9話
「ここが学園長室がよ」
緑髪の生徒会長に案内された転入生の少年は扉の前で溜息を一つ吐いていた。
「どうしたの?緊張とかしなくて大丈夫だよ?学園長は凄く優しい人だからね」
「いや、緊張とかじゃなくて、合うのが面倒だなって思っただけだ」
「そうなの?それならいいんだけど」
少年が息を吐いたのを見て、時安は緊張を和らげるためにした行動だと思ったが、どうやら違ったようで安心する。今から陸が合うのはこの学園で一番偉い人。でも優しく気さくな人物なので緊張の必要はないのだが、その心配は少年には必要なかったようだった。ここまで気を抜いているのにおは少し気になるが、緊張していないなら別にいいか。時安はそう結論付けた。
「それじゃあ私はこれで。また機会があったら話そうね」
「あぁ、案内ありがとう」
時安世界と別れた少年は今から合う人物のことを思い浮かべて、もう一度溜息を吐いた後、扉を叩いた。
「やあやあ、久しぶりだね」
許可を得て学園長室に入った陸が最初に訊いたのはそんな言葉だった。
やたら砕けた態度で椅子を傾けながら座る女性は軽く手を振っていた。
「一か月ぐらい前に会っただろ」
「一か月も会ってなかったんだから久しぶりだろう?」
「はぁ」
出雲如月。
出雲学園学園長であり、日本軍の人間でもある。
美人なのは間違いないのだが、メイクも何も下おらず長い銀色の髪もボサボサ。適当にワイシャツを着ていて、その上から白衣を着たメガネの女性だ。
早乙女陸はこの人物とは小さいころから縁があり関わってきたが、その頃から見た目はほとんど変わらない年齢不詳の女性。
その学園長のいつも通りの態度に面倒くさそうにに再び溜息を吐いた少年は話を進めるように先を促す。
「それで、なんの用なんだ」
「学園長としてあいさつしておこうと思ってね」
「…今更か?」
「挨拶をしたという形が必要なんだよ」
何せ陸は初めての男の魔女。そんな特異な存在が入学してきたのだから学園長としてあっておく必要があった。
なのだが、
「とまぁ、それは建前でこれを見てくれ」
「建前かよ」
あっさりと建前と告げえて一枚の写真を机の上に置く。その写真には柄の悪そうな少女が映っていた。
「誰だ?」
「こいつはハプティ=ハロウィン。『新たなる世界』の一員だ」
「『新たなる世界』…」
出雲如月の告げた言葉に眉をしかめる陸。その言葉には嫌な思い出ばかりしかない。
『新たなる世界』。
全世界に点々と現れて、陰謀や暴力を持って社会を騒がす存在。所謂テロリスト組織である。
そしてこのテロリスト組織は特殊な組織だ。構成員の人数は把握できていないが、決して多くはないと考えている。今まで発覚している者たちも多くはないが、しかしその多くは厄介な存在ばかりである。
全員が魔女。あるいはそれに類する存在。
それが『新たなる世界』というテロリスト組織の実態だった。
「こいつが日本で確認された」
「またあいつらか」
嫌そうな顔をする陸。その存在自体が憂鬱でしかない。
陸の態度を気にせず出雲如月は続ける。
「こいつは二年ほど前から存在を確認していて――」
「おい待て、何で俺にそんなことを話んだ」
だが出雲如月の言葉を陸は遮った。
『新たなる世界』の一人が日本に火入り込んでいるのは分った。だけどそれをどうして自分い言ってきたのかが分からない。いや、分かりたくない。
大体の予想はつくんだけど、絶対に面倒なことなので考えたくもない。
そして現実は大体嫌な方に傾いていくものだ。
「何でってそりゃぁお前にも協力してもらうからに決まってるだろう?」
それは確認の言葉ではなく、確定したことを告げる言葉だった。
少年の意思は全く配慮されていない、それが当たり前であるように、常識を言うように告げた言葉だった。
「やっぱりか」
考えたくはなったが陸にはそうなることがなんとなくわかっていた。こういうことはこれまでに何でもあり、それらは大体同意なんて求められていなかった。
だから少年は再びの溜息を付いただけで、諦めた。そうせ抗っても意味はないのだと。
「それじゃあ改めて説明するぞ」
説明を始める出雲如月の言葉を面倒くさそうにしながらも、大事なことなのでしっかりと話を聞く少年だった。
出雲如月曰く。
ハプティ=ハロウィン。
ボサボサのくすんだ金髪に目つきの悪い目。写っている写真のでは口を大きく開けて笑っており、表情からは凶暴な印象を与える。
正式の年齢は不明だが二年前に初めて現れた時の目測では十代後半。写真は最新のもので二十歳ぐらいだと思われる。
当然魔女であり、魔法もかなり厄介なもの。
「門を開く?」
「あぁ、こいつの魔法はまかいの門を開くことが出来る」
よく分からなかった陸は詳しい説明を促した。
『魔界の門』を開く。
文字通りの意味なのであるが少し分かりづらい。もっと簡単に言うなら『魔族を呼び寄せる』ということだ。
