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先を越されました

 


 改めまして、こんにちは。

 わたしはエミリア・クラッセンと言います。

 どうぞ気軽にエミリーと呼んでください。


 わたしの生まれは、緑豊かな王国セルビナの王都グラード。その城下町で営む小さな定食屋の夫婦の娘として生を受けました。


 父ラウロ・クラッセンは厳つく目付きも鋭い何処の盗賊ですかと言う凶悪な人相なので初めは怖くて泣いちゃいました。口数が少ないせいか余計に凶悪そうに見えるんですよね。でも、本当はとっても優しい父なんですよ?

 そんな凶悪顔な父ですが、手先が器用で料理の腕は超一流です!!常連さんも、あんな凶悪顔で不器用そうに見えて、こんな繊細で美味い料理が作れるなんて驚きだっていつも言ってます。


 母のステラ・クラッセンは豪快で男勝りのカッコイイ美女な母親です。母さんは逆に不器用なので、父さんに台所へ立つことは固く禁じられています。禁止されるほどとは何処まで不器用なのか知りたいような知りたくないような・・・・・。

 そんな不器用なステラ母さんですが、昔は一流の冒険者として名を馳せていたんだとか。昔同業者だったと言う常連のおじさんが教えてくれました。見た目は可憐な美少女は、腕っ節の強いと有名な戦士を一撃で沈めたほど凶悪な冒険者だったんだとか。ちなみに、そのことを教えてくれたおじさんは母さんの笑顔の鉄拳に沈みました。その時の母さん、ちょっと怖かったです。


 と、まぁ、美女と野獣の営む賑やかな定食屋で、常連さんにも可愛がられながらわたしはすくすくと育ちました。




 そんな彼らに見守られながら、まず初めにやったことは言葉を覚えること。

 ほら、ラノベ何かには主人公が赤子で既に言葉が喋れたりするじゃないですか。前世の記憶があるからそういうのも楽勝なんじゃないのかと思ったんですよ。でも、実際やってみて無理だと判明しました。


 先ず言語機能がまだ発達してなかったです。

 次に異世界の言語が全く解りませんでした。

 一応英語の文法と似ていることは分かりましたけど、単語自体が分からなかったので何を言っているのかさっぱりでした。

 これは赤子の真っ白な状態で覚えた方が吸収し易いってことですね。無駄に前世の記憶が在るとその記憶が邪魔をするんだなって思いましたよ。特に日本語と全然違うから覚えにくいの何の。

 他の子達と変わりませんでした。否、寧ろ前世の記憶がある分遅れていた気がします。

 ちょっとショックです。ううっ。


 仕方が無いので今度は別のところから攻めてみることにしました。

 せっかく異世界に転生したことですし、魔法、使ってみたいですしね。

 こんな時定食屋の娘ってラッキーかなって思うんですよね。両親の営むこの定食屋は冒険者ギルドに近く客は特に冒険者の人が多いんですよ。だから魔法使いだって常連さんにはいるわけで。

 もちろん教えてもらいましたよ。ふふふ。

 秘技、幼児のつぶらな瞳でイチコロですよ(笑)!

 序でに文字も教えてもらうことになりました。魔方陣描くのに必要になりますからね。まあ、わたしには別の目的がありますけど。



 わたしに魔法と文字を教えてくれることになった魔法使いの人はマリク・ブラウンさん。

 ちょっとお髭がダンディなおじさまです。

 冒険者ランクではBとわりとお強いらしいですよ。あ、冒険者ランクと言うのは冒険者ギルドがつけているランクのことで一番強いランクからSS、Sと続いてA~Fと八段階あります。こういうのは定番ですね。マリクさんは上から四番目なので強いんじゃないんでしょうか?

