が夕焼け空を彩る。

 

 その間にも護衛艦は最大戦速で突っ走り、ギガヘキサ直下へと突入する。


「護衛艦いずも、ギガヘキサ直下に到着した!」

「作戦、最終段階!特務援護中隊、行動開始!!」


 ディーゼルエンジンを唸らせ、湾岸を特殊車両が駆け抜ける。


【特務援護中隊 ヤタノカガミ 第1小隊】


【同 電源車群】


 ギガヘキサにサーチライトを照らす特務援護部隊である。

『特援01、各車!ヤタノカガミ01、各車!ブーム伸展開始』

『01から05は各車両アウトリガー展開。06から11はPoint-03進入後待機維持せよ』

『電源車接続!』


 カッと光線がギガヘキサを包む。


『アニメ投影開始!!』

 

【仮設本部】


 仮設本部にも、上空陸自ヘリ『アマツカミ』からの中継映像が届く。おお、と歓声を上げる一同。

「素晴らしいじゃないですか」二藤部は頷く。

 山代アニメーションの見事な作画で表現された「日本」がそこにはあった。

「……美しい日本ってやつですか?総理」

「それを言われるとつらいですが」

 そんな会話が聞こえてくる。


 戸村は祈った。

「日本の総力を結集したこの作戦、成功しろ」と。

 

 ビジネスネゴシエイターの妄想でスタートした天戸作戦。

 今、日本中の戦力と共に、人々の期待が集まっていた。









 おもてなし作戦を発動せよ。









 銀河異星文明の人々と日本人がセカンドコンタクトを取るまでに、時間はかからなかった…………









〇出演

戸村浩一(統合幕僚監部統合幕僚長)

谷川仁(内閣危機管理監)

その他日本国政府関係者

〇ゲスト出演

柏木真人(内閣官房参与 政府特務交渉官)

二藤部新蔵(内閣総理大臣)

三島太郎(外務大臣 内閣法に定める第1位の大臣)

加藤幸一(海上自衛隊 自衛艦隊司令官 統合任務部隊指揮官) 

その他日本国政府関係者

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〇参考資料

自衛隊法(総務省ホームページ)

Wikipedia(「統合任務部隊」「内閣危機管理監」の項目)

首相官邸ホームページ(PDF資料等)

オールアバウト自衛隊シリーズ(イカロス出版株式会社様)

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 松本先生のご厚意により【銀河連合日本 The Next Era】への戸村浩一のゲスト出演となりました。先生、ありがとうございます。

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 ご愛読賜りありがとうございました。【銀河連合日本】もぜひどうぞ。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様です。そしてありがとうございます。 文法的におかしいと思われる点が無かった事。私が気づいていないだけの恐れもありますが(冷や汗)。 [一言] 「天戸作戦」を二次創作とは恐れ入りまし…
[一言] 楽しく読まさせていただきました こういった視点で見るのも面白いですね
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