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定番ってやつですね

 二話投稿してます。

 

 こんにちは、皆さん。

 エミリア・クラッセンことエミリーです。



 あれから五年程経ち私は今十歳になりました。

 思えばこの五年。涙無しには語れない激動の日々があったり無かったり、やっぱり無かったり。

 しいてあげるなら父さんが偶に通報されてた。何してるんだろうね、あの人。

 この五年間私は慎ましく成長し立派なレディへと。


 え?本当に慎ましくかって?

 否だなぁ、ちゃんと慎ましくしてましたよ。


 ただちょっと、偶然(・・)嫌味なおじさんのヅラに手が滑って熱々のスープがかかったり、偶々(・・)開発していた魔法トラップに意地悪な糞ガk・・ゴホン・・・・子供が嵌まっちゃっただけですよ?まさかあのおじさんヅラだったなんて思わなかったし、偶然偶然。あの糞ガk・・ゴホンゲフン・・・子供が男のくせに毛虫嫌いだったなんて知らなかったし、偶々偶々。

 だから、ほらね?

 小さな子供のちょっとしたお茶目ってやつですよ?


 ちゃんと立派な淑女へと成長してますよ?






「エミリー。・・・・聞いてるのか?」


「え?・・・・・聞いてるよ?」

 正面に座る父さんから深い溜息がこぼれる。

 父さんの隣に座っている母さんはただニコニコと笑っている。


「・・・・それで、本気で宮廷魔術騎士団に入るきか?」

「本気だよ。」

「駄目だ。」

「絶対入る。」


 父さんが怖い顔をさらに険しくして睨んでくる。

 私も負けじと睨み返すが正直ちょっと怖いのは内緒。

 母さんが傍らで傍観を決め込む中、二人の睨み合いが続く。

 今は夕食後の後なので時間はたっぷりある。

 父さんが折れるまで私負けないよ。




 結局この日の深夜まで二人の睨み合いは続き決着はつかなかった。







 ***



「それでね?聞いてよセイルさん!父さんったら駄目だの一点張りよ?もうやんなっちゃう!」

「あはは、それで親父さんいつもより機嫌が悪いんですか。」


 最近常連さんになったばかりのセイルさんに日替わり定食を運んできた後、ちょっと愚痴を聞いてもらっていた。

 セイルさんは2m以上はあるかと思う長身にスラッと引き締まった体型の美青年だ。頭に巻いたターバンの間から伸びる金緑色の長い髪は後ろで一纏めに括っている。紅玉のような眼は鋭く、瞳孔はトカゲのように縦に割れていて怖い印象を与えがちだかセイルさんは意外と優しかったりする。

 この間ターバンの隙間から見えた耳が尖っていたので、ここよりも遠い北に位置する森の王国に住むエルフの旅人さんじゃないかと私は推測してる。


 彼は聞き上手だったりするみたいで、最近はセイルさんと良く世間話をするようになった。

 もっぱら私の愚痴が殆どなんだけれどね。


 だから、今日も今日とてセイルさんの優しさに甘えつつ父さんの愚痴を吐いていた。




「まあ、親父さんの気持ちも分かってあげて下さい。宮廷魔術騎士団は王宮の花形とも言える組織なんでしょう?貴族や王宮のごたごたにも巻き込まれるでしょうし。それに最近はチジョウカイの魔王が暴れだしたって話も聞きますし。」

「そうだけど・・・・ん?チジョウカイ?」

「あ・・・・いや、まあそんな危ないところに一人娘を入れるのは心配でたまらないんですよ。親父さんは。」

「うぐぐ・・・・。」

 よく分からない言葉もあったが優しく諭してくれるセイルさんの言葉に耳が痛い。


「何だ。エミリーちゃんまだ宮廷魔術騎士団に入るの諦めてなかったのか?」


 私が唸っていると、隣から豪快な笑い声が響いてきた。

 振り向くと隣のテーブルには真昼間からお酒を煽る髭もじゃの大男とマリクさんがガッツリ定食を食べていた。


「あ、マリクさんにガフさん。」

 髭もじゃの大男はガフさんと言って、マリクさんとパーティーを組んでいる戦士職の人です。

 陽気な人で酔うと笑い上戸になるんです。でも、声が大きいので酔ってるときは近寄らないようにしてます。耳に響いて痛いんですよね。


「ガハハハ、止めとけ止めとけ。あそこは入るのも難しいが入った後も三年から五年ほどの見習いを経て試験に合格して初めて宮廷魔術騎士団に入れるって言うじゃねえか。しかも、試験には武術や魔法以外にも教養も必要だって話だろ?平民には無理だろ。」

