準決勝開始~私の名前はシルフェン・スタインなのだから~
そして、三回戦もあっさりと勝利して、ようやく来た準決勝。
相手はやっぱりシルフェだった。
となれば、実況者も解説者も勝手に盛り上がり始めてしまう。
「アランドール学院の現役生同士の戦いになりました。二人はどうやらクラスメイトのようですよ?」
「そのようですね。学院最強の炎使いシルフェン選手とリリカルでマジカルなエストール選手、どちらも将来が楽しみな魔法使いです。他の生徒達にも続いて欲しいですね」
ごめん。未来で俺に続く後輩達よ。君の先輩の残念な呼び名は一生消えそうに無い。
君達もリリカル・マジカルの仲間入りだ。
「お嬢様親衛隊の皆様から応援メッセージが届いているようですね。いくつか読み上げますね。シルフェお嬢様がんばってください。大丈夫です、財力ではお嬢様の勝ちです。やはり餌付けを中断するのはダメですよ。はて、最後のは何の応援でしょう?」
「ペットの餌やりを忘れるほどに努力して、この試合に臨んでいるということでしょう。エストール選手は同じ学院の生徒ですし、やはり対抗心を燃やしているのではないでしょうか」
「なるほどー」
応援メッセージはさすがお嬢様って感じの応援だな。悔しいけど、確かに今の俺には財力でシルフェを超えることは出来ない。だが、明日の決勝戦以降は違うからな!
後、シルフェってペット飼っているのか。寮はペット禁止だったと思うんだけど、お嬢様特権みたいなのがあるのだろうか?
「では続きまして、エストール選手へのメッセージを読み上げますね。えっと匿名希望で……これ読み上げて良いんですかね?」
「どれどれ、あー……」
変な納得されたけど、どんな罵詈雑言が書かれているの!?
俺が一体何したの!?
「ざっくり言えば、お嬢様は渡さない。お嬢様を裏切った裏切り者、貧乏のくせにハーレムとかお嬢様の炎に焼かれて爆発しろ、と書かれていますね。エストール選手は女性トラブルを抱えている可能性がありますね」
「なるほどー。隅に置けない男ということですね」
何がなるほどー、だ!
シルフェの取り巻きじゃねえか!? さっきのシルフェへの応援メッセージ書いたのと同じ人達だろそれ書いたの!?
女性トラブルというか女性が今このトラブル生んでるから!
まともな応援メッセージないの!?
「おや、これは? あぁ、こっちはちゃんとした応援メッセージです。動物パンおいしいよさんからのメッセージです。エスト、勝ったらうちのパンをあいつと一緒に買いに来い。パンの耳じゃなくて、パンだからな? ちゃんと金払えよ。待ってるぞ」
パン屋の店長だ。ありがとう……応援してくれていたんだ。
そうだな。そろそろまとまった金も手に入るし、ちゃんとパンを買いに行くよ。
「追伸、猫パン、犬パンに新シリーズ、熊パン始めました。とのことです」
「猫パン犬パンといえばライニー地区のパン屋ベーカリー森のパン工房さんですね。ちなみに私は猫パン派です。中のクリームが絶品です」
「僕は犬パン派です。あんこが良い味しています」
何の応援なの!? パン屋さんの宣伝と応援になってない!?
まともな応援に反射的に喜んでしまったけど、パンの耳がないなんて、俺達の行く目的の9割がなくなってしまうじゃないか!? 俺達に金を払えなんて、あの店長なんて酷いことを言うんだ!
観客席でシャリーもイヤアアアアア!? と叫んでいるぞ。
「相変わらずあなたの周りは愉快ですのねエスト」
「泣いても良いかな……」
「私は羨ましいと思いますわ」
「え?」
一瞬寝ぼけているのか、頭がおかしいのかと思ったけど。そんなことはなかった。
もう勝負の世界に入っているからか、顔を真っ赤にして逃げるシルフェはなく、彼女は真っ直ぐ俺の方を向いている。
「あなたはどんなに辛い目にあっても自由で、気付けば私の上にいる。筆記試験でも、この前の実技試験でも、この獅子王決定戦でも。そんなあなたの心が羨ましかった。ギルドの仕事とか私の知らないことをいっぱいやっているあなたが妬ましかった。そして、あなたの近くで自由に自分の気持ちを出せるシャルロッテに憧れた」
シルフェの身体から赤いオーラが漏れ出した。
口調は落ち着いていても、心は今すぐにでも戦いと叫んでいるようだ。
間違い無く最高の状態に仕上がっているんだろう。
「だから、私も決めたのですわ」
「……何を?」
「あなたを私の物にする。シャルロッテなんかに渡さない。あなたを私の物にして、私の持っていないものを手に入れるのよ!」
「本当に俺の周りには変なのばっかり集まるなあ!」
俺を手に入れてもそんなものは手に入らないだろうに。
このお嬢様は一体全体どうしたんだ!? しばらく会話しない間に、すごいことになってたぞ!?
「おーっと!? 鍛冶士シャルロッテから告白を受けたエストール選手、ここでまさかのシルフェン選手から愛の告白を受けたあああああ!」
「これは面白い展開ですよ。一度告白を受けたエストール選手に炎のような熱い想いを伝えるシルフェン選手、これはエストール選手も心揺らぐことでしょう。二人とも可愛いですからね。ただ、やはり先に動いたシャルロッテさんの方が有利でしょう。だからこそ、シルフェン選手は力でエストール選手をねじ伏せ、想いをぶつけることを選んだと考えられます」
「なるほどー。シルフェン選手、その熱く燃えたぎる炎で、エストール選手がシャルロッテさんに抱く恋心まで焼き尽くすことが出来るのかにも注目していきましょう! 準決勝いよいよ開始です!」
何の実況と解説だよ!?
二人のアホな話が気になってシルフェとろくに話せなかったぞ!
でも、時間は待ってくれない。シルフェの真意を知ることなく、試合開始の合図が無慈悲に告げられた。
「必ず私が勝つわ。私は欲しい物は必ず手に入れるシルフェン・スタインなのですわ!」
「あぁ、もう、本当にどうしてこうなった!?」