7話
ここ出雲学園は魔法の授業はもちろん、普通の学園と同じように国語や数学や科学や社会のように一般科目もカリキュラムり含まれている。
約一時間の授業を午前中に三、四本行い、その間に小休止が挟まる。その後昼休みを挟んで午後からも二、三本の授業を行う。
大体日本の一般の学校と言えばこんな感じだろう。出雲学園もそうだった。
しかし陸たちの所属するクラスは少し違ってくる。
隊魔族部隊。魔族と戦う日本軍の特殊部隊。
陸たちはその予備軍のようなクラスに所属するのだ。
実践クラスは将来隊魔族部隊に入るためのクラスであり学生のうちからも魔族と戦うクラスでもある。
だから一般の学校と大きくカリキュラムが変わってくる。
「長い授業だったな」
少年が溜息を吐いてぽつりと呟く。
特殊なカリキュラムの片鱗をいきなり体験して少し疲れを感じていた。
実践を想定しているため、実践的な授業がどうしても多くなる。今回のように午前中が全て戦闘訓練になるというのもよくあることだ。
そんな長い午前中の授業を終えて、ようやく昼休みだ。
「食堂はこっち。お姉ちゃんが案内してあげる」
空色髪少女の真白は転入生の手を引いてぐんぐんと歩いていく。手を引かれる想念はされるがままに抵抗の色も全く見せずに大人しく引っ張られていく。
「ちょっとー、ウチが案にするんだから勝手にいかないでよ」
真白につかまれていたのとは反対の手を茶髪少女の茜が掴む。真白に対抗するように茜も陸の手を引き前へと押しを進める。
(これはいったいどういう状況なんだ?)
少女二人に両手を引かれる少年。
陸は状況に流されながらも今の状態に首を傾げていた。
「これだから男は」
可愛い子に手を引かれてデレデレする。そんな状況を見せられると気分が少し悪くなる。
不機嫌に顔を逸らしながら赤髪を靡かせるっ芹佳も一緒に歩いていた。
転入生の男は気に食わないけど、今から昼食というのは同じだ。わざわざタイミングをずらすなんてするくらいまでは嫌っているわけではない。
でも、この男が気に食わないのは確かなので悪態の一つくらいつきたくなってくる。
「男のくせに魔女とか言うふざけたやつと一緒に食事なんてご飯が美味しくなくなりそうだわ」
(やっぱりすごい嫌われてるんだけど、俺なんかしたか?やっぱりあの時のことを怒ってるんだろうか)
後ろにいるクラスメイトの不機嫌そうな雰囲気を感じ取りながら陸は先程の模擬戦を思い出す。
水を掛けて全身をビショビショにした。
このことをすごく怒っているのだろうか。でもその’前から不機嫌だった気もする。そのせいでからまれたのだから。
「来て早々モテモテね」
悶々とする少年の心境など分かるはずもない白髪の少女が視線を送りながら呟く。
「やっぱり男の子は珍しいからみんな気になるんすかね。かくいう自分も凄く気になってるっすし」
刹那の言葉に桔梗が答えた。
今まで見たことも聞いたこともない男の魔女。興味を持って当然かもしれない。
だけどこの中で一人、そんな摩訶不思議な存在を見られない少女もいた。
「(あ、あのぉ、私後で食べるから引っ張らないでぇ)」
陸がまだ目を合わせることの出来ていない少女。黒い前髪で目元を隠す董子は転入生の少年に視線を送れないでいた。興味がないわけではないが、それ以上に怖い?というか恥ずかしい。
前髪少女は小さな先輩に手を引かれながら少年の近くを歩く。桔梗を盾にして少年からその実を隠して歩き小さな声で呟くけど、即断で断られてしまった。
「ダメっすよ。これから一緒に戦うんすからしっかりコミュニケーションとってチームワークをよくしないといけないんすから」
だから一緒に昼食をとって信仰を深めようと、容赦なく前髪で目元を隠す後輩を連行する。
そうだけど、と納得しつつも、それでも異性との交流が今まで皆無だった少女にとってはかなり大きな試練なのだ。
「大丈夫ですか、陸さん」
首を傾げるピンク髪の日菜。