 ガフさんは豪快に笑いながらお酒を一気に飲み干す。

「むぅ・・・それでも、私は入りたいです。」

 私は頬を膨らませながらガフさんに言う。



 セイルさん達の言ってることも分かるし、父さんが心配していることだって知ってる。

 それでも宮廷魔術騎士団には入りたいんだもん。



「どうしてそんなに宮廷魔術騎士団に入りたいんですか?」

「どうして?」

 不思議そうに聞くその声にピクリと反応する。


「そりゃあもちろん!!憧れのリンダ第一副隊長に憧れてですよ!!女性初若くして副隊長まで上り詰めた女傑ですよ!!!女性の憧れ!!」

 行き成り捲し立てる私にポカンとするセイルさん。

 ガフさんやマリクさんも一瞬ポカンとしたがまた笑い出す。


「そう言えば彼女が副隊長に就任した時は随分と騒がれたね。騎士団内の女性の割合が少ない上に女性初の幹部入りだったしな。城下の警備の徹底や女性による小隊の結成や騎士団の一部の規則の改革なんかもやっているとかって噂だし。さらに、貴族出身ではないから国民の支持率も高いとか。」


「へえ、そんな方が居るんですね。」

 マリクさんの説明に感心したように頷くセイルさん。

「そうなの。リンダ副隊長は凄くかっこいいんだよ!!先月も城下町に入り込んだバーサークベアを得意の槍術で一突きだったんだから!!はぁ、憧れるなぁ。」

 私は目を輝かせながらリンダ副隊長のかっこ良さを語った。

 そんな私を見ながら三人は似たような曖昧な笑みを向けていた。


「でもありゃあ貴族じゃねえつう言ったって、どこぞの伯爵様の庶子って話じゃねえか。やっぱ平民にゃあ無理だろ。」

「ムッ、そんなことやってみなきゃ分からないじゃない!!」


 ガフさんってば失礼ね!!

 絶対宮廷魔術騎士団に入ってぎゃふんと言わせてやる~!!


「まあまあ、エミリーちゃんのやりたい様にやれば良いんじゃないかな?結局決めるのは本人なんだから。まあでも、魔法使いなら冒険者の方がお勧めなんだけどな。大抵は貴族出身の魔法使いが宮廷魔術騎士団に入るし。平民出身だと色々と堅苦しいみたいだよ。魔法使いなら冒険者の方でもいいと思うんだけどなぁ。」


 ぬぬっ!!


 何気にマリクさんが冒険者を推している。

 でもそれじゃあ駄目なんだよ!!




 それだと、




 玉の輿が狙えないじゃない!!





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 え?


 それが本音かって?


 べ、別に貴族とか王族とかお金持ちに関わりやすいとか、そ、そんなことないですよ?

 魔法有りの異世界で魔法使いにもなれるから一石二鳥とか思ってないですよ!?






 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



 良いじゃない思ったって!!

 シンデレラ(玉の輿)とか、一度は憧れる乙女の夢ですよ!?


 夢見るくらい良いと思います!!!



 それに、リンダ副隊長に憧れてって言うのも嘘じゃないですよ。

 まあ、最初は不純な動機も多分に入ってましたが、今は純粋にリンダ副隊長に憧れてその下につきたいと思ってますよ。

 これも本当なんですって!


 別にミーハー心とか・・・・・・・ちょっとあったりしなくもないけど、イヤ、本当に純粋純粋!!



「私、第三師団じゃなくて、リンダ副隊長の居る第一師団に入るつもりだよ。」


「「はぁあああ!!??」」


 私のその言葉にガフさんとマリクさんは声を合わせて叫んでいた。

 一人よく分からないセイルさんだけが私の言葉に首を傾げながら驚く二人を見ていた。



「エミリーちゃん、言ってる意味わかってる?第一師団って言ったらエリートの部隊じゃないか。武術特化の第二師団や魔法特化の第三師団と違って、あそこは武術・魔法共に優れていないと入れないんだよ?しかも、王族を警護する近衛隊も入っているから一層厳しいって話だ。」

「むぅ、わかってますよ、それくらい。でも、目指すなら目標は高く持たなくちゃ!!」

 グッと拳を握り込み意気込む。

 

「いや、目標を高く持つのはいいんだけど、人には向き不向きってのがあるんだよ。エミリーちゃん。」

「おうおう、そうだぞ。第一師団は魔法だけじゃなれねぇ。武術も身につけなきゃならねえんだぞ。剣や槍を振ったことの無いエミリーちゃんにゃあ無理だと思うがね。」

「むぅ、そんなのやってみなきゃ分かんないじゃない!!もしかしたら隠れた才能があるかもしれないし!!」

 ちょっと無理矢理かなとも思ったが希望を込めて言ってみる。


「否、無いだろ。」

「それは無理があるよ。」

 二人して即答してくれやがりましたよ。コンチクショウ!!


「まあまあ、目標を高く持つのは良いことですよ。私は夢見るくらい良いと思いますよ?」

「・・・・褒めてるようでさりげなく貶してませんか?」

 セイルさんの言葉の方が酷い気がする。


 くそぅ!!

 絶対見返してやるんだからぁ!!!





