アフターストーリー:森羅万象
俺達は互いに剣を抜いた。
まずはお互いに身体能力の強化魔法をかけた。
力、素早さ、忍耐、反射神経。近接戦闘に必要な能力を魔力で無理矢理補強していく。
そして、ステータスをあげきった俺はレオンの懐に飛び込む。
一閃。俺が振り抜いた剣が黒い残光を残し、レオンの鎧をマントごと切り裂いた。
「ちっ、浅かったか」
「さすがエスト君。今のは危なかったよ」
レオンはギリギリで飛び退いて俺の剣をかわしたんだ。
「逃すかよ!」
追いかけながら剣を振るも、全て紙一重で躱される。
鎧はどんどんボロボロになっていくのに、身体にダメージは届いていない。
まるで、自分から鎧を切らせていると錯覚を受けるような流れだ。
ん? 自分から切らせている?
そう思った瞬間、脳裏に抗い続ける者というレオンの二つ名が浮かび上がった。
「ハハ、さすがエスト君だ。この鎧はもう使い物にならないな」
そういって、レオンは鎧を脱いだ。
鎧の下から現れたのはむちむちのシャツ一枚だけ。
「君の力は魅せて貰った。だから、今度は僕の抗いを見せてあげよう」
レオンはそう言うと腰を落とし、両腕を顔の前でクロスした。
そんな力を貯め込むようなポーズから一転、両腕を大きく振ってレオンが叫んだ。
「ウオオオオオオオオオ!」
その瞬間、レオンのシャツとズボンが弾け飛んだ。
「で、でたあああああ! おはだけならぬ、おはじけだあああああ!」
「ラストスタンドのレオンと呼ばれる理由、それは彼が全ての防具を失い、裸になっても戦い続けるところから来ています。ですが、今日彼は自分から防具を捨てたように見えました」
「というと?」
「火事場の馬鹿力という言葉をご存知でしょうか? レオン選手は追い詰められれば追い詰められる程、力を発揮するタイプなのでしょう。だから、全力を発揮するためにわざと追い込まれたのです。恐らくここからが本番ですよ」
解説のお姉さんの言う通りだ。
というか、お姉さんの予想以上のことが起きている。
補助魔法で身体の能力をあげると、俺達は属性にあったオーラをまとう。
だけど、レオンの場合、裸になった途端、オーラを空気のように身体に取り込んでいるように見えたんだ。
「さぁ、僕の全てを見てくれエスト君!」
「汚い物を見せるなぁあああ! 何でブーメランパンツ一丁なんだよ!?」
ほぼほぼ全て見えていたよ……。吐き気がした。
もっこりした黒いブーメランパンツ一丁のイケメン。
ただしイケメンに限るとか、イケメンなら許されるというけれど、これは勘弁願いたい。
「きゃあああああ!」
ほら、観客席の女性も悲鳴をあげているじゃないか。
せっかくの試合を惨劇にするなよ。
「素敵いいいい! 抱いてエエエエ!」
「おかしいだろうこの世界!?」
もう嫌だ。イケメン無罪なの!?
だが、おかしいのは見た目だけじゃなかった。
レオンが地面を蹴った瞬間、衝撃波が走った。
「っ!?」
「あぁ、初めてここまで近づけたね。エスト君。今度は僕の息を君にかけようか」
「気持ち悪い!」
半裸のレオンが目の前にまで一歩で飛び込んできた。
ステータス強化をしていなかったら、恐らく何も見えずに一刀の下切り捨てられていた。
ガキィンと剣と剣がぶつかる音がして、防御に回った俺が大きく後ろへと吹き飛ばされた。
「……魔法っぽいけど、魔法じゃないな」
「フフフ、そうだね」
魔力の変換と放出ではなく、取り込みと変換。普通の魔法形態と順序が逆なんだ。
くそ、情報がない。実況の二人は何かしら無いのかな?
「プラネさん今のは?」
「聞いた事があります。東洋には気と呼ばれる概念があると。体内に自然エネルギーを取り込み力に変える。森羅万象を己の中に取り入れ、肉体を極限まで強化すると言われています」
「なるほどー。そんな力があるのですね」
森羅万象。つまり俺の六属性全てを扱えるのと同等ということか?
でも、まだ情報が足りない。そもそもの根本的な問題が分からないんだ。
「何で裸なんだよ……」
「この力は自然の力を取り込むスキルでね。出来るだけ自分と自然の間に隔たりの無いことが好ましいのさ」
レオンはつまりと一拍おくと、誇らしげに胸を張って、剣を掲げた。
「これを僕は全裸万能の構えと呼んでいる! この姿が一番、森羅万象に近づけるのさ。言葉の響きも似ているだろう?」
確かに似ているけど一緒にするなよ!? 森羅万象=全裸とか哲学者や探求者達がかわいそうになるわ!
というか全裸に近づくほど強くなるということは、考えたくないのだけれど、レオンにはまだ……。
「お前はまだ変身を一回残しているな……?」
「その通り。この最後の砦を破る相手にはまだ出くわしていない。君が最初であることを願うよエスト君! 真の全裸万能の構えで僕は森羅万象の高みに上り詰める」
やべぇよ……こいつマジやべぇ……。
こんなのと一緒に旅なんてしたら、俺も変態にされてしまう。
こんな変態と戦わせるんなら、直接の攻撃魔法の禁止制限を解除してほしいぜ。
おかげで俺達の戦いはほぼ互角だった。
ステータスの関係上、俺が押し負けることはないのだけれど、長年積み重ねてきた剣技の差で格差を埋められている。
近接戦闘だけでいうのなら、レオンは間違い無く勇者の格だった。
その時だった。俺を呼ぶ声がしたのは。
「エストーーーーーー! 起こしなさいよバカアアアアアア!」
「シャリー!?」
シャリーが俺の名を叫んでいた。




