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①ゲームの強制イベントを異世界でやると……

 はい、アウト!次……ってこれじゃ分かりませんよね。今回はタイトルにもある通り、「強制イベントを異世界で起こす」時に発生する違和感と、解決法についてお話していきたいのですが……書いていく内にどんどん膨れ上がってしまいました。ですので、ここでは違和感の方についてお話します。解決法はまた次回です。


 強制イベントを起すこと自体は良いんですよ。そもそも、全てのイベントが強制ですから。ゲームブックでもない限り、読者は作者の描いたものを順番に追うだけですので。問題になるのは、ゲームのノリで、ゲームでしか通用しないロジックをそのまま異世界で使おうとした時。これの例で何か良いのが無いかと考えたのですが、やっぱり一番分かりやすいのが「追放」イベントです。と言う訳で、現行の「追放」が抱える問題と、それに追い打ちをかけていく、割と見る問題を上げていきます。


 基本的な「追放」の流れをおさらいしましょう。


 ・主人公は所属している組織/団体などからの追放を言い渡される

 ・ついでに散々罵倒される。「無能」などと呼ばれる事が多い

 ・主人公は言われるがままであるか、反論しても相手が一切聞き入れない

 ・主人公は「この世の終わりだ」みたいな反応で困っていたり、落ち込んだり、ショックを受けていたりする

 ・主人公の追放が終わって一人になる

 ・能力が開花したり、どこからともなく湧いてきた信者に囲まれる


 だいたいこんな感じでは無いでしょうか。パーティーからの追放や勘当が多いイメージです。その中でも一番破綻しているパーティーからの追放を見ていきますが、根本的な問題は勘当などのパターンにも当てはまります。


 と、その前に、まずはゲーム内での「追放」がどう見えるのかを書いてみました。


 「ん?なんだ?イベントか?どれどれ……え?追放?何じゃそりゃwwウケるwwっておい、すげぇ言われようだなぁ……いや、言い返せよww……ほう……ほうほう……ああ、なるほどね。ここからは自分で仲間を集めるのね。はいはい、チュートリアル終わりね……それにしても適当なイベントだな、発売前日に考えたでしょ、これ……ん?覚醒?ちょwww何これ、ウケるwwスキル覚醒って、おい。しかも超強いじゃん!?やべぇ、これやべぇ。ちょっと、試し撃ちしてくるわぁ。やべぇなこれ。楽勝じゃんかw」


 はい、ゲームのプレイヤーからしたら別に何ともないイベントですね。スキルが覚醒した瞬間にはもう何が起きていたかも忘れるくらい。どうでも良いから。覚醒したスキルをぶっ放したくてウズウズしてるんです。追放される理由も直ぐに分かっちゃいます。強制的に一人にして、強さを底上げするイベントなんだな、って。自分のキャラが強くなるのだから、文句など無いでしょう。しかも、読書と違って、ゲームのイベントって否応なしに進むんですよ。そして直ぐに終わる。「なんだこの取って付けたような展開は」なんて思ってるうちに終わるんです。そしてご褒美がもらえます。操作キャラクターが強くなったり、一気に別の仲間が増えたりします。


 では、追放イベントを異世界で発動させている、そんな作品を読むとどうなるかと言いますと……まともに読むことが出来ません。数行おきに「なんでやねん!?」ってなって、読むどころじゃないんです。破綻し過ぎていて。その根本的要因は……そう、「追放」そのものなんです。


 いきなり「追放だ!」と言われても、読者にはそれがこの世界で何を意味するのか、主人公にとって何を意味するのかが分からないんですよ。


 言い換えれば

 「お前を今日限りでこのパーティーから追放する!」

 =

 「今日限り、君とはもう一緒にイオンモールに行かない!」

 なんですよ。


 「……それがどうした??」


 としかならないんですよ、読者は。追放されたから何がどうなるのか、これが分からないからです。だから「追放する」と言われた主人公が困る理由も分からない。共感のしようがないんです。しかも、その違和感に被せるように、どんどん話がおかしくなっていくんです。


