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ドラコと賢者の日常

ドラコと賢者と由来

作者: まめ

「セティ、セティ。ドラコなまえ、ゆらいなに?」


「……え? お前由来とか難しい言葉知ってたの? ちょっと驚いちゃって思わず薬の配合、間違えちまったじゃねえか」


 己の眼前でふらふらと危なっかしく浮遊するドラコが、突拍子もなく放った予想外の言葉にセティは、それは、それはもう驚いた。驚きのあまりに手が滑り、薬さじにすりきれ一杯分でいいはずの夜光蛾の鱗粉を山盛り一杯も入れてしまった。おかげでフラスコ内の薬剤が急激に沸騰し、小さな水蒸気爆発のような反応が起きた。小鼓に似た軽快なけれどもどこか間の抜けた音と共に、イルカが吐く空気の輪のような白い煙が二人の間に立ち上るとしばし沈黙がその場を支配した。


「ドラコのなまえ。なんで? なんで?」


「ええ、いや。まあ、何でって言われてもな」


 これが噂に聞く幼児期の質問攻めってやつなのだろうか。普段の飄々としたものとは違い、セティは珍しく混乱した頭でぐるぐると考えた。

 ドラコという名前をこの小さな竜人に名付けたのには、何の事はない。ただ(ドラゴン)の子供。ドラゴンノコドモを略してドラコにしただけだ。人間が長男に父親の名前を付け、識別の為にジュニアと呼ぶのと大差ない。そんな理由だ。


「ペーさんは、こうきなるあくまのおう。ドラコは? ドラコは?」


「……え? ドラコそんな長い言葉、言えたの? ちょっと驚き過ぎて薬、冷やし過ぎちゃったじゃねえか」

 

 今までドラコが「高貴なる悪魔の王」なんて難しく長い言葉を喋った事があるだろうか。いや無い。驚きのあまりセティは沸騰していた薬を冷まそうとしたはずなのに、加減を間違い一瞬で凍らせてしまった。急速な温度変化にフラスコは耐えることが出来ず、軽い衝撃音を立てて粉々に飛び散った。手の至る所に切り傷をこさえたセティだが、彼にとってはそんなものはどうでもいい。今や彼の頭の中は、どうやってドラコの機嫌を損ねずこの場を切り抜けるか。その事だけだ。

 それにしても、またもやあの暇人侯爵がやらかしてくれたらしい。急にドラコが面倒なことを言い出したと思えば、奴の入れ知恵のようだ。

 適当な嘘ぶっこくんじゃねえよ。あの暇人悪魔め。セティは心中で意地の悪い悪魔侯爵を罵倒した。丁度今制作している薬は奴のものだ。思いっきり失敗したものを納品してやろう。


「ドラコ火、吐きたくねえ? 今日は家、焼いても許しちゃうよ」


「やー。ドラコゆらいきく」


「あ、そう?」


 未だにぽよぽよとセティの眼前で浮遊するドラコは、きらきらと期待の籠った視線を彼に寄越した。

 あ、やべえな。これ何かめっちゃくちゃ格好いい理由期待してんなこいつ。セティはどうしたものかと気まずい気持ちを抱きながら考えた。この様子の彼に正直に竜の子供の略だと言えば、いじけるどころか本気で泣き喚きそうだ。そうなってはもう大変どころの話じゃない。もう災害だ。理性を無くしたドラコの泣き声は衝撃波を生み、それが窓ガラスを割るだけで済めば御の字で、下手すりゃ家の壁や屋根ごと吹っ飛ぶ。セティはその衝撃波に耐えつつ、あれやこれやと彼の機嫌をとり続けなければならない。さあそうなれば今回は一体、何日間で済むのだろうか。一日か、いや三日か。はたまた一週間。いやいや一ヶ月か。ああそれは勘弁願いたい。


「……ああっとな。何つうかこう。ドラコに会った時、何て言うの? あ、これしかねえなって思って、こうピンと来たっていうか。あ、やだこれ、超可愛くね? て思ったっていうか」


 そりゃあ、まあ。ドラゴンノコドモなのだから、ピンと来るも何もない。見たままなのだから。セティはどうしたもんかとしどろもどろになった。


「まあ、その。つまり俺の一等、可愛い息子っていう意味を込めました。みたいな」


 拾った当時はそんな事は欠片も思っていなかったが、現在はそう思っているのだからあながち嘘ではないだろう。ドラコのきらきらしたものから視線を逸らしつつ、セティは苦し紛れにそう答えた。

 その答えを聞いたドラコは、ふへへへへと奇妙な笑い声を上げセティの顔面に抱き着いた。彼の羽はぴこぴこと喜びの動きをしている。


「ちょ、苦しいんだけど。ドラコちゃんや」


「ドラコ、セティすきー」


「へえへえ。ちょ、ドラコ! 本気で窒息するから!」


 更にぎゅうっと馬鹿力で抱きしめられたセティは、本気半分、照れ隠し半分でぞんざいな扱いでドラコを引きはがした。


「まあ、あれだ。今日のおやつはプリンパフェにしてやんよ」


 そうしてセティは耳と顔を真っ赤にし、わざとぶっきらぼうにそう言った。それを見たドラコは、ふへへへへと幸せそうに再び笑った。

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