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アフターストーリー:エストとシャリーの武器

 戦闘中に余所見は良くないのだけれど、ほぼ反射で彼女の姿を探していた。


「エスト! 受け取って! エストの新しい杖を!」


 シャリーの手の中には真っ黒な杖が握られていた。

 シャリーはその杖を槍投げでもするかのように闘技場の中へと放り込んでくる。

 ドスッと地面に刺さった杖は、先端が翼を広げた鳥のように左右に広がっていて、六色の宝石がその翼の部分に埋め込まれている。


「お前レオンの剣を作ってたんじゃないの!?」

「作ったよ? 値段をおまけする代わりにその杖の材料を取ってきて貰ったの」


 え? ということは必死になって作ってた武器ってこれの事だったの?


「その杖はエストのために作ったエストだけの杖!」


 俺の杖。世界でただ一つ、シャリーが俺のために作ってくれた杖。

 散々杖をぶっ壊してきたから、今回ももしかしたら――。

 なんて気持ちは全くわき上がってこなかった。

 シャリーが俺のために作ってくれたんだ。あのバカなら俺以外が使えないバカみたいな仕様の産廃チート武器を作り上げるに決まっている。


「その子の名前は! 運命繋ぐ翼のファートム・アーラ! 私とエストを繋ぐ杖!」


 レオンは俺がその杖を取るのを待ってくれている。

 こういうところは義理堅いというか、空気読んでくれて助かるよ。普段からもっと空気を読んで欲しいわ。


 ん? 空気? あれ? この展開どこかで……。


「シャリー! これいくらすんの!? お前金貨百枚近く使ってたよな!?」

「驚いて、私に後で感謝しなさい! 誕生日プレゼントよ! 来週誕生日でしょ!? つまりタダ!」


 マジで!? シャリー愛してる!

 という言葉が喉から出かけた。そっか。そういえば誕生日だったっけ。

 あぁ、くそっ、今まで全部のモヤモヤが吹き飛んだわ!


「シャリー! ちゃんと見てろよ! 俺が勝つところ!」


 格好付けてそんな台詞を言っちゃうほどに、俺はテンションが上がっていた。

 シャリーが見ている。負けられない。負けたくない。

 俺が黒い杖に触れると、杖から黒い羽根が舞い散った。

 何かが今ここで羽ばたいたような、そんな幻覚が見える。そして、幻聴のようにシステムメッセージが聞こえた。


《全属性解放、全魔法解放、オルビス・ラクテウスを認識。近接戦闘形態に移行可能》


「へ? 近接戦闘形態? フレアソード? うわっ!?」


 聞き慣れない言葉を口にした途端、魔剣の方が反応して、いきなり宙に浮いた。

 そして、魔剣の柄が杖の翼の中央に突き刺さる。

 それは杖というよりかは一本の矛のような姿だった。

 だが、それで変形は終わらなかった。

 真紅の宝珠が輝きを放つと、魔剣を軸に炎が吹き荒れ、杖を柄に、剣を軸に、炎を刃に見立てた巨大な剣が現れた。

 まるで神様が振るう剣のように大きく、美しかった。


「杖が魔力を剣の形に制御してるのか? しかも、出力を自分の意思で調整出来る!?」

「エスト、魔法が強すぎて困るって言ってたでしょ? だから、魔剣は魔力を解放するために、杖は魔力を制御するために使うの。これでエストは自分の力を怖がらず、思う存分魔法使いが出来るよ! 私のオルビス・ラクテウスとエストのファートム・アーラ、私とエストの最高傑作をみんなに見せてあげてよ!」


 シャリー、本当にお前に会えて良かった。

 だから、もう一度、今度はお前がいるここで言おう。


「レオン、シャリーはお前に渡さない」

「ハハハ、吹っ切れたようで何より。だけど余計に君達が欲しくなってしまった。この気持ち、まさしく愛!」


 レオンの全身が輝きを放つ。

 ふざけたことを言っているけど、レオンは本気だ。

 その本気に答えるために俺も全力で剣を振るった。

 レオンの紅剣と俺の炎剣がぶつかりあい、ガキィンと甲高い音が鳴る。

 剣の戦いは互角。だが、俺の剣は、いや、シャリーと俺の剣は杖でもある。


「死なない程度にこんがりだ! 吹き荒れろ! フレアストーム!」

「僕も本気を出すときが来た! 全裸万能の極みを見せよう!」


 そして、俺の呪文で杖から炎が吹き荒れ、会場一帯が真紅の光で包まれた。

 同時にレオンの身体が金色に光、弾けるように下着の布が飛び散った。

 幸い炎の光で中身は見えなかった! 一歩遅かったらやばかったぜ!