目元を隠す先輩のビクビクはいつものことなので、あはは、と苦笑しながらも転入生の先輩に話しかける。
両手を二人の空色髪と茶髪の先輩に引かれて流れて流れに身を任せる転入生が少し心配になった。
「大丈夫だ。こういう強引なのには慣れているからな」
(こういう時は抵抗しても無駄な体力を使うだけだ)
どうせ結果も変わらない。抵抗しようがなんやかんやで引っ張られていくのは変えられない。それならどうせ食堂には案内してもらうんだし、こうして手を引かれていくのが絶対に嫌という訳でもないので素直に受け入れる。
これまでの経験上、陸はこういう場ではあまり抵抗しないほうがいいと考えるようになっていた。
「陸さんって結構お人好しなんですね」
「そうか?ただ抵抗するのが面倒なだけなんだけど」
微笑むフワフワ系の後輩少女に苦笑しながら返す陸。
その苦笑からなんだか優しさのようなものを感じられる。先程の授業でも実力があるのは分ったし頼りになりそな先輩だと、転入生の男性に期待感を抱く日菜だった
そんな感じでワイワイと話をしながら八人の少年少女たちが連なって歩いていく。
他の生徒の姿を見かけることもなく廊下を歩く。
「そういえばだれとも会わないな」
煮たりの少女に手を引かれていく陸は無抵抗のまま周りを見渡して呟いた。
「もう午後の授業が始まってますからね。他のクラスのみんは授業中です」
呟いた疑問に中学二年生の後輩少女が答える。
「今はそれでよかったかもしれないわね」
「うん?どううことだ?」
中学二年の日菜に続いて、厨二病?の刹那が顎に手を当てながら呟く。
陸はそれに疑問を浮かべていた。
「陸は注目の的だろからね」
世界で初めて現れた男の魔女。それが周知されれば騒ぎになるのは明らかだ。
今はみんな知らないだろう。刹那達も紹介されるまで知らなかった。
しかし一目見れば思うだろう。
何故男が制服を着てこの場に居るのかと。
そしてその理由を話せば後はどうなるか言うまでもない。
そう言ったことを刹那は陸に説明した。
「まぁそれは覚悟の上だよ」
あきらめたように溜息を付く少年。
陸はこの学園に入学する際に注目を浴びるのは覚悟していた。だからある程度は諦めている。
「陸はカッコいいからみんなの人気者になる」
手を引く空色髪の方の真白は自分のことのように誇らしそう(無表情)にで言う。
「人気者かはともかく、興味はもつっすよね。自分も興味深々っすし」
白い花の髪化z利を付ける薄緑髪の桔梗が真白の言葉を一部訂正して頷いた。
「そうだねー。ウチも興味津々だし、せりせりも興味津々だからねー」
「はあぁ!?別に私は興味なんてないわよ!?」
「ツンデレ?今時古いんじゃないかな?」
「誰絵がツンデレよ!」
ポニーテルの少女に赤髪の少女が激しくツッコむ。
それを一番の年下の少女がなだめ、そんな三人をスルーして刹那が続けた。
「覚悟してるなら大丈夫かしら?この後集会でみんなに紹介されるだろうし。そうなれば一気に世間にも広がるでしょうね」
白髪の少女は少年に視線を悪りながらこの後のことを思い浮かべる。
この後陸たちが中小句を取り、少し休憩してから全校集会が開かれる。そこで全校生徒に陸のことが紹介される。そうなればその話は生徒達から社会全体に拡散されていくだろう。
「考えるだけで憂鬱だが仕方ないさ」
改めて溜息を吐く少年。
そんな少年を見て少女達はそれぞれの反応をしていた。
哀れみ。
心配。
期待。
それぞれの思いを見せつつも少女達もまた少年に興味を抱いていた。
「普通の食堂だな」
話しながらしばらく歩き、ようやく少年少女は食堂へ到着した。
広い空間にいくつかの大きな机。厨房が見えるカウンター。
どこにでもある学校の普通の食堂。
それが陸の感想だった。
だけど一部不通の学校の食堂と異なるところがあるのに気づく。
「ん?あの服って日本軍のだよな?」
厨房で皿洗いをしている人たちの服は緑の軍服だった。それがい見うるのは彼らが日本軍の者たちだということ。
