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やりすぎ実技試験

 俺の教室にシャリーがやってきて一悶着あった後、復活したシルフェは俺にやけに突っかかってきた。


 何か新しい杖を代わりに買ってあげるから、あの下品な女とは離れなさいとか言われたんだ。

 非常にありがたい申し出だったけど、俺に適した杖が見つかるまで待っていたら、単位が本当にヤバイので、丁重にお断りさせていただいた。


 すると、今度は実技試験で勝負して、シルフェが勝ったら今の話を飲めという無茶振りをしてきた。

 何というかさすがお嬢様っていう感じだ。自分のやりたいことをやりたいようにしたいんだろう。


 ということで、俺は初めて魔法の使える状態で実技試験にのぞみ、勝負まですることになった。


「今日の試験科目は炎属性の攻撃魔法、ファイアボールとファイアボールから派生する魔法です」


 炎魔法の基本から応用の試験と言った所か。シャリーはちゃっかり先生どころか、理事長に許可を貰って見学している。どうやら爺さんが理事長と友人だったらしい。

 今一緒に見学しているロリババアの理事長から借りたのか、シャリーは学生服までちゃっかり着てるし、何か妙にくすぐったい感じだった。

 だからという訳でも無いけど、格好悪いところ、見せられないよな。


「次、シルフェン・スタイン!」


 シルフェの番がやってきた。

 ファサッとお嬢様らしく髪をかきあげ、射撃場へと入場する。

 射撃場にはターゲットとなる木製の人形が設置されていて、その人形に向かって魔法をぶつける射撃訓練みたいな試験だ。


 射撃場にも人形にも防御魔法が張られていて、大火力な魔法をターゲットに向かって好き放題撃てる素敵な試験、それが昼飯を賭けての勝負となれば、俄然俺もやる気が出てくる。


 そして、シャリーもまたノリノリだった。


「シルフェがんばってー」

「キィーッ! あなただけには応援されたくないわよ! シャルロッテエエエエ!」


 あんなことがあった後で、よくシルフェの応援が出来る物だと逆に感心するなぁ……。

 まぁ、応援という意味では全く応援にはなっていないけど、結果としてシルフェは闘志を燃えたぎらせているようで、シルフェの周りに赤いオーラが漂い始めていた。

 もともとシルフェは火の魔法が得意で、魔力があふれると火の属性を帯びた力場を身体の周りに作る癖がある。

 つまり、今のシルフェは本気モード。実技成績No1の意地を賭けてこの試験に望んでいる。


「ファイアボール!」


 まずは基本のファイアボールから。

 シルフェの赤い宝石が埋め込まれた杖から、人一人飲み込めそうなほど巨大な火の玉が発射され、人形をバラバラに吹き飛ばした。

 一見簡単にバラバラにされた人形だが、実際はかなり難しく、並の魔法使いの魔力でこんなことはなかなか出来ない。

そこはさすが学年最強の炎使いシルフェと言った所で、基本のファイアボールでも他人の上位魔法なみの破壊力を出していたのだ。


「次! トリプルフレア!」


 ファイアボールの派生技で火球を連続発射する魔法だ。単純に三連射すると見せかけて、一発目、二発目は牽制で、三発目の火球が大爆発を起こすため、動き回る敵に使うタイプの魔法だ。

 なんだけど、シルフェの場合は一発目から威力が高い。そのため――。

 ズドン! という爆発音が三連続鳴り響くと、三体の人形がバラバラになって吹き飛んでいた。

 シルフェは牽制用の火球を強化し、三方向同時に敵を倒す魔法に応用していた。

 最初の強いファイアボールくらいなら出来る生徒もいるけど、ここまでやれるとなるとシルフェ一人しかいない。

 そして、最後には彼女とっておきの大技が射撃場を真紅に染める。


「最後! エクスプロード!」


 お馴染みの炎による広範囲爆破。目の前が真っ白になるくらいに眩しい光と炎が射撃場を踊り、中にあった人形が全て消し炭に変わっている。


「ふぅ、こんなものかしらね? あなたに私が超えられるかしらエスト?」


 シルフェは試験から成績を聞かずに、髪をふぁさっとかき上げながら俺の前に戻ってきた。


「相変わらず、シルフェの魔法はすごい威力だな」

「おほほ、当然よ。私はシルフェン=スタインなのですから」


 そう。自分でも言っているけど、スタイン家とかいう貴族のお嬢様なのだ。

 お金もある、地位もある、それに本人に能力もある。だからこそ、分からないことがある。


「というか、気になったんだけど何でそんなに俺のことを気にしてくれるの?」

「っ!? あ、あなたが気にくわないからですわ」


「へ?」

「どんな苦境でも曇らないあなたの目が好……いいえ、あなたが筆記試験だけは学年一位を私から奪い続けるからですわっ!」


「えぇぇ!?」


 言いがかりにも近い私怨だった。勘弁してくれよ。ただでさえ実技試験は点数ないんだから、筆記試験まで下がったら俺はこの学院にいられないっての。

 まさか杖をくれると言ったのも、俺が実技試験に時間を割けば、筆記試験で俺に勝てると思っているからとか? そう考えるとさっきの押し売りも納得出来るな。


「次、エストール!」

「あ、はいっ。悪いなシルフェ。俺行くわ」


「ふん、精々私の後で恥をかいていらっしゃいな」

「あ、忘れるなよ。俺が勝ったら、お昼ご飯おごってくれるって約束」


「ふん、勝てたらね。勝てる訳ないでしょうけど。まぁ、あなたが負けても、頭を下げればいつものように恵んであげても構わないわ」


 ラッキー。どっちに転んでもマシな飯にありつける。

 そう反射的に思ってしまうほど貧乏に毒されている自分が悲しかった。

 あぁ、早くこのどん底から抜け出したい……。

 ため息をついていると、先生から早くファイアボールを撃てと急かされた。

 そうだな。早く撃って抜けだそう。このどん底の学院生活から!


