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30日(最終日)

 下北から帰る日。

 大鈴木さんが八戸に用事があるということで、G大1年生の3人が車で一緒に乗せていってもらうこととなった。

 そこから電車で盛岡まで帰るらしい。

 まあ1年生はあんまりお金ないし、安上がりの方が良いだろうということで僕とM生は遠慮した。


「それじゃあタッチー、また来年」

「よいお年をー」

「はい、お疲れ様でした!」


 3人が大鈴木さんの車に乗るのを見送った後、僕とM生は近くのバス停へと向かった。

 バスで大間漁港まで向かい、そこでシッポと合流、乗り換えで下北駅を目指すというルートだ。


「……M生」

「何ですか?」


 バス停でバスが来るのを待ちながら一言。


「僕からもっと離れろ。お前と関係者だと思われたくない」

「何でですか!」

「やかましい! 何だその首から下げてるものは!」


 M生は何故か、首に紐で吊った段ボール箱をぶら下げていた。

 段ボールには大量の木の枝が生い茂っている……。


「これ、N村さんの冬芽講座のために集めた冬芽ですよ。持って帰って勉強に使おうかと」


 ああ、そう言えばN村さん、皆が集めてきた枝についてる冬芽で樹種判別をするミニ講義を開いてたな。

 僕はその時厨房でツマミ作ってたけど。


「勉強熱心なのはいいけどな! 僕は首に大量の木の枝をぶら下げてる奴と知り合いだとは思われたくない!」

「えー。山大さんも冬芽いります?」

「いらん!」


 2本3本ならともかく、50本くらいの枝がワサワサと首からぶら下がっているその光景は異様である。

 後輩でなかったら関わり合いになりたくない相手だ。


「お前、その状態でバス乗るの?」

「もちろん」

「頼むから離れて座ってくれ……」

「了解です、お隣失礼します」

「この野郎……」


 その後、バスに揺られること40分。

 大間に着いた辺りでシッポから連絡が入り、「待つのが暇だったから先に下北駅行くね☆」とのことだった。

 いやいやどのみち下北駅で待つことになるんだからあんまり変わらんだろうと思いつつ、さらに大間からバスに揺られること1時間。


「ようシッポ」

「お、着いたね二人とも」


 下北駅の待合室で本を読んでいたシッポと合流。


「何で先行くかな。大間で合流しても良かっただろ」

「暇だったから」

「結局ここで待つ破目になったろうが」

「でもここ、待合室あるから」


 なるほど。


「そっちどうだった? あれからサル見れた?」

「おー見れた見れた。最終日にギリギリな。そっちは?」

「こっちも見れたよー。というか、見れるポイントに連れてってもらった」

「楽してんじゃねえよ」

「羨ましいか。ってか聞いてよ、大間班に来た初心者の子がすっごいミスやらかしてさ!」

「お前、人の失敗を笑うなよ……」

「持ち物一覧にコンパスってあったじゃん?」

「ああ、あったな。何? 持ってくるの忘れたのか?」

「いやいや持って来てたよ? ……円を書く方のコンパスを」

「「ぶっは!?」」


 隣で聞いていたM生と二人して吹き出してしまった。

 え、何、円書く方のコンパス!?


「地図の読み方教えてる時に、『コンパスを地図の補助線に当てて』って言ったら、すっごい真剣な顔して地図に円書いてて……! 申し訳ないけど大爆笑しちゃった」

「それは……! あかん……!」

「あ、でもボクが夏に参加した猛禽の調査でもいた!」

「「マジか!」」


 今度から持ち物一覧には「コンパス」ではなく「方位磁石」と書くべきか。



       *  *  *



 しばらく待合室で談笑した後、待ちに待った電車に乗り込む。

 そこでシッポの他にも一緒に来ていた大間班のメンバーと情報交換をしたり、M生の抱える大量の冬芽にツッコミを入れたり、1週間の思い出を語ったりしているうちに、あっという間に時が過ぎた。

 気付けば、野辺地駅は目の前だった。


「あ、次下りるわ」

「??? 八戸駅じゃないの? 山大君、実家そっちって言ってなかった?」

「うちの母上が野辺地まで迎えに来てるんだと。ついでに飯食って帰ろうってさ」

「仲良いっすね」

「まーな」


 実家帰ると毎晩一緒に酒飲むし。


「んじゃ、僕はここで」

「はーい、お疲れ様ー」

「よいお年をー」


 電車に残った二人に手を振り、僕は野辺地駅に降り立った。

 冷たい風が吹き抜けるホームをさっさと通り、待合室に入る。

 すると見慣れた格好の母上が、何故か土産コーナーを物色しているのが目についた。

 何してんだ。


「ただいまー」

「あ、おかえりー」

「土産に残った酒持ってきたよー」

「おー、サンキュ」


 軽く挨拶を交わし、駐車場に停めてある車に乗り込む。


「どう? 楽しかった?」

「もちろん」

「来年も行くん?」

「当たり前じゃないか」


 まあ忙しいだろうから、あんまり期待はできないが。

 それでも顔を出す程度はしたいな。



 こうして、僕の3年目の下北半島サル調査は幕を閉じた。



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