全属性の魔法使い1
ブレイドと、ノアが模擬戦をすることになり、しばらく睨み合いが続いたが、その沈黙をノアが破った。
「そっちが来ないなら俺から行かせてもらう!ファイアトルネード!」
そう言ってノアは炎魔法と風魔法の合成魔法を放ってきた。
それに対しブレイドは
「アイスウォール」
と言って氷の壁を作り出してノアの魔法を防いだ。
本来ならノアの魔法はアイスウォールなどを簡単に突破するほどの威力を誇っていたがそれをブレイドは無理やり魔力出力を上げることで防ぎきってみせたのだ。
「ほぅ、俺の魔法を防ぐか、まぁこれくらいはやってもらわないとな!アクアバレット」
「アイスバレット」
今度はノアの魔法をブレイドが全て凍らせ、それすらも取り込みノアを襲うといった形となった。
それにはノアも予想外だったのか驚きつつも確実に対処した。
「ブラックホール」
闇魔法で全ての攻撃を吸収し、その魔法を空間魔法で別の場所へと転移させる。
これは誰でもできるわけではなくどちらも上級魔法であるため普通なら魔力不足や単純な力量不足で使えないだろう。
しかし、ノアはそれを可能とするだけの魔法の才や魔力量を有していた。
その証拠にノアは冒険者時代、最強のソロのSランク冒険者として名を馳せていた。
そして、ノアを最強たらしめた理由はその唯一無二のスキルだろう。
ノアには全ての属性の魔法が適正A以上で使える"魔法の神髄"というブレイドの持っているスキルの完全上位互換を持っていた。
そのスキルには、ブレイドのスキルのような身体能力ダウンといったデメリットは一切存在しなく、逆に魔力量が増え、必要魔力量もさらに減る。それに加え、全属性の魔法を適正A以上で使えるという効果もあるため、このスキルだけで言えばブレイド以上と言え、圧勝してしまうと考えられる。
しかし、ブレイドが対等に戦えているのは氷魔法という点だけを見ればブレイドのほうが上で、さらに異世界から召喚されたことで魔力量がスキル関係なしにノアを凌ぐほどあった。
その後も数分間戦いは続いたがそれは騒ぎを聞いてやってきた副ギルドマスターによって止められた。
「ノア様、他の職員が探しておられましたよ。それに何ですかこの惨状は、闘技場がボロボロではないですか」
「す、すまん。しかしそれにしてもブレイドといったか。お前は俺と肩を並べるほど強い。よってすぐにでもSランク冒険者として活躍してもらいたいがそうもいかない。そのため、Bランク冒険者として始めてもらおう」
「Bランクでも十分周りの目が厳しいと思いますが…まぁいいでしょう。すぐにでもギルドカードを発行しますね」
「ありがとうございます」
その後、すぐに副ギルドマスターは戻ってきてギルドカードを渡されたブレイドは結局街のおすすめについては聞けずに街へと出たのだった。
〜これはノアの少し前のお話〜
「す、すごい」
「天才だ…」
「人類最強兵器…か」
ノアはギルドへ登録してからわずか2年でSランク冒険者になった天才として王都だけでなく辺境の街まで名を轟かせた。
それは依頼で各地を飛び回り、全属性の魔法を使って人々を助けて回っていたためそれも広く広がった原因かもしれない。
そうして、ノアはそのまま平和に過ごせるわけもなく各国がこぞってノアを奪い合い、魔王討伐の手柄を得ようとしていた。
ノアの名が轟きつつある中事件は起きた。
「ノアがまたダンジョンの新階層まで行ったらしいぞ」
「確か46階層だっけいいよなぁあいつは」
「あいつさえいなければ俺等も認めてもらえるのかなぁ」
世間一般ではノアは英雄とされている。
しかし、冒険者としては面白くないだろう。
そうした小さな恨みや妬みを多くの冒険者が持つようになってしまった。
そして、事件は起こった。
「お前のせいで…お前のせいで俺等が評価されないんだよッ。ふざけやがって…死んで詫びろや」
ギルドではたまに酒に酔った冒険者が問題を起こすことがあった。しかし、どれも周りがすぐに止めてくれたためどれも大事には至らなかった。しかし、今回は違った。
一人の冒険者がノアに切りかかったことを皮切りに普段は止める役目を果たす冒険者もノアへの恨み妬みが積み重なっていたことで多くの冒険者がノアへと襲いかかった。
ノアへと四方八方から魔法が放たれ、さらに剣で切りかけられたりして、ギルド内は一瞬で地獄と化した。
ノアは必死になって攻撃を防ぎ反撃をして身を守ろうとした。
そして、やっと落ち着いたかと思えば目の前には冒険者ギルドだった建物と沢山の死体が転がっていた。
「うっ…あ……」
その光景にノアが絶望していると、やがて審問官がやってきて、ノアを連れて行った。
法廷へと連れてこられたノアは死刑も覚悟していた。逆に死刑にしてもらったほうが楽であるとまで考えていた。
しかし、その考えはすぐに改めさせられた。
「被告人のノアよ。お主は今回起こった暴動を止めたお主には褒美としてギルドマスターの地位を与えよう。これからはこの仕事に励むのじゃぞ」
そう告げられた時にノアは何も咎められないことに疑問と怒りを覚えた。
自分は確かに多くの人を殺した。それは絶対に許されてはならないことだ。
そう思い抗議したものも審問官は聞く耳を持たず英雄としてノアを持ち上げたのだった。
国としてはこんなことで最強の駒を失いたくないというのもあるのだろう。
そして、安定した職を与えることで国外へと行くこともできなくするという国からしてみれば一石二鳥の判決なのだった。