「…何だその魔法。それを使えばどこでも魔族が出てくるっていうのか」
「その通りだ」
魔族。人類の絶対的な敵。
その存在は突如どこからか現れる。
本来はそれは自然的に起こる事故のようなものだが、ハプティ=ハロウィンの魔法はそれを人為的に起こすことが出来る。
悪用しようと思えばかなり危険な魔法である。
例えば国にとって重要な施設などで、人の多い場所で、そういった所で魔法を使えば被害は大きくなる。
「また面倒なのが来たな」
「そういうことだ。まぁ見つけたら対処頼むよ」
「仕方ないか」
面倒くさいが、放置もしておけない。ハプティ=ハロウィンがもし魔法を使って騒ぎを起こせば多くの犠牲者が出る。だから見つけたら自分も対処する。
結局いつもとっ変わらないのだ。
「それにしても、ついこの間も『新たなる世界』の奴やのせいで色々と大変だったのに、またか」
「こいつもそれに関係しているのかもしれないな」
面倒しか起こさない奴らだなと思う陸。五月の始め、陸がロンドンから帰ってきて数日が経った日、とある事件に巻き込まれた。それも『新たなる世界』が原因だと分かっている。
そのことを頭に思い浮かべる少年。
と、そこで何かを思い出したように少年は呟いた。
「そういえば…」
「どうかしたか?」
「いや、その事件の時、雲川たちを見かけた気がするなって思ってな」
今改めて思い返せばあの事件の場に今日であった少女達の姿を見かけた気がする。遠くでちらっと見かけただけなので断言はできないが、今日なったクラスメイトに間違いないはずだ。
「あぁ、あの時の事件には彼女たちも関わっていたからな。何処かで見かけたのだろう」
陸の疑問を肯定するように出雲如月が頷いて答えた。
五月の始めりに起きた事件では陸は少し関わっただけだったがm実は雲川たち実践クラスの少女達は結構深く関わっていた。
「彼女たちはあの時の事件に『新たなる世界』が関わっていることは知らないだろうが、結構大変だったんだよ」
「そうなのか」
「それを君が助けてくれたってわけさ」
「別に俺はたまたま通りかかって降りかかってきた火の粉を払っただけだけどな」
「火の粉、か。。あれを火の粉というとは流石だねぇ」
「かなり弱ってたし火の粉だよ」
満足そうに頷く出雲如月。
少年の実力を昔から知っている彼女にとって、少年のなんて事の内容に語るとんでもないい事実のことは流石でかたずけられるものだった。
「とにかく、あの事件のせいで入学の準備もバタバタしたんだからな」
本当に面倒な奴やだと思い、溜息交じりに呟く少年。
「そういえばロンドン見上げはあるのかい?あっちで十分楽しんだんっだろう?」
「あんたもか。だから旅行で行ったんじゃないって」
「それで見上げは?」
「だからないよ」
(何でこうも見上げを要求しえ来るのか)
確かにロンドンにはいったが遊んでいる余裕なんてなかった。
魔族退位時に人探し。それに強大な敵との対峙。二週間ほどだったが遊ぶ暇なんて殆どなかった。
「じー」
「…分かったよ」
じっと諦め悪く見つめてくるメガネの女性に仕方ないと溜息尾吐いた。
だけど今は手元に何もないのでこんど何か渡すと約束し、何か渡せるようなものはあったかなと思考する少年だった。
「それじゃあこいつのことも伝えたし、改めて入学おめでとう。それから真白君のことも頼んだよ」
「は?真白?」
「詳しいことは彼女から聞いてくれ」
「ん?」
それだけ言うと不敵に笑うだけで何も詳しいことお語らなかった。
(何か知らんが絶対楽しんでるな)
再び溜息を付く少年だった。
全校集会を終えて生徒達の話は一人の人物で盛り上がっていた。
早乙女陸。
突然現れた魔女だという男。
その存在にワイワイと話の花を咲かせていた。
それは好悪色々なものだった。
面白そう。
カッコいい。
可愛い。
胡散臭い。
怪しい。
押し倒されそう。
etc.
様々なことが言われていた。
そしてそれはネットに拡散された。
情報社会の現在、こういったことの拡散は早い。
男の魔女という異例の内容はあっという間に広まっていた。
多くの者はフェイクニュースだと思っていたが、後日正式に政府から発表され多くの者が信じるようになった。
個人情報は隠されての発表だったが、直後には出雲学園の前に報道陣が集まり大きな話題になった。
こうして、世界で初めての男の魔女が周知されていったのだった。
出雲如月
階級:出雲学園学園長
魔法名:神秘の究明
能力:魔力を通して分析する。
陸
「階級が学園長って…」
レヴィ
「出雲学園は特殊な学園だから、学園ちゅもそれなりに特殊な立場になるのだ「
陸
「それと新しい名前がまた出てきたんだけど」
レヴィ
「ハプティ=ハロウィンの登場に期待なのだ」
陸
「いや、期待はしてないけど」
レヴィ
「どれより、次回ようやく我の登場なのだ」