愛娘観察日記(父談)
第三者視点です。
俺の名前はラウロ・クラッセン。
セルビナ王国の首都グラードにある小さな定食屋を親父から引き継いで妻のステラと二人で営んでいる。
妻との出会いは、まあ、割愛させてもらおう。
あぁ、まぁ、強引だったとだけ言っておこうか。
最近妻との子を授かった。名前はエミリア。
俺に似ずに妻に似てとても可愛らしい女の子だ。
娘はとても好奇心が強くてよく常連の奴らに話をせがんでいる。特に魔法が好きらしくて、終いには常連のマリクから魔法を教わることになった。魔法は危険なものが多くて正直言って親としてはやめて欲しいんだが。
娘の泣く姿は見たくない。赤子の時に俺の顔を見るたびに泣かれた時には正直堪えたよ。娘には泣かれないように細心の注意を払っているんだが。その所為か娘の我が儘を止め難いんだよ。
ああ、本当の事を言おう。
甘やかしてる自覚はある。
仕方がない。父親にとって娘は甘やかしたいものだ。
そのことを俺も一児の親になって痛感したとこだ。
その分妻が躾には厳しいようで娘はしっかりと育っている。
娘の余りにも可愛い成長ぶりに密かに成長記録を付けていたらステラにそれを見られてしまった。
内容を見た後の俺に向ける妻の顔は忘れられない。
優しく肩を叩かれても慰めになっていないからな!!
ちくしょう!!
マリクから魔法以外にも学問も教わっているらしく、最近では夜遅くまで明かりをつけて本を読んでいる。勉強熱心なのはいいのだが、まだ小さいのに体調を崩したら心配なので妻と交代で見に行っている。
「エミリー。もう寝なさい。」
「はぁい。おやすみなさい、父さん。」
「おやすみ、エミリー。」
エミリーは魔力量こそ少ないが魔法に関する適正は高いようで、様々な魔法を使えるようになっていた。
終いには、何時図書館に行って来たのかは知らないが先月は隣国で有名なフェイダル・ハドリーの魔法理論を知っていたり、先週は同じくフェイダルの複属性融合魔法を披露したりと才能の片鱗を見せていた。
うむ、娘はやはり天才だな!
しかしなぜ最初にマリクに披露するのか。
ここは最初に両親に見せて欲しかった。
嫉妬したので娘が披露した日はマリクをシめてやった。
ちょっとすっきりした。
今日もエミリーは上機嫌でマリクと空地へ出かけて行った。
多分最近作っていた物を見せるんだろう。
だから何故父に見せないのだろう。ちょっと寂しい。
「あなた。そこで何してるの?」
「・・・・。」
後ろから淡々とした妻の声が聞こえてきた。
予想はついているのでちょっと振り向きたくはないかな。
「仕事はどうしたの?」
「・・・・・・・・・。」
「騎士団に通報されたのは何回目?」
「・・・・・三回目か?」
「十回目よ。」
即答で返された。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「仕事に戻るわよ。」
「もう少しだけ・・・。」
「か・え・る・わ・よ?」
「・・・・・・・・・・はい。」
帰って妻から説教を受けつつ仕事に戻りました。
暫くして娘は帰って来たのだが、何故か沈んでいる様子だった。
「おかえり、エミリー。」
「ただいま。」
「どうした?体調でも悪いのか?」
「ううん。大丈夫。」
そう言うと、エミリーは奥へと引っ込んでしまった。
何かあったんだろうか。
もしやマリクに何か言われたか?
取り敢えず今日もマリクをシめとくとするか。
補足
ラウロのつけた愛娘成長記録を読んだステラはドン引いた・・・・・・・ではなく、憐れんでました。
最初の頃の父に対する娘の余りにも遠い距離に対して。
当初は成長記録と言うより、父の娘の遠すぎる距離をどう縮めるかの奮闘記になってます。
その内容があまりにも事細かに切々と書かれていたのでステラはその日記をそっと元の位置に隠したのだとか。