表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/29

アフターストーリー:獅子王決定戦再戦

 俺達が借金生活から解放されて一ヶ月後のある日、俺達はやり残したことをやらされた。


 獅子王決定戦の決勝戦だ。

 魔王襲来で宙ぶらりんになっていた決勝戦だったが、街の復旧の目処が立ち、街の人達にも娯楽を与えて、より一層復旧作業を盛り上げたいとのことで、再戦が決定したのだ。


 とはいえ、俺は出来ればやりたくなかった。


 俺とシャリーは借金も無事に返せて、俺は普通に単位を取れ、シャリーはお客が一気に増えて忙しそうにしている。


 単位取得と借金返済のために参加していた獅子王決定戦は、俺達にとってもはやほとんど意味をなしていなかったのだ。

 せっかく実況のお兄さんと解説のお姉さんが来てくれたけど、丁重にお断りをしよう。


「すみません。ちょっと最近忙しいので……」


 たまっていたバイトもしないといけないからね。

 俺が頭を下げると、解説のお姉さんことプラネさんはため息をついて、諦めたように身体を背もたれに投げ出した。


「そうですかー……。では、レオンさんが不戦勝で賞金カラド金貨百枚も彼のものですね。それと、今回はあくまで興行。参加してくれれば謝礼にカラド金貨十枚だったのですが」

「参加します!」


 俺は速攻で手の平を返した。

 賞金は随分減ってしまったけれど、それでも今の俺達にとっては大金だ。


「おや? 最近忙しいのではなかったのですか?」

「最近みんなが忙しそうなので、俺がみんなに元気を与えられれば良いと思って!」


 口から出任せだった。

 でも建前は大事だよ。本音はもっと大事だけどね。


「ありがとうございます。エストールさん。決勝戦もりあげてくださいね」


 そう言って、プラネさんは机の上に謝礼の金貨十枚と契約書を置いて帰っていった。

 俺はその金貨を速攻で自分の懐にしまい込むと、周りにシャリーがいないことを確認してホッと息を吐いた。


「シャリーにこの金を見られるのはヤバイ……」


 別にまた借金を負った訳ではない。

 ぶっちゃけたことを言ってしまえば、シャリーの金遣いが荒かったというか考え無しに思えて怖かったんだ。

 一ヶ月前にあった金貨五十枚は一度百枚近くまで増えたのに、いつの間にか残り五枚になっていたのだ。

 袋がたったの一日で急激にしぼんでいるのを見て、俺はまたシャリーがやらかしたのかと思った。


 何があったのか聞いたら、武器を作る材料を買ったとかで、かなりギリギリな綱渡りをしていたんだ。

 今回は借金していないから大丈夫とか言っていたけど、借金する寸前で笑えないっての。


 それと、シャリーは一度武器を打ち始めると、ほとんど誰とも会話せずにひたすら武器と向き合っていた。この間は他の仕事が受けられないため、生活費で金は溶けるばかり。その上、武器の材料費もかかる。


 とはいえ、彼女の集中を妨げる訳にもいかず、おかげで金の話しもしにくい。

 ということで、俺が金を管理しておかないと、いつのまにかまた借金なんていう落ちが待っているかもしれないのだ。


「とりあえず、俺が管理しておこう」

「えすとぉ……」


「うわぁっ!?」


 懐に金を忍ばせた瞬間、シャリーが俺の肩に顔を乗せた。

 ばれたかと思ったけど、シャリーの顔はかなり疲れていて、目が開いていないので多分大丈夫だろう。


「お腹空いたよ……」

「人の顔にヨダレをなすりつけないで!?」


 残念だけど、俺にはご褒美にならないから! 大人しくしていればかわいいのに、この子は本当に残念だな!