「そうだよー。ここの食堂は日本軍の人達がやってくれてるんだよー」
少年の疑問にポニーテールの少女が頷いて肯定した。
この学園は魔女達の正当な育成が目的、
というのは建前で本音は魔女達の監視が目的である。
強大な力を持つ一個人。国としては監視下に置いておきたい。そのための学園である。
だからこうして学園の運営のいたるところで日本軍人が関わっている。
「凄く見られているっすね」
「でも、驚いている様子はない、ということは陸のことはやっぱり知っていたのね」
緑の軍服を着た男女が少年を各々伺っている。だがしかし、刹那の言うようにその様子に驚きなどのようなものはない。あるのは訝しむようなものだけだ。
「まぁ気にせず昼食にしよう」
「あんたのことなのに、ずいぶんあっさりしてるわね」
「さっきも言ったが注目されるのは仕方ないからスルーしてる」
「…あんたってすごいわね」
赤髪の少女は哀れに思いつつも流石に少しはかわいそうと思った。
訝しむような視線を受けながらも注文をして料理を受け取り席へ移動する。
「ところでみんなは軍人が身近にいて気にならないのか?」
少年は注文した料理、オムライスを口にしながら少女達に問いかける。
飛鳥茜は、
「ウチは小さいころからここに居るから、ウチにとっては普通だよ」
白銀真白は、
「…」
雲川刹那は、
「ここにきて長いからもう慣れたわね」
草薙桔梗は、
「自分たちは魔女だから仕方ないっすからね」
夏目日菜は、
「少し緊張しますけど少しずつ慣れてきました」
桐ケ谷董子は、
「(軍人とか関係なく男の人は怖い…)」
姫神芹佳は、
「…私も慣れたわ」
それぞれ注文した料理にきとぉ付けながら答える。
そんな風になんてことのない話をしていると、一人の軍人が近づいてきて強引に陸の隣に椅子を置いて座る。
「ちょっと、いきなり何?」
最初に隣に座っていたポニーテールの少女が文句を言うが、ごめんね、とだけ言って少年に話しかける。
「久しぶりね、陸。オムライス食べてるの?ここの一番のおすすめはカレーなのにね」
「…京香さん、相変わらずだな」
陸の食べるオムライスに視線を落とす女性の軍人。
枢木京香。
軍服の上着を腰に巻いたラフな格好。薄手の黒いシャツは女性らしさを強調していて、長い暗い赤の髪をハーフツインテールにしている。
軍服を腰に巻くという滅茶苦茶な格好の軍人に苦笑を浮かべながらも続けて話しかける。
「ところで何でここに居るんだ?」
「私は今年度からここに配属されたからなー。またよろしくね」
少年の首に腕を回してはにかむ京香。
相変わらずの態度に、顔に柔らかな感触を感じながらも少年は呆れたような表情を浮かべていた。
「え?りっくん、この軍人さんと知り合いなの?」
間に割り込まれた茜は首を傾げながら少年に問いかける。
「あぁ、昔から色々と世話になってる」
「何言ってるのさ、世話になってるのはこっちよ」
あはは、と笑いながら頭をぐりぐりとする女性軍人。
それに対しても少年はされるがままだ。
「何だよーその反応は、私に久しぶりに会えて嬉しくなにのかー」
ぐりぐりとする手を止めないが、それでもされるがままの少年。
「あんた本当に動じないわね」
無抵抗の少年を見て芹佳は少し呆れていた。
こいつ、意外と神経が図ぶちのかも、と。
「こうして胸を当ててあげてるのに、もっと嬉しそうにしろよー」
「はいはい、嬉しい嬉しい」
「雑ね!?」
うりうりと膨らみを更に押し付けていく女性軍人。
(この人のこういう接触もだいぶ慣れてきたな。正直凄い幸せな感触で嬉しいことは間違いないけど、積極的にこういうことされると照れるし、恥ずかしいんだよな)
陸も決して何も感じていないわけではなった。
ただ照れ隠しというか、動揺した反応をするのが恥ずかしくて無表情にふるまっていたのだった。
決して少年は女性に対して何も感情を抱かないわけではない。
