3話
訓練場の中央付近で生徒たちが横に並んで地面に座っている。その皆の前に万由里が立っている。
「魔族と戦うには我々人類は弱すぎる。貧弱な魔族ならともかく強力な魔族は個々の力で倒すのは困難だ。だから連携が必要だ。そのためにも同じチームで戦うお前たちにはお互いのことを知ってもらわなければならない。それは分っているな」
万由里の言葉を黙って聞く生徒達。
「というわけで陸に向けての自己紹介をしてもらう」
「はいはーい。それじゃあウチからやるよー!」
万由里の言葉に手を上げて元気よく答えたのは先程の模擬戦で芹佳に声尾を掛けていた少女だ。
「ウチは飛鳥茜。魔法は千里眼だよ。よろしく、りっくん☆」
ピースサインを作ってそれを横にして目元に充ててウインクしながら自己紹介する少女。茶髪の髪を後ろで結んでポニーテールにしている胸が大きめの明るい印象を第一印象で与えてくれる。
「りっくんは何歳かなー?見た感じウチより年下にみえるけど?」
「り、りっくん?俺は十五だ」
「やっぱり年下だったんだねー。ウチは十八。分からないことがあったら何でもお姉さんに訊きたまえ」
腰に手を当てながら胸を張る茜。その表情は自信満々といった感じだ。
「飛鳥の魔法は見てわかるようなものでもないから実演は次にしてもらおう」
「えー。せっかくりっくんにカッコいいところを見せようと思ってたのに=。まあウチの魔法じゃ仕方ないかー」
万由里の言葉に唇を尖らせる茜。仕方ないといいつつ不満そうだ。
「なあ、そのりっくんっていうのは何なんだ?」
「あだ名だよ。嫌だった?」
少し上半身を前に倒しながら上目遣いで尋ねる茜。その目がウルルとしている。
その様子に陸は「別にいい」と答えながら考える。
(千里眼の魔法ということは索敵系か。それにいてもあざとい奴だな。目のやり場にも困る。わざとか?)
茜のシャツの上の方のボタンは外れリボンも緩められ下から覗き込むような体制の状態では下着が見えそうになっている。更に両腕が寄せられて大きめの胸がより強調されている。
そんな状態に陸は視線をさっと横に逸らしていた。
「…」
そんな陸の反応で今自分がどういう状態になっているのかを理解した茜は少し頬を赤らめてから上半身を立てて元の位置に戻す。その反応からどうやらわざとではなかったらしい。
「えっち」
「おい、自分でやったんだろ」
「それでも見たでしょ」
「見えてない。すぐに視線も外したし」
などとやり取りを巣ながらも陸は茜の反応を見てやっぱりあざといなと思っていた。
「次は私。白銀真白。十六歳。私も陸のお姉さん」
陸が茜とのやり取りをひと段落終えたところでそう声を掛けてくる少女が歩いてくる。
肩口まである空のように薄い青色の髪。海のように子良い青の瞳。淡々と告げるしゃべり方に無表情な顔つき。茜と違って静かな腑に気を纏っている。
「よろしく。白銀」
「真白でいい」
「それじゃあ、よろしく真白」
「真白お姉ちゃんでいい」
「何でだよ」
表情が全く変わっていないので冗談で言っているのかがすごくわかりづらい。陸としては気兼ねなく話しかけてきてくれたので話しやすそうという第一印象だがその無表情に感情がつかみづらいとも感じていた。
「私一人っ子だから」
「う、うん?」
「弟がほしい」
「だから俺になれと?」
「そう、はい」
「いや呼ばないからな。それに見た目的には全然姉に見えないんだが」
「確かに」
そんなやり取りをしている愛大陸も結構面白い奴だなと感じていた。そして真白は陸の言葉を受けて手を胸に当てている。
「私の胸は小さい。残念」
「そこを言ったわけじゃないからな」
そしてどこか呆れた感じの陸。少しのやり取りだが真白がどういう感じの人物かが見えてきたようだ。
そして陸が言っていたのは身長のことである。真白の身長は陸よりも小さめなので姉に見えないと言いたかったのである。
「なら小さい胸は好き?」
「…」
(返答に困る質問はやめてくれ)
陸は無表情な真白の質問に答えることが出来ず黙っているしかなかった。
そこで話を変えるように助け船が入ってくる。
「あのー、次私が自己紹介してもいいですか?」
そう入ってきた声の方に視線を向ける二人。その先にはこの場の馬鹿で一番年若く見える少女がいた。
「ああ、頼む」
その助け舟に陸は直ぐに乗って話を促す。
「はい。私は夏目日菜です。魔法は回復系で年齢は13歳、中学二年生です」
ぺこりと頭を下げながら名乗る少女。
腰まで伸びたふんわりとしたピンク色の髪。薄い緑の瞳。醸し出している雰囲気は穏やかで落ち着きを感じさせる。
「よろしく夏目」
「あ、私も日菜でいいですよ。早乙女さんのことも陸さんって呼んでいいですか」
「ああ、かまわないぞ」
陸の言葉に嬉しそうに微笑む日菜。それを見て陸もほほえましさを感じる。
「日菜は中学二年なんだな。それでこのクラスに居るのか」
