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アフターストーリー:約束

 大会の打ち上げも終わった帰り道。

 俺とシャリーは二人きりで並んで工房に帰っていた。


「エスト、私は最強の武器を作り上げたけど、鍛冶士として自立は出来てないんだ。今も黒字ギリギリのトントンで、いつ転げ落ちるか分からないからさ」

「突然どしたんだ?」


「いいから、最後まで聞いてよ。だから……えっとね……」

「ん?」


「いつか私がちゃんとこの工房を切り盛り出来るようになったら、エストの言ってくれたこと……考えてあげる。……打ち上げの時にプラネさんから……私の来る前の話聞いた……。エストの言ったこと……ちゃんと意味……分かったから」


 シャリーが俺から目を反らして、もじもじと手を揉んでいる。


「俺の言ったこと? ……あ」


 急に顔に血が集まって、俺の頭がオーバーヒートしそうになる。


「エストのこと……私も……好きだと……思うから……」

「えっと……」


「杖を作ってる時、エストのことばっかり考えてた……から……。多分……そうなんだと思う。レオンの時はそうならなかったから……。私……恋って良く分からないけど……。エストが……私のこと……考えてくれるの……嬉しいから。エストのこと……考えると……楽しいから……えっと……」


 まったく、本当にどうして俺はこんな子を好きになったんだろうなぁ?

 この態度がメチャクチャ可愛いからだよ。

 何なの? これがあのシャリーなの? 鍛冶のことしか頭になくて、メチャクチャな借金背負って、俺とパンの耳を取り合ったシャリーなの?


「んじゃ、俺もちゃんと国仕えの魔法使いにならないとなぁ」

「へ?」


「シャリーがいつ破産しても良いように、稼いでおかないとな」

「ひっどーい! 絶対エストより儲けてみせるんだから! 逆玉の輿させてやる!」


「ぷっ、ハハハ。どんな告白だよそれ」

「エストを一生捕まえとくための告白だよ」


 なるほど。確かに魅力的なお誘いだ。逆玉の輿は願ってもない幸運だよ。


 こんな冗談みたいな約束がいつか本物に変わる。



 俺達の出会いの話はやっぱり後世に呆れられ、笑われ、そして祝福された。


「今だと信じられない話しだね。お母さんはちゃんと立派に工房を大きくして弟子までとってるし、お父さんは大魔導士としてみんなに頼られているし。さっきの話し本当なの? 二人が超貧乏で大変な……、違うな……。変? なことがいっぱいあったって」


 二人の間から生まれた女の子が呆れた様子で笑っている。


「まぁ、俺達二人なら何でも出来たからな」

「ふふ、そうね」


 昔を思い出し、俺達はくすくすと笑い、最愛の娘の顔を見る。

 俺達の苦労のかいあって? お金で苦労することなく、すくすくと元気に育ち、あの時のシャリーと比べても劣らないほど元気の良い子になった。

 だからこそ、俺は久しぶりにそうしようと思った。

 そして、どうやらシャリーも同じ事を思いついたようで、俺を見ていたずらっぽく笑う。


 俺達はタイミングを合わせて息を吸い込み、言葉のタイミングを合わせた。

 二人が初めて会ったとき、互いの生活と置かれた状況を知って、ちょっとした連帯感と友情を感じた。あの時に見せた最高の笑顔とともに。


「「今日の晩ご飯はパンの耳!」

「どうしてそうなった!?」


「「安心しろ。ちゃんとスープと肉もつけるから」」


 俺とシャリーの提案に、娘から俺譲りのツッコミが入った。

 これは俺達が夢を叶えて、充実した毎日を手に入れた出会いのお話し。

 その結末は、間違い無く俺達らしいハッピーエンドだった。

 俺は――

 私は――

 この結末が大好きだ。

完結。次作でまたお会いしましょう。

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