「捜しましたよ、閣下。」


 ぶすくれていた私の頭をセイルさんが撫でていると、入口の方から凛とした抑揚のない女性の声が聞こえてきた。

 その声で一気に店内は静まり返った。

 その事に吃驚していると頭上から答える声が聞こえた。



「あれ?サラ、来てたんですね。」


 女性の声に答えたのは私の頭を撫でていたセイルさんで、彼はにっこりと笑いながら入口の方を見ていた。

 私も入口へ顔を向けると、そこに立っていたのは背中に羽を生やした女性だった。


「え・・・・てん、し?」

 思わず口からぽろっと出た言葉にクスッと笑う声を聴いてセイルさんの方に向き直ると彼は私の方を見て笑っていた。

「彼女は鳥の獣人ですよ。」

 その答えになるほどと納得し、再び彼女の方へ顔を向けると彼女は既に此方の傍へ来ていた。


 うひゃぁ~!!

 天使じゃなかったけど、この世界に転生して初めての獣人だぁ!!

 獣人と聞いて猫とか狼の獣人を思い浮かべてたけど、最初が鳥の獣人とは予想外だったよ。

 でも、獣人はファンタジーには良くある定番ですね!!!

 茶色っぽい大きな翼だなぁ。

 鷹とか鷲とかの獣人なのかな?

 ちょ、ちょっと触ってみたいな。

 駄目かな?やっぱ駄目だよね。

 ううっ、さ、触りたい。


 獣人の女性の羽をジッと見つめながらそんなことを考えている間、彼らの話は終わっていたようだった。

「閣下、そろそろ時間です。」

「それでは、迎えも来ましたし失礼しますね。エミリーちゃん、御馳走様。」

「あっ!!ありがとうございました!!」

 ニコリと笑って去るセイルさんたちに自分の仕事を思い出し慌てて見送った。





 彼らが店から出て行った後で周りからため息を吐く音が聞こえてくる。

 幾分か周りの空気も和らいでいく気もする。

 どうやら獣人の女性が入って来たことで店内の全員が空気を張り詰めていた様だった。


「いや~、吃驚した!!」

「本当に、鳥の獣人に会えるなんて驚きだなぁ。」

 ワイワイと急に賑やかになる店内に私はポカンとした。

 周りの話題は何処も先程の女性の事だったからだ。

「え?鳥の獣人って珍しいの?」

 私の疑問に笑いながらマリクさんが答えてくれた。

「ああ、この国自体獣人が少ないから分からないだろうけど、獣人の中でも鳥の獣人は珍しいんだ。滅多に見かけることも無いし、何処に住んでるかも他の獣人にも分からないらしい。噂だと高山の奥地に住んでるって話も聞くがそれも本当か定かじゃない。謎の多い種族なんだよ。」

「へぇ~。」


 獣人の中でも珍しいんですか。

 私としては獣人自体珍しいとは思うんですけどね。

 ちょっと驚きです。


「鳥の獣人に会えるなんて俺も運が回って来たか?ガハハハハ!!」


 否、何ですかそれ。

 縁起ものかなんかですか?

 それもそれで驚きですよ。


 あははっ、とちょっと呆れながらもガフさんに苦笑を漏らす。

 周りに耳を傾けてみると、他の客の話題も似たり寄ったりで、しかもガフさんと似たようなことまで言っている客もいる始末。

 これが前世知識を持っている者とこの世界の人との認識の違いなのだろうか、とこっそりため息がこぼれたのは仕方ないと思う。





 それにしても、セイルさんはそんな凄い人と知り合いなのには驚いたな。

 しかもクールな美人さんだったし。

 軍服っぽい服装でセイルさんの事を閣下って言って何か似合う~・・・・・・・・・・


 って、え・・・・・・・・・・・・・・かっ・・・・か?


 えっとぉ・・・・・・・・


 セイルさんってもしかして結構偉い人?






 セイルさんへの謎は深まるばかりだった。




ちょっとおまけの後日談


「フッフッフッ!!マリクさん!ガフさん!私、宮廷魔術騎士団の試験に合格しましたよ!!」

「おいおいマジかよ。」

「それは、凄い。」

 二人の座るテーブルの傍で仁王立ちした私は自慢げに答えた。

 唖然と私を見遣る二人の顔を見てちょっと優越感に浸る。

「それじゃあ、本当に第一師団に?」

「あ、いや、それは・・・・第三師団です。」

 そう、見習いとして配属された部隊は希望していた第一師団では無く第三師団だった。

 まだ見習いと言うことで正式にその部隊に配属された訳ではないが、配属される部隊は見習い期間から殆ど変わることは無いと言う。実質その部隊に配属されたようなものだ。

「何だ脅かすなよな。」

「ホント、まさか第一師団かと吃驚した。」


 は?


 吃驚したと笑い合う二人に私の方が驚いて二人を見遣る。

「ま、だよなぁ。どう見てもエミリーちゃんは武術に秀でてるって感じじゃなかったしな。」

「そうだね。魔術の才能はあったから第三師団ならいけるとは思ってたけど、流石に第一師団はねぇ。」


 ぐっ!!

 否、まあ、試験官にも似たようなこと言われたし否定は出来ないけれども!!!

 それでも、何か!!

 ムカつきますよ!!!


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