《魔法:六属性全解放、攻撃魔法全解放、補助魔法全解放》


 魔剣オルビス・ラクテウスからシステム音声が頭に響き、準備が出来たことを知る。

 昨日はちゃんと撃てたんだ。今日だって絶対にうまくいく。

 俺は焦る気持ちを落ち着けさせるために大きく息を吸い込んでから、魔法の名前を叫んだ。


「ファイアボール!」


 魔剣の切っ先を射撃場の人形に向けると、剣の先端から拳大の火の玉が人形に向かって放たれた。

 後ろの方ではクラスメイト達が俺の初魔法に驚きつつも、小さいだの、しょぼいだの、まるで子供の魔法だのなんだの好き放題言っている。


 でも、すぐに彼らは黙り込んだ。


 目の前が光に包まれ、龍が吼えたような爆音で他の音が消えたせいだ。

 というか、数人が衝撃で気絶したらしい。ばたばたと倒れる音が聞こえた。


「ふぅ、よかった。ちゃんと魔法が使えた」


 炎が晴れると、そこは射撃場とは言えない何かに変わっていた。

 下を見れば地面が円形にえぐりとられ、学院の床下に配管された水道管から水が勢いよく飛び出している。

 上を見れば結界の張ってあった天井は吹き飛び、透き通った青空が広がっていた。

 あー……やっちまった。校舎を思いっきりぶっ壊した……。

 謝れば許してくれるかなぁ……。


「えっと、先生、次はトリプルフレアでしたっけ?」

 

 絶対に謝って許して貰えそうにないので、何事もないかのように振る舞ってみた。

 俺が悪い訳じゃないんですよ? 勝手に校舎が爆発しただけです。みたいな体を必死に装うのだ。

 なんて言ってスルーされる訳がないよな!?


「エストール! 誰がエクスプロードを放てといった!?」


 放心している先生に代わり、ロリババアの理事長がこちらに駆け寄ってくる。


「いや、ただのファイアボールだったんですが……」

「バカ言うな!? ただのファイアボールで障壁結界を破れるか!?」


「いや……本当にファイアボールだったんですよ」

「冗談……ではないのか?」


「冗談だったら良かったんですけどね……」

「なんということだ……入学審査の水晶占いはやはり本当だったのか……。これがファイアボールということは……この男の魔力は……」


 今から一緒に草原へ行きましょう。本物のエクスプロードの痕というものを見せてあげますよ。昨日草原でエクスプロードをぶっ放してクレーターを作ったのは俺です。是非爆発の規模を比べてみて下さい。規模が全然違うでしょう? なんて絶対に言えない。


「エストール君、私は今君のせいで大変悩んでいる」

「えっと……?」


「君を獅子王決定戦に推薦するかどうかをだ。シャルロッテ君に君が魔法を使える武器を作ったと紹介されてまさかと思ったのだが、ここまでとは思わなかった。正直な感想を言おう」


 ごくりと思わず俺は息を飲んだ。

 一体どういうことなんだ? 何でこんなにもったいつけてるんだ?


「君なら恐らく、いや、間違い無く優勝出来るだろう。この魔力があれば恐らくどんな相手も一撃で倒せる」

「まじですか!?」


「あぁ、この力が冗談は言わない。君は強すぎる」

「よっしゃ! やったなシャリー! これで俺達の目的が達成出来るぜ!」


 思わずシャリーにVサインを送ると、シャリーも親指を立てて喜びを返してくる。

 これで二人揃って借金生活ともおさらばだぜ。


「だからこそ、君を出さないという選択肢がある。魔法を使えない昨日までの君なら、確実に推薦したのだがな」

「なぜ!?」


「いや、これ、人にぶつけたら、死ぬだろ? 絶対に」

「あ……」


 理事長が指さした先には惨劇というか、隕石でも落ちてきたかのような惨状が広がっている。

 魔法で保護されている人形は跡形もなく消し炭になっているし、瓦礫も蒸発したんじゃないかってくらいに少ない。


「闘技大会で人が死ぬことはある。だが、この威力の魔法は間違い無く人を殺しての勝利になるぞ」


 ここにきて人生第二の落とし穴が待ち構えているとは思わなかった。

 強くなりすぎて、力が使えないという同じ理由で、せっかく這い上がったのにまた落ちることになる。

 そんなのは嫌だ。それに今、この話を聞いて悲しんでいるシャリーの顔を見るのが嫌なんだ。

 あいつと俺は一緒に這い上がると決めたのだから。何とかして出場しないと!


「闘技大会では人にあてません!」

「何だと? どういうことだ?」


「魔法は人に当てません。あくまで牽制手段にします。補助魔法を自分にかけて剣とか拳で戦いますから、俺を獅子王決定戦に出場させてください! お願いします!」

「ふぅー……仕方無い。ただし、約束は守れ。人には当てるな」


「ありがとうございますっ!」

「勘違いするな。君のためではない。友人の孫娘のためだ。良いか? 勘違いするなよ?」


「まさかのツンデレさんだった!?」


 見た目がロリなので、やけに可愛く感じた俺はきっと末期なのかもしれない。

 ちなみに、昼飯の件だけど、シルフェが気絶して寮に運ばれたせいで、俺とシャリーは二人で一つのパンを分け合って食べることになった。

 当分俺の貧乏生活が続きそうで、涙が出るぜ……。本当にどうしてこうなった!?

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