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こんな夢を観た

こんな夢を観た「自動販売機として生きる」

作者: 夢野彼方

 わたしは自動販売機としての人生を送っていた。缶飲料だけでなく、その土地、その季節に合わせて、とにかくなんでも売る。


 そんなわたしを、他の自販機は邪道だと批判する。

「なんでも売ればいいってもんじゃないよな」清涼飲料水の自販機が聞こえよがしに言う。

「ああ、節操がないな、あいつ」鼻息粗く煙を吐くのは、タバコの自販機だ。「しかも、他の連中が120円で缶コーヒーを小売りしてるっていうのに、100円で横流ししてるもんな。あ、タバコは20歳になってからな、一応」

 うんうん、と勢いよくうなずくのはビールの自販機。

「そんなに金が欲しいのかなぁ。ガツガツ稼いだって、所詮は自販機だろ? 困った奴だよ……未成年者は、アルコールお断りだよ」


 そんなわたしでも、温かく見守ってくれる先輩達がいくらかいた。

 場末にぽつんと置かれた、怪しげなアイテムの販売機や、廃れたドライブインで忘れられたように佇む、そばやハンバーガーの機械達だ。

「なあ、むぅにぃよ。わしらは、売ってなんぼの商売じゃ。誰かが何かを欲しがる。それを売るわしらがいる。つまり、それだけのことなんじゃ」ディスプレイの中で、微妙な再現度のフィギアが揺れる。

「そうよ。あたしのふにゃふにゃハンバーガーだって、『一部、ビスケットみたいに固いけど、それがいい!』って、喜んでくれる人がいるもの。その人達がいる限り、あたしは現役でいたいなあ」


 わたしもいつか、先輩達のように、自信を持って仕事ができるようになりたい。

 少なくとも、今はまだ、未熟な自動販売機のむぅにぃなのだった。売るにしても、接客にしても。


 先日も、気に入らない客が飲み物を買いに来たので、つい邪険にしてしまった。

「なんでえ、ドクター・ペッパーねえのかよ。ちっ、ペプシで我慢してやっか」

 ドクター・ペッパーのようなマイノリティな商品を置いてしまうと、他の売れ筋が減ってしまう。それに、ペプシで我慢とは、失礼しちゃうな。

 わたしはペプシを「ホット」にして売ってやった。

「ペプシ、ペプシ……っと。あぢっ、あぢぢっ?!」冷たいペプシのはずが、思いがけず熱かったので悪態をつく。「ば、ばかやろーっ。もう2度と、お前みたいな自販機じゃ買わねえぞ!」

 カッとなると、すぐやらかしてしまう。でも、後悔はしていない。

 

 ある時、小学生の兄妹がやって来た。

「ああん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。間違って、苦いコーヒー押しちゃった」今にも泣きだしそうに妹が言う。

「えー、ほんとはどれ押すつもりだったの?」かがみ込んで聞く兄。

「うんとね、5回振って飲むやつ。プリンのジュース」

「そっか、おまえ、好きだもんな、あれ」兄はにっこり笑うと、プリンシェイクを買って、妹に渡すのだった。自分はブラック・コーヒーを黙って受け取る。


 だから子供って腹が立つ。よく見もせずに商品のボタンを押し、おまけに泣けばいいと思っている。

 兄も兄だ。何も、自分が飲むお金で買ってやることもないのに。第一、そのコーヒーを本当に飲むつもりなのか。子供にはいくら何でも早すぎる。


 普段は絶対に当てないデジタル・ルーレットを、わたしは全部「7」に揃えてやった。

「えっ?!」兄は口をぽかんと開けて数字を見つめる。「あ、当たっちゃった。当たっちゃったよ」

 今度こそ、欲しい飲み物を買うといい。まったく、むかつく。

 

 わたしの目標は、「いつか、自販機王になるっ!」こと。

 でも、今はまだ駆け出しの半端者だ。

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