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異世界なのにゲームだと思っている問題

 ここまでは異世界にゲーム要素を塗りたくった場合の弊害と、それの対処法を見てまいりました。しかし、困った事にそこさえクリアできれば良いと言う訳でもありません。異世界なのに完全にゲームの中に入り込んだ言動を繰り返す、そんなキャラクターが居ると、それはそれで違和感の元になるのです。いや、違和感どころか、読むのが嫌になってきます。転生・転移系主人公に多く見られることから、私はこれを「主人公サイコパス問題」と呼んでいます。具体的に見てみましょう。


 大前提として、異世界はリアルな世界とも呼ぶことが出来ます。そこに何らかの理由で主人公が降り立ちます。そして始まるのです、異質な言動の数々。


 ・気に入らない奴には鉄拳制裁

 ・冒険者などの、命を懸けた日雇い労働者への強烈な憧れ、それ以外の選択肢が無い思考からくる「ギルド登録まっしぐら」

 ・普通に奴隷を買う/飼う

 ・眉一つ動かさずに殺生していく

 ・相手が誰であれ、ため口と尊大な態度


 ちょっと、そんな主人公の独白としてまとめてみましょう。


 「うおおぉお!異世界じゃねぇか!ひゃっほう!これだよ、これ。これをずっと待っていたんだ」

 「元居た場所ではうだつの上がらないリーマン社畜ニート(好きなのを選んで)だったけど、ここなら憧れの充実ライフを送れるぜ、っておろ?誰かが襲われてるな。よし、この『ほげっぴ』能力でぶち殺してやろう」

 「前々気に入らなかったんだ、弱者をいたぶる頭の弱そうなやつ。生きる資格がないぜ。って、もう死んじゃったのか。張り合いがないな。よし、憧れの冒険者になって、『ほげっぴ』の力でバリバリ敵を倒して、成り上がるんだ」

 「金も力も名声も手に入るし、さっき市場で見かけた可愛い奴隷もこれで買えるってもんだ。って、ん?領主が俺を呼んでいるだと?いいぜ、行ってやるよ。ただし、俺はもう誰にも頭を下げないし、ため口で喋る。前の生活で嫌になるほどやったからな。これからは人間の尊厳って奴を大事にするのさ」


 如何ですか?え?別に問題が無い?異世界なんだから全く新しい人生を送るのも普通だし、向こうには奴隷がいるなら主人公が所有していても良いじゃないか?これまでは嫌な奴に言い返すことも出来なかったけど、力が手に入ったからうっぷんを晴らすのは普通?ため口も主人公の言う通り?嫌な奴らだって死んで当然なんだし?


 なるほど。では、「異世界」の部分を、そうですね、『コンゴ共和国』に。謎能力『ほげっぴ』をチートスキル『弾薬無限』に、『冒険者』を『傭兵』に変えてみましょうか。


 仮に現代日本からの転移・転生だとしたら、『コンゴ共和国』は十分に異世界と言えるでしょう。何もかもが違う。人の見た目すら違う。文化も歴史も状況も。傭兵になれば一攫千金だって狙える。紛争が絶えないし、実力で領土を手に入れることだってできる。そこで採れる資源を売り払って大金持ちにもなれる。奴隷も辺境に行けば幾らでも手に入る。では、独白第二弾です。


 「うおおぉお!コンゴ共和国じゃねぇか!キター!!これだよ、これ。元居た日本では嫌な奴に何か言い返す度胸も無かったけどさ、今見たら隣にAK-47自動小銃落ちてるし、チートスキル『弾薬無限』もあるし、ここからは好きに生きてやる!」

 「まずは、目障りな盗賊っぽいのをぶち殺して、奪った装備を売ったりして身の回りの世話をしてくれる奴隷女を買いますよ、と。それが済んだら傭兵登録だ。憧れてたんだよなぁ、実力主義」

 「ここなら一国の主にだってなれる。成り上がってやるぜぇ、っておろ?族長が俺を呼んでいる?良いぜ、行ってやるよ。言葉遣いなんて気にしないけどな。俺は自由に生きると決めたからよ。がははは!」


 如何ですか?え?コンゴは現実世界にあるけど、異世界は架空だから違う?


 そこですよ、そこ。世界は架空でも、そこに生きる者たちにとってはそれこそが「現実」なんですよ。とうぜん、そこに現れた主人公にとっても唯一無二の現実なんです。


 で、更にこの「異世界」を「ゲーム内」に入れ替えて同じ独白をさせると、あら不思議、違和感ゼロになっちゃいます。だって、ゲームだもの。現実にはできないことが出来る。何故なら、痛くも痒くもないから。無意識にそう感じるんですよ、誰でも。画面上のピクセルを動かして、別のピクセルに攻撃。勝った負けた。ピクセルを買い、ピクセルにため口をきく。NPCなんてどれだけ死んだことになっても知った事では無い。ボタンを押し込む感触しかしないし。堰を切ったように欲望と抑圧された感情を垂れ流す主人公には共感すらできます。ゲームなら。だが、現実なら?


 現実なら、腸をぶちまけるとクソと血の入り混じった悪臭がしてくる。耳に痛い喚き声。必死に助けを求める女の声が銃声でピタリと止む。燃える家の熱気が肌を焦がし、短パンしか履いていない足に草木が食い込む。手にしたAK-47は思いのほか重く、引き金を引くと反動で落としそうになる。等々。


 相手にとっても自分にとっても「現実」なら、あんな狂ったことはしないでしょう?するならそれは既にサイコパスですよ。ただのサイコ野郎なんです。別に良いんですよ?サイコパス全開主人公でも。今回の例に出した主人公の経歴をちょっとだけ変えてあげるんです。


 うだつの上がらなかったリーマン・社畜・ニート・陰キャ・恥ずかしがり・落ちこぼれが事故で死亡して転生。

 ↓

 アドレナリン・ジャンキーで、三度の飯より戦闘を好んだことから、独学でフランス語を身に付け、フランスの外人部隊に入隊。ついたあだ名が「ジャパニーズ狂犬」で、村を襲ってる最中に死亡、転生。


 はい、全てのつじつまが合いますね。人を平気で殺せるのも、殺したがるのも、気に入らないと暴力が第一候補なのも、戦いたがるのも、人を人と思わないのも、一度死んでも平気だったから尊大な態度をとるのも。元々サイコ野郎だったから納得です。そんな主人公の話を読みたいかはまた別ですよ。


 ようは、自分がゲームの中に居ると思い込んでいるか、サイコ野郎か。どっちかになってしまうんですよ、印象が。サイコ野郎として周りから認識されていない描写ばかりなら、これはもう「頭の中だけゲーム気分」ですね。結果、「なんでやねん!?」と一ページに一回は読者が叫んでしまい、没入不可。設定と言動が噛み合っていないから。


 長くなりすぎるので、この例はここまでにしておきましょう。次は「ゲームのイベントとしてなら良いが、現実だと圧倒的説明不足」な状況を見ていこうと思います。これも主人公が絡んだりしますが、周りの言動も大いに関係してきます。

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