21話
「さてと、大人しく付いてこないというなら死なない程度に痛みつけて連れていくことになるが、いいんだな」
オールバックの男が初年に向かい最後通告を告げる。当然これに対する少年の返答は決まっている。
「あぁ、そっちこそ、大人しく捕まってもらうぞ」
ノーと返答を返した上で少年からも通告を行う。
これにより戦闘が開始された。
(相手はあの『新たなる世界』だ。何をしてくるかわからない。速攻で決める)
最初に動いたのは陸だった。
少年にはj何度か『新たなる世界』と対峙したことがある。その経験からこのテロリストたちはろくでもない連中ということを嫌というほど理解している。
だから速攻で決めて意識を奪おうと飛び出した。
手に持つ『水刃剣』を強く握り振りかぶりながら魔力による死体能力の強化を行いながら敵に向かい突っ込む。
少しだけ迷ったが最初に狙うのは金髪の魔女、ハプティ=ハロウィン。もう一人の本田と名乗った男の魔装を使うという言葉も気になるが、やはり門を開くという魔法は放置できない。まずはこの魔女から無力化してこれ以上魔族を呼び出せないようにしたい。
「おっと、なかなか速いじゃないか」
ケラケラと笑いながら少年のふるった剣を後方に跳んで回避する金髪少女。それと同時、少年と金髪少女の間に黒い靄のようなものが現れた。
「それじゃあこいつにどう対処しやがる。ケケケ」
その靄の中から大きな影が飛び出してきた。
それを見てすぐにそれが魔族だと気づき一歩後ろに下がる。
「これが門か」
呟いて靄から出てくる影、魔族を観察する。その影はこれまでこの場で倒してきた魔族たちより明らかに大きいので完全に別者だろう。この状況で呼び出したというのも考えれば今までよりも強力な魔族であるのは間違いないはず。
完全に靄を抜けた出てきた魔族は黒いヤギの形をしていた。ただ大きさは普通のヤギの比ではなく全長で五メートル近くある大きなものだった。
「ちっ、面倒そうなのが出てきたな」
その巨体を見て思わずそんな言葉が出ていた。対峙して感じる雰囲気から簡単に倒せそうな雰囲気ではない。
一瞬身体を強張らせた少年を視界に収めた黒いヤギは先制攻撃と言わんばかりに突っ込んできた。
「っ、くそっ、結構威力がある」
それに対して陸は思い切り大量の水を魔法により生み出しぶつけることにしたが押し返せずにヤギの足を止めることしか出来なかった。
「大丈夫、陸」
「あぁ、なんとか。俺はこのヤギの相手をするから二人はあいつらの相手をしてくれ。すぐに倒してそっちに行く」
「分かった」
「…魔装を使ってるのよね…。でもそれにしては威力が…」
突っ込んでくる黒いヤギと大量の水の押し相撲を繰り広げる状況を見て真白が声を掛けてきたが、なんてことないように軽く返してテロリストの相手を頼む。
この判断は少し迷ったがそれでも今は一緒に戦う仲間だし、訓練で二人の実力もある程度は知っているつもりなので頼むことにした。油断は出来ないが心配しすぎることもないだろう。
その少年の頼みを受けた空色髪の少女は素直に頷いて少年の横を通り抜けていく。やる気に満ちたその横顔を見た少年はこの少女なた大丈夫だろうと思った。
それにたいしてもう一人の少女は素直に頷けなかった。
もの凄い勢いで突っ込んでくる巨大な黒いヤギを大量の水で押しとどめている。しかも一瞬ではなく今も尚拮抗した状態でだ。
それを見た芹佳に違和感を覚えさせる。
この男は魔装によって魔法を使っているように見せていた。だけどそれを使ったようには見えず、さらにはこんな威力の魔装なんて聞いたこともない。
そう考えて直ぐに少年の頼みに反応することが出来なかった。
「今はそれは良いからあいつに集中してくれ」
「わ、分かってるわよ」
少年が一声かけるとハッとした様子で強くそんな風に言葉を吐き捨てて真白に続いて少年の横を抜けて行った。
確かに今はテロリストに集中するべきだ。この男が魔女だと偽っている詐欺師だとしても今は味方であるのは確かなので深いことは考えないようにした。
このことは後で聞けばいいかと今はスルーすることにした。
「さっさとこいつを処理して援護に行かないとな」
「なかなか強力な魔装を持っているようだな」
灰色髪の少年が大量の水で黒いヤギの魔族の突撃を押し留めているのを見た本田と名乗る男は感心したように呟いた。
