異世界とゲーム世界の違い
本題に入る前の軽い前置き。
「異世界」と「ゲーム世界」は違う物であると私は認識しています。違うんですけど、「ゲーム要素たっぷりの異世界」も、「異世界と見間違えるほどのゲーム世界」も、「ゲーム要素たっぷりの現実世界」のように二つを混ぜても良いんです。なんなら、既にそう言った作品はいくつも存在しています。私からの不満や文句もありません。片方がダメとか、片方が良いとかの話ではないのです。問題は違いを意識せずに混ぜた時に起こります。
それでは、私の定義する「異世界」とは何か。
平たく言えば、「現実世界のように喜怒哀楽を持ち、精一杯生きている人間(あるいは種族)が古来から暮らしている世界」ですね。これだけ言うと「そういう設定にしたゲーム世界と何が違うんだ」なんて声が聞こえてきそうです。違いはリアリティです。異世界の住民は誰もが知恵を働かせ、感情に揺さぶられながら、生きる事に必死なのです。出来事には必ず理由があり、文化や成り立ち、社会構造に矛盾が見られないのです。その世界の仕様に照らし合わせた時に「確かに、そうなるわな」と一旦は納得できるのです。主人公や登場キャラ達は世界の一部であり、彼らが現れる前から世界は息づいており、彼らがいなくなった後も存続し続ける。そんな説得力を内包しているのが「異世界」なのです。
登場人物たちは自らの意思で泣いたり、笑ったり、怒ったり、困ったりする。現実世界のロジックが当てはまるのです。子供を大事にするのです。間違っても、強烈な電気ショックを与えてくる、奇妙奇天烈な体の構造をした謎の生命体が草むらから飛び出る世界で、10歳の子供が遠く離れた町まで一人で歩くのを了承はしないんです。
では、「ゲーム世界」とは何か?
これも平たく言えば「明らかに創造された舞台であり、現実的な世界と同じような人間(種族)が暮らしているなら成立しない事柄が説明もなく存在しており、そこに疑問を挟む必要が無い」世界です。
実例を出しましょう。みんな大好き、ドラクエIII。
偉大な男を父に持つからと、16歳の子が世界征服をもくろんでいる魔王の討伐を依頼され、軍資金として国の王から50G渡され、仲間を酒場で集めてから討伐の旅に出る。当たり前のように。
はい、現実的な世界なら全部アウト。
『偉大な男を父に持つから……世界征服をもくろんでいる魔王の討伐を依頼』→偉大な父の存在がどう転んだら「魔王を倒せる逸材」に繋がるのか?現実なら繋がりません。だって、その父も魔王を倒した実績すらない。消息を絶ってからどこで何をしていたかは不明。一応、火山に辿り着いた事がリメイクで明らかになりますけどね。
『16歳の子が世界征服をもくろんでいる魔王の討伐を依頼され』→意味が分かりませんね。軍隊はどうした?若すぎないか?他に候補は居ないのか?魔王を倒す気があるのか?
『軍資金として国の王から50G渡され』→意味が分かりませんね。少なすぎて。一人の宿代が1G。つまり、1Gは1万円程度の価値と考えても良い。二月弱、ホテルに泊まれる金で魔王と呼ばれる存在を倒してこい?馬鹿にしてるのか?魔王討伐は建前で、とりあえず出て行ってもらいたいだけなのか。まぁ、これも無いですね。
『仲間を酒場で集めてから討伐の旅に出る』→最高に意味不明。命を落としかねない危険な旅の仲間を居酒屋で集めますか?依頼したいバイトでさえそんな所では探さないでしょう。素性も知れない、平気で初対面の子供の提案で「命かけるわ」と言い切れる狂人たち。最初の野宿で寝てる間に刺されて、身ぐるみを剥がされ、街道脇の藪の中に投げ込まれて終わりです。
『当たり前のように』→上記のどれにもツッコミを入れる存在すらドラクエIIIの世界にはいません。
そんなドラクエIIIは名作として多くの人に愛されています。こんなに意味不明なのに?そうです。ゲームとして見ると意味不明じゃないんです。ゲームのルールに過ぎないから。
「このゲームの目的は魔王を倒すこと。はい、これがあなたのキャラクター。仲間を増やす場所はここ。一応のバックグラウンドはこんな感じ。それではどうぞ」なんですよ。
最初から誰も「この世界が本当に存在していても、なんらおかしくない」ほどのリアリティーを求めていないんです。ゲームだから。ルールにのっとった遊びで、それが面白ければルールの成り立ちなんてどうでも良いのです。スーパー・マリオ・ブラザーズだって、「配管工が謎の生命体を踏みつけながら姫を探す物語」なわけですよ。そして、その破綻した設定を気にしている人は皆無です。
私の唱える「異世界とゲーム世界は違う」をできるだけ分かりやすく書いたつもりです。ここから先のお話は全てこの大前提の上に成り立っていますので、ここまでで微塵も納得が出来ていない様でしたら、ここから先も納得のできる話は出てきません。
さて、次回はこの違いがどのような不具合につながるのか、そこを話していきたいと思います。