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アフターストーリー:戦う理由

 闘技場が会場されると控え室の中にいても分かるくらいに、大勢の人が入ってきて盛り上がっていた。

 もはや名物となった実況のお兄さんと解説のお姉さんが今日の試合について色々あることないこと言っている。

 そして、どうやら今日は試合だけじゃなくて、歌や踊りのパフォーマンスがおこなわれいるらしい。

 みんなの楽しそうな歓声や拍手が聞こえてくる。


「さぁ、では、みなさんお待ちかね! 次は本日のメイン! 獅子王決定戦決勝戦を始めます!」


 ひときわ大きな歓声があがる。


「まずはAコーナー! 魔王を撃退した我らの英雄! 流星の魔剣士エストール!」


 その声とともに俺の前にあった門が開かれ、真っ白なスモークがたかれる。

 その煙を抜けると、みなの歓声がさらに大きくなった。


「エスト! エスト! エスト!」


 とはいえ、この前の罵倒を思い出すんだよなぁ……。

 あれは泣きそうだったぜ理事長。


「ありがとうエスト!」

「お前のおかげで助かったぜー! 今日はがんばれよー!」


 あれ? 応援……されてる?


「おっと、エストール選手、応援に戸惑っているようですね」

「そうですねぇ。この前は散々でしたからね」


 散々だった原因の九割方は、この実況二人のせいだと思うんだけどな……。

 まぁ、今となっては良い思い出か。


「ちなみに、我々が入手した独自情報によりますと、エストール選手はシャルロッテ選手と同棲中のようです」

「遠くから観察させていただきましたが、朝から晩まで一緒でしたね。シャルロッテさんが鍛冶に一生懸命打ち込む中、そっと気遣いを見せる姿が印象的でした」


 この人達一体どこから俺達のこと観察してたの!?

 というか朝から晩まで盗み見してたのか!?


「あれはもはや恋人というより夫婦という感じでしたね」

「レオン選手に勝った賞金で婚約指輪を買う可能性も考えられますね。これからの進展に期待しましょう」


「なるほどー。エストール選手、結婚式の司会進行には僕とプラネさんをご指名くださいね」

「依頼料はロハで構いませんからー」


 無料だと!? それはお得だ!

 ハッ、思わず無料に反応してしまった。


 全くこの人達は本当にもう! 人で遊び過ぎ! 大体、そんな関係じゃないっての。

 ほら、会場もしらけちゃったじゃないか。

 さっきからシーンとしてるぞ?


「ちょっ!? 実況のお兄さんもプラネさんも変な冗談言わないで下さいよ!? 俺とシャリーはそんな関係じゃないですって!」


 よし、これで冗談の流れに――。


「おめでとおおおおお!」

「結婚おめでとう!」


「最強カップルの誕生か! めでたい日だな!」

「勝ったら公開プロポーズしろおおおお!」


 ――ならなかった。なんで!?

 頼む! 誰かこの変な流れを止めてくれ!?


 あぁっ!? くそ! なんでこんな時に限ってシャリーがいないんだよ!? あいつがいれば冗談で片付くのに!


 あいつがとぼけて、あれ? あの二人実はそんな関係じゃないんじゃね? って流れになるのに!


「その話し! 待って貰おうか!」


 ゴーンとドラが鳴ると、誰かの声が会場内に響き渡った。

 そして、現れるのは赤い変態、レオン。

 止めてくれたのは嬉しいけど、何でよりによってあんたなんだよ!? だけど、助けて貰ったのは事実、後で感謝しよう。


「シャルロッテ嬢はこの僕! レオン=マクミールが貰い受ける!」


 レオンは真っ赤な剣を天に掲げて現れた。

 明らかに普通の剣とは違う。芸術品のように見えるが、飾りでは収まらないもっと荒々しい何かが宿っているように見えた。

 というか、今、こいつなんて言った? 何でシャリーを奪うとかいってんの!?


「彼女の打ったこの新たな剣、森羅万象の赤き剛剣ウーニウェルスム・ルフスに誓って、シャルロッテ嬢はエストールには渡さない!」


「あぁっと! ここでレオン選手がシャルロッテさんの掠奪宣言が出ました。プラネさん、これはどういうことでしょうか?」

「ふむ。これは難しいですね。確かにシャルロッテさんは可愛らしい女性ですし、手を出せなくなる前に手を出す作戦……でしょうか?」


「なるほどー。となると、シャルロッテさんを射止めるのなら、エストール選手がプロポーズをする前だと」

「そういうことになりますね」


 解説のお姉さんがそう言った瞬間、観客席にいた人の一部がガタッと椅子から立ち上がった。

 シャリーのやつ、いつの間にそんなにファンを作ったの!?

 というか、レオンもレオンだよ! 俺はともかくシャリーに気はないだろ!? 

 前言撤回だ! 誰が謝るか! 余計に混乱を生みやがって。


「レオン、お前どういうつもりだよ!? シャリーをどうするつもりだ!?」

「ふっ、知れたことだよ。シャリーさんを魔王討伐の旅に連れて行く」


「へ? なんで?」

「魔王討伐の旅路は険しく厳しい。武器はいつ壊れるか分からない。そんな時、彼女が側にいてくれれば僕はいつだって全力を出せる」


 なるほどね。そういうことか。

 確かに刃こぼれとか、曲がったとかした時に修理してくれる人がいるのといないのでは雲泥の差がある。

 そういう理由ならレオンがシャリーを欲しがる理由も納得出来た。

 でも、だからといって連れて行かせる訳にはいかない。


「シャリー本人の意思を無視すんなよな? 俺はあいつの代わりにお前を止めるぜレオン」

「何を言っているんだい? シャリー君だけじゃない。エスト君も連れて行くんだよ? そうすればみんなハッピーさ」


「……は?」


 ちょっと待て。どういうことだ? こいつはシャリーを俺から奪うと言って出てきて、実際は武器の整備をして欲しいだけだ。でも、俺がついていく?


「シャリー君がいるところに、君はついてくる。逆にエスト君がいるところにシャリー君がいる。つまり、僕がシャリー君を手に入れれば、エスト君とずっといられるということさ。こうすれば、エスト君は僕が直接君をスカウトするより、はるかに前向きに僕と一緒にいてくれる」

「発想がサイコパス!」


「フッ、違うよエスト君。将を射んと欲すればまず馬を射よ。東洋の兵法だ」

「兵法の使い方おかしいだろう……」


「君を手に入れるこの作戦、またの名を、外堀を埋める作戦という」

「確かに埋められたよ! 俺とシャリーの外堀をな! あんたとは溝が開いたよ!」


「なん……だと……僕の完璧な作戦にほころびがあったというのか!?」

「何一つ繋がって無い!」


 いや、そんなバカな!? みたいな顔されても困る。

 だから、この人と会うのは嫌なんだよ!


「どうやら面白いことになってきましたね。レオン選手はどうやらエストール選手を自分のパーティにスカウトしたいようです」

「そのようですね。確かにこの三人が揃えば、今度こそ魔王討伐が成功するでしょう。ですが、そうなるとエストール選手はシャルロッテさんとの結婚が先延ばしになります。これは両者ともに負けられない戦いになりそうです」


「なるほどー! 戦う理由は十分。両選手も盛り上がってきたところで、試合開始です!」


 うまくまとめやがったよ!? 何かもうそういう試合になっちゃったじゃん!

 あぁ、もう、この場にシャリーがいなくて良かった!


「エスト君、僕の全力をかけて君を僕の物にする」

「あぁっ! もうっ! 勘弁しろっての!」

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