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一発ネタSFシリーズ

フリーズの代償

作者: ミミズク

一発ネタです。今回はちょっと毛色違いを。

「愛してるよ」


「愛してます」


 思い出せば顔から火がでるようなことも言っていた。そもそも俺は恋愛否定論者だったはずだ。きれいな女は好きだが、付き合うなってまっぴらごめん。ましてや結婚なんて・・。


「トモユキはなんでいつも不機嫌そうなの?」


「こういう顔なんだよ生まれつき」


「まあ、それ多分嘘ですね」


「嘘じゃねえよ」


「ならそういうふうに思い込んでるですね」


「・・・・・」


 そうなのかもしれない。俺はいつも依怙地になっていた。






 そして事故が起こった。







「何か方法はないんですか?先生!」


「残念ながら」


「カオルは・・妻は・・・」


「どうしますか?このまま再起動すると人格は白紙の状態に戻りますが」


「記憶の復旧は不可能なんですよね・・」


「ええ、できません。物理的にそうなるように作られているんです。あなたも知っているでしょう。例の人権法を・・」


「・・・なら・・もう・・いい・・です。人格の違う彼女など・・」


「廃棄はおすすめしません。というのも、人格は内部データだけに依存するわけではないのです」


「・・?・・どういうことですか?」


「外見だけでも同じなら彼女の人格はどこかに残るという意味です」


「意味が分かりません」


「彼女の人格は彼女だけのものじゃないってことですよ」


「俺が同じ外見の彼女から妻の人格を見つけるってことですか?それって勘違いですよね」

 俺は怒声をあげる。


「一概にそう言えるほど我々は我々自身のことをわかっていません。それにいいじゃないですか。そんなに急ぐ必要もありません」


「・・・・・」


 俺はやっぱり怖かったんだと思う。君が帰ってこなくなることはもちろん、君じゃない君に対して・・。





 半年後






「トモユキ。早く食べてよね。片付かないんだから」


「・・・」


「トモユキ!」


「・・・」


「オラァ!」


 俺はカオルからの腹パンを食らってのたうち回る。


「なにを!?」


「てめえ、私を2度も無視するとはいい度胸だなあ!?」


「お、おかしいだろ!ロボット3原則はどうなっている!?」

 俺は涙ながらに訴えた。


「そんな前時代の遺物が、このカオル様に通用するわけないでしょ。ただのロボットじゃあるまいし」


「・・やっぱり人権法は間違ってたんだ・・お前みたいな乱暴な奴がパートナーだなんて・・」


「ア!?」


「スミマセンカオルサマ」


「けっ、早く食べてって言ってるのよ。何ぼーっとしてるんだか」


「・・・・」


 お前のことを考えてるんだよ。ずーーとお前のことを考えてる。

 結局帰ってきたカオルは妻とは似つかない人格になってしまった。だけど俺は・・。




 トモユキの悩みは大体予想が付いている。以前の私のことだろう。私自身は全く覚えていないけど彼とは3年連れ添った仲らしい。こんなバカ男と3年も仲良くしてたなんて以前の私はまるで天使みたいだ。

「ま、今は女神様なんですけどね」


「?」


 トモユキが怪訝そうに私を見ている。大丈夫あんたの女は私が見つけてみせますよ。

 アンドロイド人権法により記憶のバックアップができなくなったとはいえ、国内外にある違法ツールを駆使すればきっと彼女を復旧できる。


「ほらごちそうさま。うまかったよ」


「当然でしょ」

 このバカを置いていくのは少し心配だが、3年間も一緒にいたのだ。悔しくなんかないが、私よりきっとうまくやるだろう。




「最近大丈夫か?なんか優しいけれど」

 近頃は俺よりもカオルの方が調子がおかしい。なんだか優しいんだ。


「これで優しいと思ってるなら、あなたが調教されてきただけでしょ」


「・・おそろしいこというなよ。心配になるだろ」

 俺にはマゾっ気なんぞないはずだ。・・たぶん。


 カオルが一人で何やらやっていたのは・・。まさかとは思うが・・。




「ねえ、あんた・・以前の私に会いたくない?」


「!」


「ねえったら・・」


「・・・・」


「なにか言ってよ」


 彼女はいつもの様に凶暴ではない。やはりそうなのか。


「・・会いたくないわけではないよ・・だけどおまえ・・」


「・・わかったわ」


「おい、勝手なことはやめろよ!」


「いいから、任せなさい」


「何言ってんだよ」


「大丈夫。大丈夫。何の問題もないはずだから」


「おまえ・・まさか・・」


「あと2分30秒で以前のシステムへ復元が開始されるはず、再起動するからちょっとの間お別れね」


「・・・・・」

 なんてことだ!!なんてことだ!!なぜ!?いや俺のせいか・・俺は彼女に何も言えなかった。伝えることができなかった。


「・・行くぞ・・医者のところに。・・まだ間に合うかもしれない・・」


「何言ってるのよ。間に合うもくそもやっとあなたの願いが叶うんだから・・」


「・・何で泣いてんだよ」


「?」


「何で泣いてんだよ!?」


「・・ちょっと水漏れしちゃったのかもね・・」


「・・・」


「ねえ、あんたは・・」


 彼女は怯えている。俺には彼女の聞きたいことがわかる。

「俺は・・俺は・・おまえ・・」

 なのに答えられない。ここに来てもまだ俺は・・・。


 彼女は頭をブンブン振って、微笑んで言った。

「私はあんたをそんなに悪くないとおもってるわ。まあ、もう少し素直になったほうがいいかもね」


「・・それはおま・・えだろ・・」


 彼女は停止した。


「・・・・・・・・・・」

 結局最後まで言えなかった。愚かだ。本当に。






 おかしい。再起動しない。まさか俺は彼女さえ失ってしまうのか。

 俺はすぐに彼女を連れて医者のところに向かった。


「どうしましたか?」


「カオルが再起動しないんです」


「再起動?何か心当たりは?」


「・・おそらく違法ツールを使って記憶の復元をしようと・・」


「・・ほう・・そうですか」


 俺はカッと頭に血が上ってしまった。先生の胸ぐらを掴み上げる。

「そうですか・・っじゃねええ!!どうすればいいんだ!!どうにかしてくれよぉ!!」


「・・落ち着いてください。私はこの事態を半分予期していました」


 先生は落ち着いた声で答える。

「どっどいうことだっ!!予期していた!?先生が仕掛けたのか!?」


「半分そうで、半分違います」


「!?!??」俺は生まれて一番混乱した。


「まれにあることなんです。仲の良い連れ合いの記憶の復旧に自分を犠牲にするアンドロイドが・・」


「え!?ど、どういう」


「つまりですね。私が予めカオルさんがそのようなツールを使用した時に機能停止になるように設定しておいたんですよ」


「!!」


「不謹慎かもしれませんが・・あなたが大変大事にされている証明です。そりゃアンドロイドにも相性ってものがありますからね・・」


「あ・・・・ああああ」

 私は先生を放して、大きな息を吐いた。


「・・ですが、これからはあなたが決めることです。彼女を復元するかしないか」


「え!?」


「本来はね。違法ですよ。ですがこの商売が長いと完全にアンドロイド側につきたくもなるんですよ。彼女の意志も尊重したい」


「・・・・」


「ただ一つだけ言わせて欲しい。人は死んだらそれまでなんですよ。やっぱり」


「・・・・」







 俺は決断した。今度こそは言うんだ。



「俺は君が好きなんだ!!カオル・・」



やはりこの分野は苦手です(他が得意とはいいませんが)。

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