 まあ、戦うところは見たことがないのでわからないんですが、色々な魔法を知っているんです。

 ちなみに、母さんの冒険者ランクはSだったらしいです。母さん、強かったんですね。鉄拳を食らったおじさんの顔が物凄いことになっていたのも頷けます。ガクブルものですよ。


 そんな物知りなマリクさんに今日も近くの空き地でお勉強会です。

「マリクさん。マリクさん。今日はどんなことを教えてくれるんですか?」

「そうだね。文字大分覚えたことだし、そろそろ魔法について教えようか。」

 空き地について早速マリクさんに詰め寄ったら彼は苦笑をこぼしながらダンディなお髭を弄って言います。

「まず、属性について話そうか。」



 魔法には属性があり、大きく分けて七つ。地、水、火、風、光、闇そして無です。無は時間や空間と言った他の属性に当てはまらない魔法を総称して無属性としているそうです。勇者召喚なんかも無属性魔法らしいです。と言うか、勇者召喚の魔法なんてあるんですね。ますますファンタジー。

 魔法を使うには体内にある魔力をエネルギーに基本はイメージによるみたいだけど、補助的な意味で詠唱、魔方陣でどのような魔法を行使するか決めるそうです。熟練者、高位の魔法使いともなると詠唱短縮や無詠唱で魔法を使う人もいるそうです。すごいですねぇ。

 私は魔法を始めたばかりのど素人なので長ったらしい呪文を魔導書(「スライムでもわかる簡単魔法入門編」と言う児童書)をもとに詠んでます。

 私はマリクさんのチョイスに抗議しても宜しいでしょうか?

 あと、スライムって脳みそありましたっけ?


火球(ファイヤーボール)!」

 最後の呪文を唱えると、全長1m程の火の玉が空中に現れる。

 思っていたよりも大きかったので、おっ!?これはもしや魔力チートとかいけるのか!?

 みたいなことが一瞬駆け抜けました。

 ええ、一瞬だけ。


「おっ。・・・・普通より少し小さいな。」


 は?

 これが?

 小さいだと!?


「ちなみに、普通はどのくらいの大きさなんですか?」

「大体2~3mかな。凄い奴だと5mの玉を出す奴もいるが。魔力が少ないのかな・・・・ま、まあ、気にするな。」


 半分以下・・・・。

 この世界の奴らどんだけ魔力デカいんすか!?

 魔力量半端ねえな!おい!!

 ・・・・ゴホン。少々取り乱してしまいました。失礼。


「取り敢えず先に進もう。まずは他の初級魔法を教えよう。」

「・・・・お願いします。」



 あれから数時間。初級魔法と簡単な中級魔法を教えていただきました。

 こう言っては簡単そうに聞こえますが、まだ始めたばかりのど素人なので魔法が失敗することも何度かありました。取り合えす一通りやってみることにしたんです。

 そしてやってみて分かったことが二つあります。

 まず、やっぱり私の魔力は普通の人より少ないということ。と言うか、この世界の人の魔力量が多すぎな気がするんですけど。これが普通なんですかね?

 そして二つ目は殆どの魔法が大味だということ。

 繊細さ?コントロール?何それ美味しいの?魔力沢山あるんだし、的が小さくても弾が大きければ当たるでしょ!みたいなものばかり。イメージしてたのと違う・・・・・・。


 私はここで一つ言いたい。

 何でもかんでも特大にすればいいとかじゃ無いと思うんだ!!

 第一火球1mでも危ないと思うよ!?

 この世界の魔法は危ないモノばっかだな!!?


 ウォッホン・・・・また取り乱してしまいましたね、失礼。

 と、まあ、予想外なこともありましたが魔法のお勉強は順調に進んでます。


「エミリー。もう夜も遅い。その位にして寝なさい。」

 夜遅くまで自室で蝋燭の明かりを頼りに本を読んでいたら父さんが声を掛けてきた。多分扉が少し開いていて、蝋燭の明かりに気が付いたんだと思う。それに私まだ幼児ですし、何時も私が寝てるかどちらかが確認に来ますしね。

「はぁい。」

 開いていたページに栞を挟んで、いそいそとベッドの中に潜り込む。そうすると父さんはテーブルに置いてある蝋燭の火を吹き消してくれる。

「おやすみ、エミリー。」

「おやすみなさい。父さん。」

 私はまだ幼子なのでベッドの中に入ればすぐに夢の中へと直行していった。




 さて、魔法の勉強も順調に進んでいる今日この頃。

 文字の読み書きもだいぶスラスラ書けるようになったと思うのですよ!!(幼児にしてはだけど)

 そろそろ私の野望を叶える時が!!

 現代日本の知識を生かして知識チートなんぞやらかして見ようかね!?


 と、意気込んで見たのはいいんですが。

 はてさて、知識チートとはどんなのがあるんでしょうかね?

