人間の街
初仕事から一ヶ月ほどが経過した。
兵たちへの指導は難なくこなせており、新しく頼まれた書類の処理などにも慣れてきた。
ただ一つ問題点を挙げるとするならカーライル、ナーヴァ、ディールの三人が全然顔を出さないことくらいだろうか。
他の皆はたまに遅刻はあるもののほとんど休まずに訓練に励んでいる。
ブランによればいつものことらしいがやはり気になってしまう。
そして、今日はエルダの部屋に呼ばれていて、ブレイドはそこへと足を運ぶのだった。
「お主には一度人間の街を見てきてもらいたいのじゃ」
エイダから言われた内容はこうだ。
おそらく勇者たちの戦力の把握だろうと考え、エイダに質問すると、エイダは頭に?を浮かべながら
「いや、お主はこの世界で人間の街をみていないじゃろうと思ってな。一度見ておいたほうが良いと考えたまでじゃ」
と、ブレイドの予想に反した考えを出したのだった。
「まぁどうせ行くなら王都にでも行くが良い。あそこは人間の国の中心であるゆえたくさんの人や資源が集まるのじゃ。珍しいものが見られるやもしれぬぞ?」
そう言ってエイダはお金の入っているであろう袋をブレイドへと手渡し、ブレイドを用意していた馬車に半ば強引に詰め込むのだった。
「はぁ〜、いきなりのことでいまいちピンときてないけど確かに気になりはするなぁ。まぁとにかく楽しむことにしよう」
ブレイドは難しく考えるのをやめたのだった。
魔王城から王都までは普通なら馬車を休まずに動かして約3日はかかる。
しかし、魔馬を使えば話は別だ。
魔馬とは移動に特化した馬型の魔物で、性格は好戦的ではなく飼いならし、長距離移動の際に脚として使うことが可能なのである。
そして、速度はというと休みながらでも2日もあれば着くことが可能なのだ。
「はぁ〜、暇だなぁ。とりあえず魔法の研究でもするかぁ」
魔法はイメージが大切。それは世間一般で言われていることだ。逆に言えばイメージさえはっきりとしていれば低燃費かつ高出力の魔法も可能なのである。
ブレイドは、攻撃魔法は氷魔法しか使えないためその分工夫が必要なのである。
そして、それはブレイドのちょっとした思いつきで発動した。
「そう言えば氷って解釈を変えれば凍結ということだからもしかしたら時間とかにも使えたりして。まぁそんなことはないと思うけど」
ブレイドは、そう思い浮かべながらなんとなく魔力を放出した。
すると、魔力はすごい勢いで体から抜けていき、馬車が停止した。
正確にはブレイドの周りの動きがとても遅くなっているのだ。
「は?え?」
さすがに発動すると思っていなかったためさすがに混乱し、ブレイドは考えることをやめた。
すると突然
ドーン
と、森の方から大きな音が聞こえた。
馬車を降り、音のした方へと走っていくとそこには白い女の人に羽の生えたような生物に馬車が襲われていた。
「はっはっはぁ〜、どうも私の力は。とっとと荷物置いて去りなさい!」
どうやら盗賊の部類らしく運んでいる荷物を要求していた。
さすがにこの光景を見逃せるわけもなくブレイドはその女の前へと立ち塞がった。
「何してるんですか。すぐにここから去ってください」
「なに?私には向かう気?私は光見えても超強いんだからね。あなたたちに後れを取るわけがないでしょ」
「引く気はない、と。なら実力を示すしかないみたいですね」
「は?私に勝とうと思ってるわけ?そんな事できないのに、まぁせいぜい頑張りなさい。最初の一撃は譲ってあげるから」
それが、その女の運の尽きだった。
その直後に放たれたブレイドの高密度の氷の槍。咄嗟に回避行動に移ろうとしたものの間に合わず、その攻撃をモロに受けた女は、
「お、覚えてなさい」
そう吐き捨ててその場をあとにするのだった。
「本当にありがとうございます。何とお礼を言ったら良いのか」
「いえいえ、間に合ってよかったです。それにお礼は本当にいらないので」
「そのようなわけには行きませんよ。そうだ、この剣を受け取ってください。これは伝説の大精霊様が作られた剣と伝わっているのですがいかんせん誰も使いこなせず困っていたのです。しかしあなたならばきっと使いこなせるでしょう」
「あぁ、じゃあありがたくもらっていきますね」
ここで断ったとしても別のもの渡してきそうな気配を感じたブレイドはその剣を受け取り、軽く振ってみると目の前に生えていた樹木が一瞬で倒れたのだった。
「おお、やはり貴方様のような力を持った人ならば使いこなせると思っていました。ぜひ大切に使ってください。あとこれを渡しておきますね」
そう言っておじいさんはペガサスの紋章の描かれたメダルをブレイドへ渡したのだった。
どうやら護衛に逃げられ、大変な目に遭ったと言っていたが近くに村があるため大丈夫だと言い、またどこかでと言って別れたのだった。
そこからは特に問題もなく予定通りに王都に着くのだった。
そこはとても人で賑わっていて平和な都。
「やっと着いた。ここが王都、セントウェルダンか」