獅子王決定戦予選
そして、ついに俺とシャリーの借金人生を賭けた戦いが始まった。
俺の心境はというと、いかに目立たないかを画策することだった。
出来るだけ敵を倒さず、自分は狙われず、敵の数を減らす。そうやって十人に残って、本選で大金を狙う。
マジメに参加している人達には土下座して謝っても良いんじゃないかな? って思えるほどの不謹慎さだ。
さてと、戦場はドームのような広い場所で、観客席と戦場の間は水の張られた掘りがある。
その中で五十人の参加者が戦いを広げるんだ。
だけど、よくよく見たら全員敵という感じで戦っている人は少数だった。
ある程度知り合いで固まって動いている人が多い。
確かによくよく考えれば、全員相手に戦うより、味方を作って集団で生き残った方が賢いか。
そんなことを思っていると、俺の方に大きな火の玉が飛んできた。
どっかで見覚えのある火球とかけ声だったな?
なんて、考えている場合じゃない!? 避けないと!?
「あら? そのまま当たってくだされば、ケーキくらいお見舞いで贈りましたのに」
「シルフェ!?」
やっぱりシルフェだった。俺が声を出すとシルフェは金髪をふぁさっとかきあげて、優雅にお辞儀をしてくれた。
武器や魔法が飛び交う戦場の中でっていうのが異常にシュールだったけど、様式美をこなすシルフェ格好良い。
ん? そうか! 俺もシルフェと組めば良いのか! そうすれば、シルフェのおかげで突破出来たように見せる。
「シルフェ! 俺の側から離れずに、一緒にいてくれ!」
「なっ!? 急に何をいってらっしゃいますの!?」
「俺一人じゃダメなんだ! でも! シルフェがいれば、きっと上手くいくから!」
シルフェなら俺の代わりに敵を倒してくれるはず! それにシルフェの魔法なら多人数に対する殲滅も可能だ。
賭け事に参加する人達の好印象を全てシルフェに押しつけることが出来るんだ!
言っていて悲しくなってきたけど、もう俺は悪魔に魂を売ってしまったんだ。後戻りは出来ないっ!
「そ、そんなこと急に言われましても……私にも心の準備が……」
「シルフェ! 頼む! 俺にはお前しかいないんだ!」
「っ!? そ、そこまで言うのであれば、付き合ってさしあげてもよろしいわよ?」
よし! シルフェが仲間になってくれた。これで予選は突破出来る。
「ありがとう! それじゃあ、エクスプロードでここにいる奴ら全員吹き飛ばしてくれ!」
「え? ど、どういうことかしら?」
あれ? 上手く説明が伝わっていなかったのかな?
「いや、この予選一緒に突破するためにチームを組もうと言ったんだけど?」
「イヤアアアアアア!」
うわっ!? シルフェのやつ急に泣き叫びながらファイアボール投げてきた!?
咄嗟にそのファイアボールを避けると、後ろで爆発とともに何人かの悲鳴が聞こえた。
「シルフェ落ち着いて!?」
「うるさいうるさいうるさああああい! トリプルフレアアアアアア!」
今度はトリプルフレア!?
これも何とか避けたら、叫び声が連鎖して聞こえたぞ!?
さすがシルフェだな。次々に敵を減らしていくぞ! なんだかんだ言って協力してくれるなんて、態度はでかいけどちゃんとやってくれる子なんだよな。
「ありがとうシルフェ! 本選では負けないからな!」
「エストのバカアアアア! エクスプロオオオオドオオオオオ!」
叫び声とともに俺の視界が真っ赤に染まる。
って、爆心地はここ!? シルフェのやつ制御をミスったのか!? これじゃあシルフェも巻き込まれる!?
「シルフェ危ない!」
「きゃっ!?」
俺はシルフェに覆い被さるように彼女と一緒に地面に伏せると、少しだけ剣を抜いて魔法の盾を発動させた。
「ロックシールド」
その瞬間、地面が盛り上がり、俺達を包む盾となって炎から守ってくれた。
「エ、エスト!? あ、あなた!? 一体なにをして!?」
「怪我してないか?」
「か、顔が近いですわっ!? というかどこ触っていらっしゃいますの!?」
こっちは暗くて良く分からないから、何を言っているのか分からないんだけど、盾の中が狭いのは間違い無い。
「あ、あぁ、狭くてごめん。いますぐ魔法を解くから」
俺は慌てて盾を解くと、シルフェの言っていたことを遅ればせながら理解した。
そりゃぁ、お嬢様も涙目になることをしていた。
俺の手がシルフェの胸を触ってた。んで、顔も息が吹きかかるほど近くて、シルフェの唇を奪う寸前だったんだ。
「う、うわぁっ!? ご、ごめんシルフェ!?」
「せ、責任とってもらいますわ!」
驚いて離れる俺にシルフェの言葉の追撃が襲いかかる。
責任だって? 責任ってまさか……。
俺は顔から血の気が引くの感じるほどの衝撃と不安を受けた。
「わ、私と、い、い、い……(一生を添い遂げてください)」
「やめてくれ!? 慰謝料は払えないぞ!? 今はマジで金がないんだ!?」
「違いますわあああああああ!」
うわぁ!? シルフェがまた火の玉を投げてきた!?
それを回避して、またどこかで叫び声がすると、シルフェはまたもや火の玉を投げようとしてきたが――。
「そこまで! 一切の戦闘行為を中止せよ!」
試合終了の合図が流れたのだ。
でも、そんなものでシルフェが止まる訳がなかった。
もうひたすら俺に向かって火の玉が飛んでくる。
「シルフェ選手! 攻撃を止めなさい!」
「止めないでくださる! 私の私の人生の汚点を消さなければならないのですわ!」
「誰かシルフェ選手を止めて下さい!」
司会の言葉を無視して、シルフェは暴れ回る。
だが、シルフェの暴走は長く続かなかった。
「仕方ありませんね。眠りなさいスリーピーシープ」
どこでそんな声が聞こえたと思ったら、シルフェが突然糸が切れた人形のように気絶して倒れたんだ。
代わりに立っていたのは赤い髪でいかにも勇者みたいな剣と盾、そしてマントを羽織った長身イケメンの男だった。
どうやらシルフェの背後から眠りの魔法をあてて、眠らせたらしい。
その瞬間、会場が沸き立った。
「レオン! レオン! レオン!」
突然のレオンコールに戸惑ったけど、どこかで聞いたな?
あ、新世代とか勇者候補とか言われている人だったっけ。
って、何かこっちに爽やかな笑顔を振りまいてやってきたぞ?
「無事かい?」
「えぇ、おかげさまで助かりました」
「なら、よかった。本選では良い試合をしよう」
言動まで爽やかなんですけど。何なんだろうこのイケメンオーラ。これが勇者というものなのか。俺には一生なれないなぁ、なれる気がしない。
「さっきの盾魔法を見ただけで分かる。君はきっと強い魔法使いだから、今度は君の本気が見たい。君の全てを知りたい。僕が君の秘密を一つ一つ暴いていくからね」
前言撤回。なんかねっとりしたオーラを感じた……。こいつ実はヤバイ奴なんじゃないだろうか……。
一生かけてもこんなやつになりたくないって気持ちになった。
というか出来れば会いたくないな。
ともあれ、これで本選に出場は決定した。
そして、五百カラド金貨という大金を俺達は手に入れたんだ。
ただ、俺はこの時、もうちょっと冷静になれば良かったと後で少しだけ後悔する。