自分と同じで魔女以外でも使える特殊な魔装を使う少年。その魔装の出所を含め、魔女として振る舞っている少年にものすごく興味がある。少年を連れて行くことは任務だがそれがなかったとしても個人的に連れて行きたい存在だ。
「その魔装のことについて詳しく訊きたいところだけど、それはあんたを捕まえてからにするわ」
そこで本田と名乗る男の目の前に赤髪の少女が立っていた。バチバチとした雷を纏わせた槍を構え、その切っ先を男に向けていた。
「面倒だな。俺はお前に興味はないんだが」
「私も興味はないわ。でもテロリストなら見逃せないわ。あいつらはろくでもない連中だからね。あんたもその一人っていうなら強引にでも捕まえるわ。それで魔装のことも含めて詳しいことを話してもらうわよ」
鋭い目つきで睨みつける芹佳だがオールバックの男は面倒臭そうに仕方なくといった感じで対峙する。
りょしゃは睨みあっていてがそれも少しの間で直ぐに動き出した。
際者に動いたのは少女の方で真っすぐに距離を詰めて突っ込んでいき槍を大きく振るう。
だけどその槍が男に当たることはなく空を切るだけになった。
「魔力も使えないのになかな早いわね。その動きも男でも使えるっていう魔装のおかげなのかしら」
「あぁそうだよ。詳しく言うつもりはないがそいうことだ」
「ふん。魔装に頼ってばかりなんてやっぱり男なんてろくでもない奴しかいないのね」
「お前の持ってる槍だって魔装だろ。人のこと言えんのか」
「…私はあんたみたいに頼りっきりってわけじゃないわ」
睨みあいながら口でも戦う両者。
そんなやり取りの最後、オールバックの男に放たれ言葉に少し不機嫌そうな顔になる赤髪少女。
(私だって頼りっきりっていうのは分かってるのよ…)
ああは言い返したが内心ではかなり感情が揺れていた。
頼りきりという言葉は思った以上に心に刺さるものがあった。自分で言ったセリフではあるが、それも一種の自己嫌悪だったのかもしれない。
そんな考えを振り払うように今は目の前の敵に鋭い視線を向ける。
「それじゃあ、お前みたいな奴に時間を使うわけにもいかねえしな」
「それは同感ね。私もあんたみたいなのに時間を取られたくはないわ」
ニヤリと口角を吊り上げたオールバックの男に同じような言葉を返して、再び距離を詰めるため足に力を入れて一歩を踏み出す。
だが、そそで足元に異変があった。
「ッ!?」
足を地面に付けた途端、その地面から白く輝く長い紐所のものが大量に飛び出してくる。更にその輝く紐は芹佳の身体を拘束するように巻き付いていった。
「な、何よこれ!?」
突然のことで慌てて手から槍を落としてしまう赤髪少女。それから輝く紐は完全に少女に巻き付き芹佳は身動きが取れないようになってしまう。
かろうじて転びはしなかったものの、その場から動くこともできず両腕は紐によって身体から離すことが出来ない。これでは落としてしまった自分の武器を拾うこともできない。それどころか、今攻撃されると避けることすら難しい。
「簡単に掛かってくれたな」
正面から満足そうな男の声が聞こえる。やはりこれは目の前の敵が仕掛けた罠だったようだ。
「…これも、魔装なのかしら」
「なんだ、思ったよりも冷静だな」
「慌ててもしょうがないからね」
最初は少し焦ったが、だが今は冷静だ。拘束されていて身動きが取れない状態だけど、だからこそ冷静でいなければならない。
「余裕そうだが、それでこいつを防げるか」
しかし当然自分が冷静になったかと言って敵が待ってくれるわけではない。こちらを殺そうと(そこまでしようとしているかは分からないけど)しているのだからこんなチャンスを見過ごすわけがない。
よって、本田と名乗る男は躊躇なく攻撃してくる。
こちらに向けられた手から火の玉が飛んできた。
当然避けることは出来ない。
そんな様子を火の玉を放った張本人は楽しそうに見ていた。余裕な表情を見せる少女がどう対処するのかを楽しんでいるようだった。
「私の魔法は武器に雷を纏わせるだけじゃないのよ」
言うと赤髪少女の身体からバチバチと白く輝く電気が弾けた。
その電撃が迫っていた火の玉とぶつかり相殺する。
「へえ、武器がなくてもそれだけの威力が出せるのか」
攻撃を防がれてしまったオールバックの男だったがそんなことを意に介さず感心したような声を漏らすだけだった。
