俺達の主食が決まった日
俺はコンビニからの帰り道にバスにひかれて死んだ後、神様とやらに転生のチャンスを貰った。
どうやら、本来死ぬ時じゃなかったらしく手違いだったらしい。
そのお詫びに違う人生を生きてみないか? と言われた俺は自分の引きこもり人生を思い返してふと思った。
もっとちゃんと生きていれば、引きこもりなんかじゃなく、もっとマシな人生を俺も過ごせたのかな?
そう言ったら、神様は俺に努力した分だけ自由に自分のステータスをいじれるというステータス干渉スキルをくれた。
頑張らないといけないチートだったから、俺は新しい人生で頑張って夢を叶えようとしたんだ。
生まれた時から修行を始め魔力を高めまくり、苦手な勉強も15年間ちゃんとした。
その結果、普通の人のステータスが大体10~50の間で、強いと言われる人でも100を超える程度の世界でこんなステータスになった。
HP:100
MP:9999
力:30
魔力:999
頑強:20
速度:20
おかげで、十六歳になった時、この世界で最も強く、そして、自由に生きられる魔法使いの資格を手に入れたんだ。
怠けていただけの前世の散々だった人生から、今度はちゃんと努力して立派な人になろうと思った結果、この異世界で最高の魔法使いを育成する学校にも筆記試験主席で入学できた。
この時点で俺はこの人生の勝ち組となり、大賢者と呼ばれる地位を約束されているはずだった。モテモテチーレムルートも待っていると期待していた。
そう思っていたんだ。
それなのに――。
○
私は夢を叶えたんだ。
一人前の鍛冶士になって自分の工房を持つという夢。
伝説の勇者達の武器を鍛えた祖父の後を継いで、十六歳になった私もどんな敵をも倒せる最強の武器を作ってみた。
これで私は親の七光りでもなく、期待の新人でもなく、歴史に名を刻んだ祖父の横に並べる。
これから多くの英雄達の武器を作り出す伝説の鍛冶士になれた。きっと白馬に乗った勇者様が私を迎えに来てくれる。
そう思っていたの。
それなのに――。
――俺はこれでハッピーエンドが待っていると思っていたのに!?
――私の人生これでハッピーエンドじゃないの!?
○
俺には酷い落ちが待っていた。
転生して小さい頃から鍛え上げてきた魔力が強すぎて、魔法の杖が俺の魔力に耐えきれず爆発四散するんだ。
他の人が普通に魔法を放つ中、俺は手元で大爆発を起こして笑われるだけ。
そのせいで魔力が誰よりもある魔法使いなのに、杖が魔力を変換出来ず、魔法が使えないという愉快なことになった。
どうやら杖の最大許容魔力は200くらいまでしかなくて、俺の魔力999に耐えきれないから暴走して爆発が起こるらしい。
その結果がこれだよ!
「エストール君、このままだと実技の単位が足りなくて退学、魔法使いの免許も剥奪だよ」
学院の理事長に呼び出されて、開口一番告げられた言葉に俺は目眩がした。
「今、がんばって金を貯めて、自分に耐えられる杖を探しているので、どうかもう少し待って下さい! この前買った杖は一秒だけ持ったんです!」
「よろしい。熱意は評価しよう。だが、奨学金は成績優秀者に与えられるものだ。入学時主席でも今の君は落第寸前だ。君の奨学金は今日から支払いを止めるし、杖の損害賠償代わりにこれまでの奨学金を全額返還してもらう。良いかね?」
「なっ!? そんなことしたら、俺お金なんてほとんど残らないですよ!? というか学費が払えない!?」
「パンの耳でもかじりたまえ。タダみたいな値段で配る店を紹介しよう」
せっかく叶えた夢を半年で全て剥奪されて、借金まで背負わされそうになっている。
そんな理不尽に襲われて、貧乏へまっしぐらに落ちた俺は、この日から捨て値で配られるパンの耳をかじる生活を始まった。
○
私にも酷い落ちが待っていた。
新しく作った私の武器はあらゆる属性、あらゆる魔法を使え、魔力を凝縮することで威力を格段にアップする最強で万能な剣だったの。
ただ、その力が強過ぎたみたい。
最強を求めてやってきた力自慢や魔法使い達が剣を手にした瞬間、気絶してしまった。
魔剣の要求魔力はMP900、魔力900という数値なのがダメだったのかもしれない。
剣が力を発揮するために魔力と生気を吸い取る仕掛けが、使い手達の力を遙かに凌駕していたみたい。
次第に我こそはと名乗りをあげる人は消えていき、私に残されたのは誰も使えない最強の剣と、その剣を作るために注ぎ込んだ……。
「シャルロッテ様、借金1万カラド金貨、再来月までに返せなかったら、担保に入っている工房を持って行きます」
「いやあああああっ!? 私の生活どうなるの!?」
「パンの耳でもかじって返済金を捻出しろ! タダみたいに配っている店は紹介してやる。それとも身体を売る店でも紹介するか!?」
「いいいやああああ!? パンの耳でお願いしますぅぅぅぅ!」
叶えた夢は半年で悪夢に代わり、私は膨大な借金を背負ってしまう。
自業自得とは言いたくない不運に見舞われて、お金をほぼ全て失った私は、この日からパンの耳をかじる生活が始まった。
でも、俺はこんな結末絶対に!
だけど、私はこんな最後絶対!
「「認めない!」」
だから、きっと俺達は――
だから、きっと私達は――
――あんな酷い出会いをしたんだ。
冗談みたいに酷くて、笑えて、二度と忘れられない出会いを。
そんな出来れば後世には絶対語り継ぎたくない笑い話を始めよう。