このクラスは実践を兼ねたクラスである。その中にまだ中学生が居ることに少し引っかかる陸。
「はお。皆さんに比べたら私なんてまだまだですが、私の力がみなさんのお力になれたらと思ってこのクラスに入れてもらいました」
選ばれたことが光栄ですと付け加えながらそう答える日菜。
このクラスに入るには学園側から相応しい者に声がかかり、それ絵を受ければ入れることになっている。
先程も言ったがこのクラスは実践を兼ねたクラスである。その実践とは魔族との戦闘を指す。その戦闘では当然命の危険も伴ってくる。なのでそれに相応しい力を持っていることが前提となってくる。
その基準は学園側が決める。そしてその基準に達している者に声を掛けてそれに応じればこのクラスに入るということになる。当然断ることも可能だ。命の危険があるのだから力があろうと本人の意思がなければならない。無理矢理にやらせてもやる気の問題からさらにリスクが増えるだけなのだ。
「そうか、今後俺も世話になることがあると思うがその時はよろしく頼む」
「はい。回復ならお任せください」
元気よく答える日菜。それを見て陸は考える。
(回復系の魔法でこのクラスに居るということは相当高度な魔法が使えるのは間違いないだろうが、それにしてもこの歳で実践とはなかなか肝が据わってるのかもしれないな)
少しの心配もしたがそれでもその瞳からはしっかりとした決意のようなものを感じられたためその心配もすぐに忘れ頼れる少女だと思うう陸。
「やっぱり陸は小さい胸が好き」
「おい」
陸と日菜のやり取りを見ていた真白がそう呟く。
「えっと、私の魔法も今すぐには見せられるものではないので今度機会があればお見せしますね」
「それなら問題ない」
日菜の魔法は回復系。つまり傷がなければ意味のない魔法だ。だから日菜は魔法を見せるのは次にと言ったのだがそれを真白が首を横に振りながら入ってくる。
「何が問題ないんだ?」
「腕出して」
「何だよ」
尋ねる陸の言葉をよそに要求だけを告げる真白。その言葉を訝しみながらも素直に要求に応じて陸は腕を前に出す。
それを見た真白は一つ頷いてから懐に隠していた刃物を取り出して陸の腕を切りつけた。
「痛っ」
「真白さんっ!?」
とは言っても傷自体は大したものではなく手の甲にかすり傷がある程度だ。それでも血も見じみ出ているし突然のことということもあり状況よりも少し大きな反応をしてしまった。
すぐそばに居た日菜も驚いたような声を出す。
「これで傷ができた」
「確かに傷はできたが別に今すぐにわざわざ作る必要はなかっただろ」
「傷がないと回復できない」
だから今すぐやる必要はないだろと言葉を漏らしながら陸は溜息を吐く。傷も大したことないため怒りなどよりも呆れの感情が出ているようだ。
「こら、ましろん。いきなり仲間を切りつけない」
「陸のためにやった」
茜が真白の行動を注意する。だけど真白には反省の意思は全くないようだ。彼女も悪気があったわけではない。悪いことをしたという意識もあまりない。なので反省もないのだ。
「直ぐ治しますね」
「ありがとう、頼むよ」
真白たちのやり取りを置いておいて日菜は直ぐに魔法での治療を開始する。
陸が日菜に見えるように手の甲を上向きにして手を差し出す。日菜はその傷を確認してから自分の手を傷に翳す。すると陸の手が白く淡い光に包まれて最初から何もなかったように傷が瞬く間になくなった。
「凄いな。こんなに早く治るのか」
「小さい傷でしたから」
「それにしてもかなり早いと思ううけどな。それに何も感じなかったな」
当然のことではあるが傷が小さいほど治りが早い。そして回復系の魔法での治療の際、被術者側に痛みや違和感を感じることが多い。だけど魔法のレベルが高ければ傷の治りも更に早くなり、違和感も小さくなる。
傷が小さいほど感じる違和感も小さくなる。
そして今回日菜が行使した魔法で陸は全く違和感を感じなかった。傷がかすり傷程度の小さなものだったとはいえ、そこからは日菜の魔法のレベルの高さが伝わってくる。陸もそれを感じやっぱり日菜は凄い魔女だと実感していた。
(これを今実感できたのは一応真白のおかげだな。それでも一言ぐらい断りは欲しかったが)
「ありがとう」
「いえ、これが私の役目ですから。ケガした時などはまたいつでも言ってくださいね」
にっこりと微笑む日菜に陸は微笑ましさを感じながらも頼もしさも同時に感じていたのだった。
夏目日菜
魔法名:慈愛の天使
能力:回復期の魔法。傷口に魔力を流すことで治療する。
レヴィ
「これが日菜の魔法だ」
陸
「何で本編で出てないのにお前が知ってるんだよ」
レヴィ
「ここは本編とは関係ない次元だから細かいことはkにするな。本編の我は知らん」
陸
「そんな適当な感じなのか」
レヴィ
「次回も自己紹介が続くぞ。我の登場を期待しているのだな」
陸
「お前はまだ次回も出てこないだろ」