 現代科学を用いた魔道具作製とか?現代知識を応用して新たな魔法理論の発見とか?

 そんな感じ?

 ああ、もう少し大きくなって軍とかに入ったら地球の戦術を使えるかも。

 あっ!でも私歴史マニアとかじゃ無かったし昔の武将の戦略なんて中・高の歴史の授業で習ったものしか知らないなぁ。

 じゃあやっぱり魔道具作製か魔法理論の発見かな?

 幸いと言うのか現代の魔法理論は中々に遅いらしい。

 と言うのもこの世界の人の魔力量は平均でバカでかく、理論云々で堅苦しく考えるよりも適当に魔法を使ったら半端無い火力の物が出来るのだとか。この世界の人達がチートですか。何だか視界がぼやけてきそうです。くすん。


 そんなだから魔法理論何てのは遅々として遅れているのが現状なんですよね。

 だから今のうちに先駆者として名を馳せられるんじゃないかと思うんですよ。

 ラノベとかによくある話ですね!

 天才とか、神童とかちょっと言われてみたいなって。

 そんな訳で前世の知識を活かして新たな魔法理論の発見に勤しんでいる最中です。






 新たな魔法理論の発見に勤しんで早数日。

 早速発見したので論文にまとめてみました。

 と言っても地球の数学や化学の理論を応用したので楽と言えば楽だったんですけどね。


 ところでこの論文はどこに見せればいいのでしょう?

 魔術研究所的なところでしょうか?

 でもそう言うのって国が管理してるんですよね。それだと世界的に有名になれない。

 ん~こういう時はそういうのに詳しそうな大人の人に任せようと思います。

 ということで、早速マリクさんに見せに行って来ました。




「これ・・・・・。」


 ふふふ。

 驚いてる驚いてる。


「凄いな!フェイダルの理論か!!」


 ん?

 フェイダルの理論?

 え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「隣国の魔法使いが数年前に発表した理論だな。最近世界中に広まり出したって聞いたが、エミリーちゃんもよく知ってたな。ああ、もしかして図書館で彼の本を見たのかな。」


 何ですとぉ!!!??

 くっ・・・・まさかこの理論を考えていた人が居るとは。

 つ、次いこう次!!

 新しい魔法を作ってやる!!




「おお~!複属性融合魔法かぁ。確かこれはフェイダルが子供時代に開発した魔法で有名だったな。」


 またかよ!!

 またフェイダルか!!


「エミリーちゃんは凄いなぁ。もしかしたらおじさんよりも魔法の才能があるんじゃないか?ハハハッ!!」


 うう、今度は魔道具だ!!

 今度こそ先駆者になってやる!!!




「お!今度は魔道具か!!エミリーちゃんは物知りな上に器用なんだな。流石ラウロさんの娘だな。手先の器用さはステラさんに似なくて良かったな!ハハッ!!」


 また!?

 またなの!?

 また奴なのか!!?

 そして何気に母さん貶してるよね!?マリクさん!!


「しかし、今度は小さな島国出身の異才とまで呼ばれたエンジュ魔道具技師の作品を作るとは驚いたなぁ。」


 フェイダルじゃないのかよ!!


「この人はあまり有名じゃないんだけどよく知ってたな。エミリーちゃん。」


 いや、別に知ってて作った訳じゃないんですけどね。


「有名じゃないんですか?」

「この人の作る魔道具は少し特殊な物が多くてね。一部では有名なんだけれど、余りにも特殊過ぎて一般には有名になりきれなかった人物ではあるんだよ。」

「そうなんですか。」


 特殊過ぎって何作ったんですかその人!?

 てか、その人達絶対私と同じ転生者だよね!?

 現代の知識バンバン取り入れてたからそうだよね!?そうじゃないと説明つかないとこもあるし絶対そうだよ!!

 ううう、先越された。


「エミリーちゃんは凄いね。小さいのに魔法理論を知っていたり、難しい複属性融合魔法の制御が出来たり、複雑な魔道具が作れたり。エミリーちゃんは天才だな!!」


 うう、何か、何か嬉しくない!

 目的達したのに何か嬉しくないよ!!

 私の思ってた天才の意味合い違うよね!!



 もう・・・・もう・・・・・・・不貞寝してやるぅぅぅ!!!!!



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