5話
董子の魔法についての説明を刹那が続けた。
「大体何でも作り出せるというのは間違ってはいないわね」
白髪少女は腕を組みながらビクビクと怯えて小さな先輩の後ろに隠れている恥ずかしがりや少女の方へ視線を送る。
「さっきは納得したが本当なのか?なかなか珍しいと思うが」
「ええそうね。かなり珍しいわね。彼女の魔法は大きさなどに制限があるでけで何でも作れるのよ」
そこで盾にされている桔梗がさっと横にずれる。
急に壁がなくなって全身をさらされてしまったは恥ずかしがりや少女は、その恥ずかしがりを更に発揮して首を左右に振りわたわたと狼狽える。
「ほら、色々見せてあげるっすよ」
「(はわわわ、きゅ、急にいなくならないでぇ)」
小さな声で抗議する董子だが元盾の小さな先輩は今度は先程までとは反対の立場となり後ろへ周られてしまう。今度は隠れる側になってしまった花の髪飾りをつけた少女は魔法を見せるように促す。
「(えぇぇ、何を作ればぁ)」
唐突に恐怖の象徴(異性)の前に立たせれ注文をされても困る。
とうか恥ずかしい。
恥ずかしがりや少女はあまりの恥ずかしさに全身の肌を真っ赤にする。
光を吸い込むようなふんわりとした真っ黒な髪は胸元まで伸ばされており、前髪は目元を隠すくらいまで伸びている。その前髪で目が全く見えず本人は前方をどうやって確認しているのか謎だ。
小さく縮こまっているので正確には分からないが身長は真っすぐ立てば陸と同じくらいのではないだろうか。
「いや別に無理しなくていいからな」
あまりの怯えっぷりに陸もそう声を掛ける。
それを聞きその場から姿を消す董子。
「ちょっと、すぐに隠れないでほしいっすよ」
姿を消した少女は小さな先輩の後ろにいた。その動きは素早すぎて注意していなければ瞬間移動したと思えるくらいの速さだ。
「まあ見る機会は直ぐに来るわよね」
白髪の少女も溜息を吐きながら仕方ないと納得していた。
「董子さんの魔法は本当にすごいんですよ!」
キラキラとした目でそういうのはピンク髪のフワフワ癒し系少女の日菜。
「董子さんはこのクラスの攻撃役の一人で、魔族の討伐数もすごく多いんです」
満面の笑みで語るフワフワ少女。そのキラキラと輝く瞳からは憧れを感じさせる。
「(そんなことないよぅ、日菜ちゃんはたくさんの人を癒してるから私なんかより凄いよぅ)」
盾(桔梗)の後ろに身を小さくして隠れて小さな声で否定する恥ずかしがりや少女。異性の前も恥ずかしいけど褒められるのも恥ずかしいのだ。
(これで全員だな。と、そういえば真白のまっほうを見ていないな)
「ところで真白の魔法は何なんだ?聞いてないと思うんだけど」
クラスの全員の自己紹介を受けて改めて頭の中で全員のことを整理していて無表情少女の魔法を聞いていないことに気付いた陸は、真白にそう話しかける。
「…私の魔法は毒」
それだけ言うと俯いてしまう空色髪の少女。
(毒、か。この雰囲気だと過去に何かあったんだろう。あまり触れない方いいな)
そう考え話題を変えようと何かを放そうとした少年だったが、それより先に俯く空色髪少女が顔を上げて口を開いた。
「陸は私の希望」
「え、?」
唐突に言われた脈絡のない言葉に戸惑う陸。だけどその言葉を発した真白の目は真剣そのものだった。
言葉の意味を理解出来ていないのは少年だけでなく、少女達も理解できずに疑問の表情を浮かべていた。
「その話はまたあとでしてくれ」
誰もが疑問を浮かべていた場で声尾を出したのはポニーテール教師の万由里だ。