 そもそも、追放は単に主人公を可能な限り理不尽な、可哀そうな雰囲気でどん底に突き落とすのが目的なんです。ついでにヘイトを集める役を置いて、追放の後によく続く「ざまぁ」と呼ばれる復讐・逆転劇の爽快感を高めるんです。それをやるのにゲームで言う「強制イベント」としての追放が使われる、と。微塵も成り立っていないんですけどね、異世界だと。


 追放その物が意味不明なので主人公を可哀そうと感じない。この状態で追放する理由が語られ始めます。大きく二つのパターンがあります。


 ・追放する側がド正論で、何も間違っていない

 ・追放する側が生活に大きく支障が出るレベルの知能障害を負っている。主人公も彼らと同程度の知能しか持ち合わせていない。


 どっちで来られても、違和感なんですよ。一つ目のパターンだと、描写はいかにも追放する側が悪党である風に見せようとするのですが、どう考えても正しいので、描写との間に乖離が生じます。二つ目のパターンだと、言ってる事がめちゃくちゃすぎて、笑っちゃうんですよ。どれくらいかって言うと、そんな人間がその年まで生きて来れたことを疑いたくなるレベルです。


 これをゲームでやられると、「あ、これは強制イベントだな」って気づくんです。そして心は早くも次に何が来るのか、どんなボーナスを貰えるのかに向くのです。世界に没入しようとする異世界でのお話を描く書物だとそうはいかない。


 ちょっと、ここで、ド正論パターンを見てみましょうか。


 「この役立たずがぁ!」→誰からも反論無し=事実

 「テメェのせいで死にかけただろうがよぉ」→同上

 「後ろでコソコソと、何やってっか分かんねぇんだよ!」→同上

 「足引っ張りやがってよぉ!」→同上

 「テメェに出来ることぁ、このアイテムでも出来っから、もう要らねぇんだわ」→事実を述べているだけ

 等々


 誰一人として追放側の言い分を否定しない、出来ていないので、読者の中ではそれが本当の事であると言う認識が生まれます。しかも、パーティーからの追放って、冒険者パーティーからの追放なんですよね。そして、冒険者とは命がけの稼業だとされてるんですよ。そんな命がけ稼業で足を引っ張るとか、仲間を危険な目に会わせてしまうとか、コミュニケーションを放棄してるとか、ただのクズですよ。むしろ、何故それまでは一緒に居るのを許されていたのかが分からない、ここまであります。(当然、なぜそれまでは一緒にやっていけたのかは一生説明されません)まぁ、一部は追放劇の後で主人公の独白や行動から分かるんですけどね。主人公が本当に役立たずで、自分からは動かない癖に察してもらうのを当然と思っていて、感謝の気持ちなど無く、どう考えても足を引っ張っていた、と。


 正論パターンにはもう一つありまして、追放後に主人公が覚醒する、というもの。この時は一見すると超強い主人公のポテンシャルを見抜けなかった、ただのおバカさんなんですが……ちょっと考えてみてください。覚醒する予兆があったなんて描写は無いんです。主人公本人も、覚醒するとは微塵も思っていない所から、いきなり「覚醒!強い!」ってなるんです。つまり、パーティーに居た頃は役立たずだったって評価を引っ繰り返してないんです。事実です。抜けて初めて覚醒してるんですから。それを見抜けないって、「未来完全予知」のスキルでも持ってなければ無理ですって。


 結果として読者から見ると「追放とか言う何のデメリットもなさそうな事件と、言葉は強いが何も間違っていない元仲間。それを受けて落ち込んでいる結構クズな主人公。そんな主人公が可哀そうだとアピールをしてくる作者。うん、無理」ってなるんです。そんな奴の活躍には何の興味も湧かないし、感情移入も無いし、そいつが後で「ざまぁ」なんかを能動的にし始めたら胸糞悪いです。非があったのは主人公の方なんだから。


 ここで忘れちゃいけないのは、ゲームなら上記が許されるって事です。感情移入なんかしなくて良いんですから。操作さえできていれば。プレイヤーが動かすのだから、キャラの活躍じゃなくて、自分の活躍として捉えられるんですよ。最初からね。勝手に動くキャラの応援をする訳じゃないから。ゲームならこんな物でも通ります。操作キャラに非があっても、強制的に操作せられているだけなので、自分に非はない。