 その後、炎が晴れると、その場に残っていたのは――。


「健在! 両名共に健在です!」

「いえ、待って下さい! レオン選手の下着がなくなっています!」


「あぁっと!? モザイク案件だああああ!」

「そうなんです。全裸になって、はっきり見えてしまうことが問題なのです」


「そうですね。大問題ですよ。女性の方も男性の方も直視出来ないですよ」

「いや、そうではなくて……。まぁ、そうなんですけど」


 剣を真っ直ぐ振り抜いたままの姿でレオンは立っていた。

 幸いポーズ的に大事な部分は隠れている。安心して下さい、はいていないけど見えませんよ状態だ。


「レオン選手の森羅万象のオーラが消えているのです。全裸万能と言っていたはずが、全く発動している気配がありません」

「ということは?」


「この勝負! 決着がつきました!」


 審判が腕をクロスして、レオンの気絶を告知する。

 その瞬間――。


「「勝者エストール!」」


 俺は拳を突き上げて、皆の声に応えた。



 で、全て終われば格好良く終わったんだけどなぁ。


「「プロポーズ! プロポーズ!」」


 会場は異様な雰囲気で盛り上がっていた。

 事情を全く知らないシャリーはおたおたするだけで、何故自分が闘技場の中心に連れてこられたのか全く分かっていないようだ。


「エスト、何がどうなってるの?」

「あー……まぁ、色々ややこしいことがあったんだよ。レオンのせいで……」


「あはは。あの人も面白いからねー」


 納得しちゃったよ。レオンの信頼度って一体……。俺、そんな相手に嫉妬してたのか……。


「杖、ありがとな」

「えへへー。エストは魔法使いだから、ちゃんと杖を作ってあげないとってずっと思ってたんだ。材料費稼ぐの大変だったから、レオンさんに手伝って貰ったりしたけど、うまく出来て良かった。試合にも間に合って本当に良かったよ。あ、それと代金はレオンさんから金貨50枚貰ったから、お金の心配はいらないよ」


 深夜まで作ってくれたんだもんなぁ。

 嬉しくて涙が出そうだ。

 空気読まずにさっきからプロポーズとうるさい観客のせいではない。……多分。


「シャリー、これからもずっと一緒にいて欲しい」


 あぁ、言っちゃった。つい感極まって言っちゃった。


「ん? 何を今更そんなこと言ってるの? 当たり前でしょ?」

「シャリー! ありがとう」


 あぁ、くそ、余計恥ずかしくなってきた。

 あぁ、そうだよ。認めるしかないよ。好きになっちゃったんだよ。このとんでもない女の子を。

 さっき喉からでかかった時点で、気付いていたけど、やっぱり俺はシャリーが好きだ。

 これで俺達は夫婦というのは気が早いけど、恋人くらいにはなれたんだな。


「エストにはこれからどんどん私の武器の宣伝して貰うんだから! どんどん私の武器を広めてよ!」


 ですよねー。やっぱそうですよねー。シャリーさんですもんねー……。知ってたわー……。好きになったからこそ、こうなるって分かってたわー。帰ったらひっそり泣こうかな……。


「シャルロッテの工房をおねがいしまあああああああす!」


 やけくそになりながら宣伝をする。今もう泣きそう。

 たまらずガックリすると、実況者さん達が申し訳無さそうに小声になり始めた。


「プラネさんこれは……」

「どうやら、失敗したようです。またの機会にということでしょうか。」


「またの機会に? ということは再戦の芽はあると!?」

「はい。失敗はしていますが、振られたというよりも、伝わっていない可能性が高いですね。再戦はエストール選手次第です。諦めなければ必ずチャンスはあります。では皆様! エストール選手の健闘をたたえる盛大な拍手を!」


 みんなの拍手は何か生暖かい気がしてならなかったよ……。

 俺、優勝したのになぁ! なんでこんな複雑な気分なんだろうなぁ!


 あ、懐は金貨百枚のおかげでホックホクになりました。いえい!


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