ポニーテール教師は事情を知っているのか空色髪少女の言葉に疑問を抱いていないようで話題をきっぱりと変えてきた。
「これで全員の自己紹介も終わったな」
一度少年少女を見渡したあとで、
「早速授業を始める」
淡々と告げる教師万由里だった。
「え、授業するのー!?」
驚く声を上げるポニーテール少女。
「当り前だ。せっかくここにいるんだし実技をするぞ」
その言葉に少女達はさっと姿勢を正す(若干一名小さくなったままだが)。
実技は魔族との戦闘においてもっとも重要な授業になる。魔族との戦闘は冗談抜きで生きるか死ぬかの戦いなのだ。授業も真面目に受けなければその分魔族との戦闘時に死のリスクも高くなる。
「とはいえ、早乙女も初めての授業だ。今までのことを整理しながら行くぞ」
教師万由里の言葉に全員が頷く。
「まず魔族に有効打を与えるのが魔法だ。そしてそれを補助するのがこれだな」
そう言いながらいつの間にか持っていたものを前に突き出す。
「早乙女、これはお前のだ」
「え、これ魔装だよな」
「ああ、これからはこれを使え」
手にしていたものを渡してくるポニーテール教師。
それに目をやりながらも両手で受け取る。
黒い鞘に黒い柄の剣。
(これを使ええてことはいままでのは使うなってことか?まあ、あれは特殊出しな)
「魔装のことはどれくらい知ってるの?分からないことはお姉さんが教えてあげるよ☆」
「陸のお姉さんは私。だから私が教える」
ウインクしながら陸の隣に来た茜。そこに明るい少女とは正反対の静かな少女真白が割って入る。
「別に説明してもらわなくても大体知ってるぞ」
軽く睨みあう正反対の少女たちだったが陸の言葉にえっ、と顔を少年の方へ向ける。
「陸さんは魔装のこと詳しいんですか?」
「特に詳しいという訳ではないが大体のことは理解していると思うぞ」
「確かに魔装のことは知ってる人は多いっすけど、でもそれって魔女が使ってる武器ってくらいっすよね。陸ちゃんは何で知ってるんすか?」
「ちゃん?」
日菜も不思議そうに首を傾げながら可愛らしく問してきたので簡単に返す。
その後に桔梗も質問してきたのだが少年は自分の呼び方の方が気になったようだ。
「嫌だったすか?」
「別にいいけど」
なんかさっきも同じやり取りをした気がすると思いながら少年は許可した。
「それより私はその剣の方が気になるのだけど」
男の魔女など大して興味ないとばかりに話を黒い県に移す白髪少女。
「抜いてみるといい」
「そただな」
少年は教師に促されて権をさやから抜いてみる。
抜くとその刃は深海のような暗い青だった。
「成程、早乙女の魔法は水の創造系だから、海のイメージで青いのね」
顎に手を当ててふむふむと頷く白髪少女。刹那はかなり剣に興味があるようだ。
「その剣は水の刃を飛ばすかとが出来る」
「それだけか?」
「ああ、だが込める魔力によってはかなり強力は刃を飛ばせるらしいぞ」
簡単に剣の説明をするポニーテール教師。
魔力を剣に流し、そこから水の刃を飛ばし攻撃できる魔装。単純だが魔力量の多い陸には向いていると万由里は付け足す。
「名前はあるんですか」
刹那が尋ねる。
「特に決めたもいいぞ」
返ってきた言葉に顎に手を当てる動作をする白髪少女。刹那は何かを考えている様子だ。そして口を開く。
「その剣の名前、私が決めていいかしら」
「別にいいけど」
返ってきた少年の言葉に’目をキラキラとさせる白髪少女。
(何か嬉しそうなんだけど、何なんだ?)
