魔王軍
「な、な、な、なんじゃお主はー!?だ、誰かこやつを追い出すのじゃー」
突然起こったことに脳がパニックになっていると、目の前の少女もどうやら突然現れた僕に対して驚いているようだ。
「あっ、別に僕は戦いたいわけじゃ…」
「うっ、うるさいのじゃどうせわしの命を狙おうとしておるのじゃろうが残念じゃったな。わしには強力な部下がたくさんついているのじゃからな」
すると、扉の方からこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
「魔王様、大丈夫でしょうか?我々が来たからにはもう安心」
「お、お主ら…!来てくれたんじゃな。それじゃあそこにいるやつを追い出してほしいのじゃ」
「任せてください、このような人間風情に後れを取る我々ではありません」
「ふむ、頼りにしてる故勝つのじゃぞ」
「仰せのままに」
「あの〜、本当に戦う気はないんですが」
「問答無用です。ここにいる時点で魔王様を狙っていたという事実は変えられないと思いますが」
ブレイドは言い返そうとしたが実際に魔王の目の前にいるのだ。そう疑われても仕方がないと納得し、戦闘の態勢になった。
(はぁ〜、相手は魔王軍の幹部、しかも魔王も入れたら4対1か、そもそも勝てるか怪しいぞ?勝てるとしてもかなりの被害が出るだろうし…)
「ふん、考え事ですか、ずいぶんと余裕があるようですね」
すると、幹部が一斉にかかってきた。
ブレイドは自身の死を覚悟したが予想した結果にはならなかった。
「え?」
ブレイドが咄嗟に剣を振ると幹部たちが弾き飛ばされ壁へと激突していた。
幸いなことに致命傷を負ったものの死んではいないらしい。
「ま、魔王様…この人間には勝てません…どうか…魔王様だけでも逃げ、て」
その様子を見て魔王は血相を変えてブレイドへと取引を持ちかけた。
「た、頼む、わしの命なら差し出す!だから、此奴らの命は助けてやってはくれぬか」
「いや、本当に戦いたいわけじゃないんだけど」
「そ、そのような言葉に騙されるようなわしではない!とっとと白状せい、な、何が目的じゃ?」
この魔王が怯えてるのが伝わってくる。
それでも部下を救うために自分の命をなげうってでも救おうとしているのだ。
(あぁ、この魔王は悪いやつじゃない。部下のために一生懸命になれるようなやつなんだ。この世界について僕は何も知らないし外で働くよりだったらここで…)
そこまで考えたところでブレイドはあることを魔王に提案した。
「あの、魔王様、もしよろしければここで働かせてもらえませんか?」
「ふぇ?」
さすがに予想外だったのか魔王が素っ頓狂な声を上げ、あわあわしていたが、やがて冷静になると今度は恐怖の色に包まれた。
「そ、そうやって魔王軍を内部から破壊するつもりじゃな?そ、そうはさせぬ」
「本当に違うんですが…確かに信じてもらうのは難しいかもしれませんが、なんだったら制約を結んでも構いません。ですから」
制約、それは魂を通じた契約のことである。
それを破ればその魂は破壊され、その人は死に至ってしまう。
「そ、それならばよいがお主はそれで本当にいいんじゃな?」
「はい、魔王様のもとで働くためにも」
「それならば制約を結ぶとするかのぅ。ところでお主の名前を教えてはくれぬか?」
「僕はブレイド・オーティスです」
「ふむ、では始めるぞ」
『わし、エイダ・オリヴィアの名のもとにブレイド・オーティスの魔王軍へ仇なす行為の一切を禁じる』
やがて、二人は光りに包まれ、これにより制約が完了した。
「これで僕が魔王軍で働くことを許可してくれますか?」
「うむ、これで裏切ることはできないからのぅ。それに、わしは約束は裏切らない主義なのじゃ」
「ふふっ、それなら安心ですね」
その後、幹部たちの回復を終えた後にエイダは不思議そうに
「ところでお主はどうして急にわしの目の前に現れたのじゃ?」
「それが僕にも分からないんですよね。仲間とともに魔王を倒したんですがその後、突然光に包まれて気がついたらここに…」
「関係があるかは分かりませんが確か王国で勇者召喚が行われると私の部下から聞いております」
「ふむ、何らかのミスにより王国ではなくここに呼び出された可能性もあるんじゃな…。でも確かにその可能性はあるのぅ。確か召喚された勇者はすてーたすおーぷん?とつぶやくと自身の力を確認できるそうじゃが」
「そんなわけないじゃないですか〜。一応やりますけど。ステータスオープン」
すると、ブレイドの目の前には先ほどエイダの言っていた情報に当てはまるパネルが現れた。
「は?」
〈ブレイド・オーティス〉 18歳 男
〈勇者〉
魔力 14587/15862
筋力 2
《能力》
氷魔法 SS
身体強化魔法 S
回復魔法 SS
結界魔法 S
生活魔法 A
その他魔法 G
剣術 S
体術 A
《スキル》
・氷の大精霊の加護 氷魔法の威力は上昇す
るが他の攻撃魔法は使
えなくなる。
・超特異体質 スキルを得やすくなる
・魔法之真髄 魔力量が増え、魔法発動に必
要な魔力が減り、威力が上が
る。そのかわり、基礎身体能
力が下がる。
・全自動魔法 所持者がピンチになると自動
で発動し、その場に合った魔
法を発動する。
(一般人は筋力30、魔力100ほどで魔法は得意魔法でCくらい。トップレベルでもAくらいである。ちなみにGは魔法を使えないレベル)
「なっ、何だこれ」
そうして、なんやかんやありつつもブレイドの魔王軍としての生活が幕を開けたのだった。