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二つ名

 パン屋からの帰り道、気分も体力も大分回復した俺はふとあることに気がついた。

 慌てていて全く気にも留めていなかったけど、すごく大事なことだ。


「シャリー、俺のオッズはどうなってた?」

「ふっふっふーん、作戦大成功よ! 百倍!」


「マジか!?」


 やったぜ。カラド金貨470枚の百倍ということは四万七千枚!?

 二人で山分けしても二万三千五百枚!? うっは! テンションあがるわ!


「さすが恥将だな」

「いやー、それほどでも」


「ちなみに一番人気だったのは?」

「あぁ、さっき会ったレオンさんだよ? 1.1倍だった」


「世の中どうなってんの!?」

「カッコイイし強いからじゃない?」


「俺が……おかしいのか……? なぁ、シャリー……俺がおかしいの?」


 何かシャリーにそう言われたのがすごくショックだった。

 他人に言われたら気にならなかったのかな?


「でも、私はエストの方が好きだな。ほら、レオンさん私達より年上だし」

「あぁ、そういえば、年上の人ばかりとつきあってたから、普通に接することが出来たのか?」


「そうだね。お客さんになるかもしれないし、営業トークと営業スマイルは大事だよ?」

「ハハハ……ったく、お前ってやつは……」


 すごい気が抜けた。何かもうそのままその場に座り込みたくなるくらいに。

 そうだよ。シャリーってこういうやつだろ。恋愛感情とか抜け落ちてるやつだったろ。

 マジでホッとした。

 たった一言で気分が変わる当たり、安い男になったとかか? ……貧乏のせいだな。


「それにしても、エストすごく好かれていたね」

「全く嬉しくねぇ……」


「でも、実力は本物みたいだよ? 噂では魔王の配下が支配していた街を一人で解放したとか、迫り来る魔王の軍隊を一人で追い払ったとかって。そんな人に認められるのってすごくない?」

「ありえねー……。でも、そんな噂があるのなら、何でみんながあいつのことをすごいと言っているか分かった気がするよ……」


「すごいよねー。一人でそんな大軍と戦うなんて」

「一人だから誰にもあの性癖がばれてなかったんだな……」


 同じ情報なのに全く違う感想を抱いてしまうのが、知った者と知らない者の差なんだろう。

 本人を知っても知らないままの奴が目の前にいるのは、例外としてのぞく。ちょっと天然さんだからね。

 とはいえ、シャリーのおかげで大分気分は落ち着いた。

 そして、落ち着いた頭で考えてみると、その強さの片鱗を感じたことは俺にもあったんだ。


「でも、言われてみれば、あのシルフェを一瞬で眠らせたもんな。強いのは本当なんだろうし、その噂も本当かもしれないなぁ」

「えっと、確か二つ名は抗い続けるラストスタンドのレオンだったよ。賭博屋に書いてあった」


「抗い続けるラストスタンド? 格好良いけど、何というかギリギリとか必死な感じの名前だな」

「鎧とか盾とか壊れた後でも、半裸状態になって敵と戦い続けるからって」


「噂は間違い無く本物だわ!」


 あの脱ぎたがりのことだから、間違い無いな……。

 半裸で魔王軍を撃滅する変態かぁ……。なにそれ怖い……。

 金がかかってなかったら絶対戦わないわ。目の前で脱ぎ出しそうだし。

 でも、ラストスタンドか。響きからしてもう厄介だな。

 俺も何か対策を立てないと。


「よし、俺も二つ名を作ってみよう!」

「どしたの急に?」


「レオンに名前負けしないように!」


 しょうもない対策だった。

……明日のレオンの試合はちゃんと見よう。



 なんて思ってたんだけどなぁ……。

 俺の次の試合が始まった途端、俺は頭を抱えた。


「リリカル・マジカル・エストールの入場です」


 実況者のムダに韻を踏んだ紹介にずっこけそうになったわ!


「ちなみに、リリカル・マジカルの二つ名は、先日必殺技の情報をくれた匿名希望さんからのご要望でした」

「情提供者、一体何者なんでしょうか?」


「分かりません。ですが、追伸にこう書いてあります。エスト君が来なくて、仕事がたまってるの。早く来てね♡、と」

「どれどれ、ハートマークがついてますね。エストール選手に新しい女の気配でしょうか?」


 ギルド受付のお姉さんかああああああ!? そう言えばあの人あれ言うの何か好きだったなああああ!


「おっと、エストール選手頭を抱えています。突然の体調不良でしょうか?」

「恐らく匿名希望さんの正体が分かって、積み重なった仕事を想像しているのではないかと」


「なるほどー。確かにゾッとしますね。私も大会の始まった先週から書類仕事を終わらせていないので、運営委員にばれないか冷や冷やしております」

「ゾッとしますねぇ。今それを喋ってしまったことに」


「あっ!?」


 俺はあんたたちの実況と解説にゾッとするよ!


 何てことがあったのが二回戦だった。なお、試合はあっさり敵の剣を折っちゃって三秒で降参され、試合が終わった。

 降参の理由は、死んだ魚のような目をしていた俺が怖かったかららしい。泣きそうだった。


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