「そうね、『レヴィアタン』とかどうかしら」
「え、」
楽しそうに目をキラキラと輝かせる白髪少女からの命名案。腕を組んで少しドヤ顔になっている。
「最強の水の怪物といえっばレヴィアタンだものね」
件の魔装の剣は水に関するもの。
水と言えば海。
海の怪物と言えばレヴィアタン。
そんな感じで白髪の刹那は提案した。
「レヴィアタンはちょっとな」
だけどその案は剣の所有者である少年には刺さらなかったようだ。どこか複雑な顔をしている。
「レヴィアタンは気に食わないのかしら?」
「そうだな…魔法名が『リヴァイアサン』で登録したからな」
「成程」
顎に手を当てて頷く刹那。
リヴァイアサンはレヴィアタンの別名。
だから武器にも同じ名前を付けるのはなしかと納得する。
ちなみに魔法名とは魔法が発言したとき、それを国に報告しなければならないのだがその時に決められる魔法の名前だ。自分で考えて好きに付けることが出来る。
とは言え、大体の人はシンプルな名前で登録しているのだが中には少しひねって登録している者もいる。
「そうね、他に海で有名どころと言えばポセイドンとかかしら」
そう言いながらも白い髪を生やす頭の中にはほかにもいくつもの名前が浮かび上がっている。
例えば、クラーケン。
例えば、セイレーン。
例えば、ワタツミ。
例えば、モーセ。
様々な種族の名前が他にも連なってくる。
「なあ、武器なのに人名?なのか?」
様々な名前を思い浮かべていた刹那に神様の名前を出したことを疑問に思う陸。
少年の言葉に一度頷居ながら確かに、と呟いてから続ける。
「武器だから武器の名前を付けた方がいいかもね」
一泊置いてから、
「ポセイドンは槍だものね」
武器に付けるなら武器の名前。もしくはつける対象に近しい力を持ったものの名前。
まず真っ先に思い浮かんだのは先程も名前を口にしたポセイドンの武器、三叉槍。海神のトレードマークとして有名な海に関する武器だ。
しかし三叉槍はその名にある通り槍で今回の武器は剣なので違和感を覚える。
そこまで細かいところを考える必要は物にない。物に剣に槍の名前を付けたって問題はない。神話や伝承などの中には『剣もしくは槍』なんて表現は珍しくもない。だから剣に槍の名前を付けようが、銃に弓の名前を付けようが、盾に鎧の名前を付けようが、服に艦隊の名前を付けようが、何でもいいのだ。
でもまずは剣の名前を付けるのが第一案にするのが普通だろう。
「剣なら『草薙剣』かしら」
物に何でもいいとは言えやはり剣に関する名前がいい。
刹那はそう考え頭に浮かんだ名前を口に出す。
「自分っすか?」
しかし言葉に最初に反応したのは少年ではなく薄緑髪の少女だった。
薄緑髪の少女、草薙桔梗は突然な自分の名前の登場に首を傾げる。
「いえ別に桔梗のことを言ったわけじゃないんだけど、そうね、ややこしいから別名の天叢雲剣の方がいいかしら」
「そっちは聞いたことがあるっす。ヤマタノオロチを倒した剣っすよね。自分と同じ名前の武器にそんな凄いのがあったんすね」
「違うわ」
クラスメイトと同じ名前だったので別案を出した刹那だったが、その薄緑髪のクラスメイトはどこか誇らしげに薄い胸(実は大きい?)を張る。しかしクラスメイトの誤った発言に即答で否定する発案者。
「天叢雲剣はヤマタノオロチを倒したんじゃなくてヤマタノオロチを倒した後にその身体から手に入れた剣」
「別にどっちでもい」
「よくないわ」
訂正する刹那だけど、今度は別の白髪クラスメイトの言葉に即答する。そして不機嫌そうにむっとした顔になる。
「私は両方聞いたことはあるけど、同じものだってのは知らなかったなー」
更に茶髪クラスメイトまで話に入ってくる。
ワイワイと賑やかになってきたのを横目に見ながら、話題の中心の剣の持ち主の少年は呟く。
「何か色々とかあんが得てるみたいだけどシンプルに『水刃剣』とかだとだめなのか」
手の中にある剣に視線を落とす。
ポセイドンだの草薙剣だのたいそうな名前が出てきているが別にこれはそこまでたいそうなものには見えない。魔装の中には伝説の武器の名前をt受けるに相応しいものがあるのだ。
「『水刃剣』か、なかなかいいな」
少年の呟きを聞いた白髪少女は顎に手を当てながら頷く。
水刃は水神ともかかっている。
なんて頭に思い浮かべる刹那は納得するように頷いていた。
白銀真白
魔法名:救いの呪毒
能力:毒の創造系魔法。魔力により毒を生み出す。
レヴィ
「我の名前がようやく出たぞ」
陸
「別にお前のことを言ったわけじゃないけどな」
レヴィ
「だが陸の魔法名も出たし、その由来が我にあるのもすぐに分かることだろう?いずれ我のこともすぐに出てくる」
陸
「なかなか話が進めないからお前が出てくるのはいつになるか分からないけどな。今回もまた変なところで終わったし」
レヴィ
「登場人物も多いし、出来るだけ話に参加してそれぞれの名前を出したいから会話多めに進めているからな」
陸
「俺、一人声聞いてない子がいるんだけど」
レヴィ
「あいつはそういう性格だからな」