「陸は小さいのが好き。だからあなたの胸には興味がない」
「おい、変なことを言うな」
陸と京香のやり取りを見ていた空色髪の少女が突然不名誉なことを口走る。
「そ、そうだったの!?」
大げさに驚く女性軍人。
「昔は私の胸に抱きついて結婚するって言ってたのにね。趣味川ちゃったのね」
よよよ、と目元に手を当てる。
「抱きついた覚えもないし、そんなことをいった覚えもない」
少年は呆れたようにツッコむ。
当然、京香の言葉をうのみにしている者はいない、
「私の勝ち」
いないと思いたいが、空色髪の薄い胸の少女は胸を張っていた。
しかしその言葉にウソ泣きをしていた女性軍人は目元から手を放し、
「でもあなたより相応しい子はいるみたいだけど」
視線を二人の少女に向ける。
「自分は着やせするタイプっすから、胸は大きいっすよ」
「そうなの?それじゃあこっちの子は」
「わ、私ですか」
ピンク色の髪の少女は視線を向けられ少し戸惑う。
「そう君。この中だと一番小さいんじゃないかな?」
「え、えっと…」
日菜は少し頬を赤らめて恥ずかしそうにする。
見た感じ一番胸が小さいのは彼女だ。陸が小さい胸が好きというなら、このピンク髪の少女が一番に好みに合っているように見える。
しかし、
「それは違う。日菜は私と同じぐらい」
「ちょ、ちょっと真白さん!陸さんも居るんですし、そういうことは言わないでください!」
淡々と告げた先輩の言葉に先程よりも顔を赤くして激しく抗議する。
異性の前で身体的なことを言われるのはとても恥ずかしい。年頃の女の子にとって普通の感覚だ、
そして後輩に抗議されたが、それをスルーして続ける真白。
「一番小さいのは芹佳。残念」
「は、はぁぁぁ!?な、何言ってんのよ!?それに残念って何よ!?残念って!?」
急に指摘された赤髪の少女はその髪と同じくらい顔を赤くしながら大声を上げる。
補足しておくと真白は決して芹佳の胸が残念と言ったわけではない。あくまで自分の状況に対して言ったのだ。自分の胸が一番小さくない。ということは自分が陸の一番の好みではない。それに対しての『残念』なのだ。
「でも見た感じだと貴女よりはありそうだけど?」
空色髪の少女と赤髪の少女の胸元を見比べて首を傾げる京香。
「芹佳はパ―――」
「黙りなさい!!!」
真白が言いかけた言葉を自分が食べていたハンバーグ口にを詰めて遮る芹佳。
真白が言おうとした言葉は芹佳にとって禁断の言葉だった。
「それよりも京香さんはこんなところで油を売っていていいのか」
話が変な方向へとどんどん進んでいくので無理矢理話題を変える。
「ん?あぁ、私は陸のサポートでここに来たからね。本当は私が来てすぐに挨拶しようと思ってたんだけど、陸居なかったしね」
「急にロンドンに行かなきゃならなかったからな」
「そういえばお見上げは?」
「ない」
「酷い!」
陸は最初は四月からの入学予定だった。だけど急にロンドンに行く用事が出来てしまい、入学が今日五月七日になってしまった。
京香も顔見知りということもあり陸のサポートに四月からの学園への配属になった。
「ロンドン?いいわね、私も行ってみたいわ」
「ウチも行きたいなー」
「(私も行ってみたい、けど、外国は怖い)」
突然話に出てきた外国の地の名を聞き話が盛り上がる。
盛り上がった少女達を横目に京香は一度咳払いをしてから、
「何かあったら頼りにしていいよ」
「あぁ、改めてこれからもよろしく」
笑顔の京香に陸も笑顔で返した。
枢木京香
階級:少佐
四月から陸の補佐役としていzも学園に配属。
レヴィ
「ロンドンでは楽しかったのだ」
陸
「楽しいだけじゃなかったけどな。むしろ大変なことの方が多かった気がする」
レヴィ
「帰ってきてからも忙しかったし、入学もしたし久しぶりにゆっくりできるな」
陸
「それよりまた新キャラが出てきたんだけど」
レヴィ
「次回も出るのだぞ」