「あぁ、もう……。こんなくっつかれたら何かを作ろうにも作れないだろう」

「作るのも待てない……。何でも良いから……買いにいって食べよ……」


 そういってシャリーはそのまま寝てしまった。


「こんなだから金がなくなるんだろうなぁ……」


 シャリーはかなり無茶をしていて武器を打っているようだ。

 シャリーが借金をしている時、生活が悪いのでは無いかと疑ったけど、仕事に打ち込みすぎて、外食に頼らざるを得なかったのだ。


「ホント、鍛冶が好きなんだな」


 一体誰のためにこんなに必死になって武器を打っているのだろうと思うと、少しだけ胸のあたりが痛む気がした。



 獅子王決定戦再戦の日。

 シャリーは朝、目を覚まさなかった。

 昨日の深夜に「完成だー!」と叫んだ後、バタリと倒れた音がした。

 慌てて鍛冶場に行ってみるとシャリーが疲れで倒れていたのだ。

 ベッドに運ぶとシャリーは死んだように眠っていた。その結果が今朝の寝坊だ。

 俺は自分の試合を応援してもらいたい気持ちを押し殺し、シャリーを起こすことはしなかった。鍛冶を手伝えないのなら、せめて身体を気遣うことだけはしておきたい。


 何となくそう思ったんだ。


 そんなことを思いながら、俺は闘技場の通路を歩いていた。


 会場の外はお祭り騒ぎでメチャクチャ賑やかになっているけど、会場内はまだ人が入っておらず、かなり静かだ。

 思わず考え事とか独り言が出てくる。


「んー……、俺ってもしかしてシャリーのこと気になってるのか?」


 そして、ふとそんな独り言を呟いてしまう。

 ありえないと思っていたけど、何かと彼女の動きや視線を目で追ってしまう。

 その目が俺に向けられていないかということを考えて、ドキドキしていた。

 そんな最近の思い出を漁っていたら、シャリーがこちらに振り向く姿を思い出してしまった。

 そして、思わず胸を押さえてしまった。

 胸がどきどきと高鳴って止まらない。思い出の中で振り向いたシャリーの目から目を離せない。

 キンと何かが胸の中で鳴った。これがまさか恋の音!?


「そういえば、いつ金隠しているのがバレるのか、ハラハラドキドキしてたっけ……」


 胸ポケットに金が入っていた。さっきの音は金の音だ。

 この前もらった契約金、カラド金貨十枚はここ数週間で残り三枚まで減っていた。


「へそくりが見つかるドキドキだったかー……。だよなー。俺があいつに恋するとかないよなぁ……」


 良い子だけど、基本的におかしい子だ。

 おかしい子だけど、基本的に良い子じゃないあたりが、残念な子だよなぁ。


「とりあえず、試合に集中しよう。勝って賞金持って帰って驚かせてやろう」


 予定よりも少し早く、俺は控え室の前についてしまって、気持ちを切り替えた。


「やはり僕らは運命の赤い糸で繋がっていたようだ! 会いたかったよエスト君!」


 回れ右して今すぐ帰ろうかなぁ……。

 レオンの大げさな挨拶に俺はげんなりしながら振り向くと。


「顔近っ!?」

「あぁっ、エスト君の息吹が顔にっ」


「気持ち悪いわ!」


 俺は全力で後ろに跳躍し、レオンから離れた。


「あぁっ……」


 俺の全力拒否にレオンはがくりとその場に崩れ落ちた。

 初めて見せるレオンの落ち込む姿に、俺は目を疑った。

 今まで何を言ってもポジティブに反応したレオンが落ち込んだ!? 今俺そんなに酷いことをやったのか!?


 や、やったあああああ!


 ようやく俺の拒否がレオンに伝わったんだ。

 これで背後にねっとりとした気配が消える!


「レオン、これで分かっただろ? 俺を追い回すのは止めてくれ」

「超気持ち良い! 腰が抜けてしまったよ。エスト君!」


「どん引きだよっ!?」


 変態っぷりに拍車がかかったよ!?

 何なの? 俺が一体何をしたの!?


「なんなんだあんたは!?」

「君のファンさ」


「ファンのとる行動じゃねぇよ!?」

「何を言っているんだい? ファンであればその人と同じ空気を吸いたい。いや、むしろその人が吐き出す空気を吸いたい。そして、最後にはその人の周りに存在する空気になりたいと思うだろう?」


「あんた本当に勇者なの!? この国では変態のことを勇者とでも言うのか!?」 

 何でさも、当然です。みたいな真面目な顔しだすの!?

 そういえば、前世の世界でも変態行為をした人間を勇者だ! と皮肉った書き込み結構見たな!

 レオンが勇者と言われているのも、異世界共通の皮肉だったんだな!

 なんてな……。あー……ダメだ。この人といると俺までおかしくなりそうだ。


「というのは、半分冗談だ。つい試合が楽しみで興奮してしまったのさ」

「半分は本気だったというのか……」


 恐怖だ……。こいつ魔王より怖い……。


「この剣で君にどこまで届くか早く試したくてね」


 レオンはそう言うとマントの中から鞘に入った剣を取りだした。

 どこかで見覚えのある意匠が施されている鞘と柄を見て、俺は心に何かトゲでも刺さったような違和感を覚えた。


「それシャリーの作ってた剣?」

「さすが相棒だね。その通りだよ。彼女が僕専用に設計してくれた剣さ。ただ、お披露目は試合会場でだ」


 そう言ってレオンが武器をマントの中にしまう。

 反射的に俺は魔剣オルビス・ラクテウスの柄に手を触れた。

 同じ専用装備でも経緯は全く違う。

 俺のはいつか持ち主が現れると思って作った武器、レオンのはレオンが持ち主と分かっている前提で作られた武器だ。


 少し、ほんの少しだけ、心がちくっとした。


「良い試合をしよう。エスト君」

「あぁ、ま、俺が勝つけどな」


「ふふ、善戦させてもらうよ。あぁ、ただしあれだ。あの覚醒状態だけは勘弁してほしいね」

「あー……ハハハ……それは大丈夫ですよ」


 さすがにあそこまで壊れた状態を市民の皆様に見せたら、この街にいられなくなるっての。

 それに今は借金地獄に陥っていないし、多分大丈夫。……多分、きっと、恐らく。

もうちょっとだけ続くんじゃ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