「俺は足なんて引っ張ってない!会話の選択肢が無いから言い返せないだけだ!」


 なんて事を叫びながらもゲームは続く。ゲーム、は。


 さて、二つ目の「知能がどん底を突き抜けて奈落でロストされている」パターンを見てみましょう。おさらいですが、「追放」とは理不尽な理由で主人公を追い出し、主人公には同情を、追放する側にはヘイトを集めるのが目的です。それを踏まえると、「追放側の言い分が理不尽である限り良いのでは?」となりそうで、なりません。度を越した理不尽を二つばかり例に出しましょう。


 主人公「僕の力でみんなを『ぷんたこす』から守っているんだよ!」

 仲間A「はぁ?『ぷんたこす』なんて見た事も無いんですけど?」

 読者「たった今「俺が『ぷんたこす』から守ってやってる」って言われただろうが!?パッパラパーか、テメェは!?」


 主人公「僕は前線に立てないけど、皆を『ふぁいちゃ』の力で強化したり、治したりしてるんだよ!」

 仲間A「はぁ?違いなんて感じた事ねぇし、全部俺らの実力だし」

 読者「強化されとう時とされてへん時の自分の体の違いも分からんのけ!?借り物か、その体!?他者と比べて傷が治りやすいとか無いんけ!?」


 もう、ね、生きてる人間に見えないんですよ、ここまで来ると。『ぷんたこす』みたいな物も、大体は溢れている事になってるんですね。つまり、他の冒険者たちは普通に遭遇しているはずなんです。そして話題にも上るはずなんです。一切他の人間とコミュニケーションをとってこなかった場合に限り、自分たちが他と違うのに気づけないのは納得できます。でもそんな訳ないんです。普通に酒場に行ってる描写とか同時に存在したりしますし。


 強化や治癒だってそうです。まず最初に自分の体の変化で効果を実感してるはずなんですよ。そして、他者から聞く依頼難易度がこなした時の難易度とズレている事にも気が付くはずなんです。皆が言うほどの苦戦はしなかったな、って。


 どちらも目の前や自分に起きている現象の理解が出来ていない知能の低さと、命がけなのに他者との交流も情報交換も一切していない、そんなあり得なさを醸し出してるんです。ゲームならそれでも良いんです。強制イベントですから。誰もゲーム内の登場人物にリアルな人間であることを期待していませんし。プログラマーが仕込んだ通りの動きをするだけの人形なんですから。ゲーム内の登場人物は。異世界の登場人物と違って。


 「命がけで冒険者をやっている、血の通った人間」に見えないんです。何でも良いから理不尽な事を言わせる事にばかり作者が集中して、強制イベントを起させているから。段ボールに子供が鉛筆で「へのへのもへじ」を書いたのを、上から糸で吊るして「人間でござい、人間でござい」ってやられているようなものなんです。世界への興味すら失せてしまいます。


 主人公も主人公です。別のパターンでは直接戦闘に関われない(ように思われている)スキルとかを「無能」と批判されて「確かに僕はこれしか……」って言いだしたりするんですよ。そんな時に限って、ちょっと考えれば戦闘でもメチャクチャ強いスキルだったりするんです。魔物使い系とか。住民もバカなら、主人公も負けじとバカです。明らかに本気で生きてない。命がけの職業についておきながら。ここまで生き残ってるのが信じられない、そんなレベルのバカたちがバカな事を言い合ってるんです。こんな段ボールが生き残れるのはゲームの世界だけですよ。


 他にも色々あるのですが、あまり細かく上げていくと「あれじゃん」ってなるんですよね。一度ここでまとめましょう。


 「追放とか言う何のデメリットもなさそうな事件と、人間に見えない段ボール同士の掛け合いと、ぺらっぺらの世界と、何でも良いから話を進めたい作者の思惑が絡まって、最終的に一切の興味を削ぐ」


 予想をはるかに上回る長さになってしまいました。次回は解決法に迫りたいと思います。設定の部分を思い出せる皆さんはもうお分かりですね?そう。同じなんです。問題も同じ、解決法も同じ。ただ、正直言って、ここで見てきた「冒険者パーティーからの追放」を「主人公が理不尽な目にあって可哀そう」として成り立たせるのは結構難しいです。いや、難しいと言うより、必要な「アレ」が大幅に増えます。勘当や国外追放の方が遥かにやりやすいです。

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