1話
街の雑踏を抜け、凛はいつもの帰り道を歩いていた。
頭の中では、好きなゲームやアニメのシーンを思い浮かべる。
「時のオカリナ……リンクならこんなことできるのかな」
「ザ・ワールド……時間止められたら面白いよな」
微笑みながら、夕暮れの街を進む。
突然、空が異様に明るくなる。
眩しさで目を細める間もなく、その光は凛に迫り、直撃した。
「……え、何これ……!」
叫ぶ間もなく、体が光に包まれ、意識は真っ白に。
──凛……凛……助けて……
かすかな声が耳に届く。
震えるような声に胸が締め付けられる。
目を開けると、知らない森の中だった。
湿った空気、木々のざわめき、遠くで鳥の声も聞こえる。
二つの太陽が空に浮かぶ世界――現実ではないことは明らかだった。
心臓が早鐘のように打つ。
街はもうどこにもなく、森しか見えない。
辺りを見渡すと、影が蠢いた。
低いうなり声と共に、巨大な魔獣が跳躍して凛に襲いかかる。
なんだ!?何かわからないが今自分が命の危険に崩されていることだけはわかる。
「……ここで死ぬわけには……!」
胸が早鐘のように打ち、恐怖と焦燥が全身を締め付ける。
その時、頭の中で閃いた。
赤――五条悟の最強技
何故、急に浮かんだのかはわからない…
ただここでやらないと死ぬことだけがわかった。何の根拠もないけど何故か凛には出来る自信があった。
そしてこれが一発きりであることも同時に理解した。
頭の中でイメージする…
五条悟が赤を使った描写をイメージする…
強く強くイメージする…
そして指先を魔獣に向けたその時、
──衝撃。
魔獣は爆風とともに跡形もなく吹き飛ぶ。
森に静寂が戻る。
しかし、胸の奥にはぽっかり穴が空いたような空虚感が残る。
「あれ……誰だっけ……」
五…さとる……?
大切だった記憶が、代償として静かに消えた…