「これくらいはなんてことないわ」
いまだに拘束された状態のままではあるが、まるでそんなものはないかのように堂々とした態度で佇む。その表所からは全くの焦りの色は感じられない。
(まずいわね。この拘束、全然解ける気がしないわ)
しかしそれは目に見えるところだけで、内心ではかなり焦っているようだった。
今、火の玉を相殺した全身から電撃を放つという技は何度も使えないし、とっさには使えない。先程それが出来たのは、この状態になって冷静になってから魔力を貯めていたからだ。こちらが身動きが取れない状態なら容赦なく攻撃してくるのは分かり切っていたため事前に準備sていた。
しかし、これはそれなりに魔力を使う。
そして今の姫神芹佳は魔力が大して多くない。つまり、先程のような攻撃を何度も防ぐことは出来ない。
だからこそ内心は穏やかではなかったのだが敵にそれを悟られるわけにはいかなかったので余裕の表情を見せていた。
「それで、それは何回も出来るのか?お前の魔力はどこまで持つんだろうな」
知ってか知らずか赤髪少女にとって嫌なところを付かれてしまった。この流れは非常にまずい。先程のような攻撃を何回もされると魔力が尽きてしまう。それどころか、間髪入れずに攻撃されると魔力切れ以前に手数に対応出来なくなる。
ニヤリと口角を吊り上げる男の顔に冷や汗が流れるが決して表には出さずに堂々とした態度で言葉を返す。
「だったら試してみればいいんじゃないかしら?」
余裕の表情を見せていれば相手が無駄だと他のの手に出るかもしれない。そう期待するが、そんな都合のいいことにはならず最悪が襲ってきた。
「だったら試させてもらおうか」
言って先程よりも大きな火の玉を、それも複数個はなってくる男。
「ッ」
迫ってくる火の玉群をなるべく表情を変えずに対応する。
先程と同じように身体から電撃を放って何とか火の玉を全て相殺することが出来た。だけど、そこで疲労が処女を襲う。
(今のがまた来たらまずいわね)
内心では汗がだらだらと出ていたが一切それを外に出さずに疲労感を感じながらも冷静に考える。
今ので最初からためていた魔力も使い切った。魔力がなくなったわけではないが強力な魔法を行使することは出来ない。魔力を再び貯め直すのもそこそこ時間が掛かる。
更に一度に大量の魔力を使ったことによる疲労感もある。少し休めばすぐに治る程度ではあるが敵はそれを待ってくれるわけではない。
そんな内心でオールバックの男は再び口角を吊り上げながら口を開いた。
「今のも防ぐか。それにまだまだ余裕そうだな」
また次が来る。と思考をフルにして回転させ対処を考えていた芹佳だったが、対峙する男から出てきた言葉は予想外のものだった。
今までの堂々とした態度が上手くいったのか少女にとって嬉しい流れになっていく。それでもそれを顔に出ないようにこらえながら、これまで通りの態度で煽るように口を開く。
「もう終わりなのかしら。それならこの拘束を解いてほしいのだけど」
拘束しても無意味だと知らしめるように赤髪少女も少し口角を上げていた。
それを見た男はこれまでの表所を崩してつまらなそうにする。
「お前はここでもかなり実力があるんだろう。もっと遊んでいたかったが残念ながらお前に構っている時間を取られるわけにもいかねえ。まzはあっちをかたずけることにするぜ」
オールバックの男の視線の先にはくすんだ金髪の少女と対峙する空色髪の少女がいた。
「!待ちなさい!」
それに気づいて大声を上げる赤髪少女。
空色髪少女は少し苦戦している様子だ。今この男を生かせると真白が危ないかもしれない。
今まで表情を変えずにいた芹佳だったがクラスメイトの危機を感じてそれを大きく崩した。早く何とかしなくてはと焦りが強くなっていく。
「これさえあれば…」
落ちている槍に視線を向ける。
拘束から抜け出そうとあがいてみるが白く輝く紐が緩まることはない。
火の玉を防ぐためにとった放電も、あわよくば拘束を解ければというのもあったが、少しも緩まることはなかった。
落ちている槍を拾うことだ出来れば更に魔法の出力も上げられる。それなら拘束を何とか出来るかもしれない。だがしかし、しゃがむことすら出来ない。
姫神芹佳はただクラスメイトの方へと向かう敵の姿を見ていることしか出来なかった。




