17話
あれから数体の魔族を倒した空色髪少女は段々とその効率を上げていた。
数体の魔族を犠牲に魔力を引き出す力をより強力なものへと昇華させることに成功していたのだ。
「やっぱりすごい成長だな」
「やっぱり?」
多くの魔族の亡骸の中で、自分の役割(真白のサポート)を一段落済ませ一息ついていた少年は魔族を倒す空色髪少女を見ながら感心するような声を漏らした。
それを聞いた真白は呟きの一部分に少し疑問を抱いて訊き返した。その部分は以前に似たような、何か重なるものを感じて少しの引っかかったのだ。
「いや、前にも真白と同じ人工魔女がいたんだけど、その時も成長が早かったからさ」
「そうなの?」
「あぁ。多分今まで無理矢理制御しようとしてたのがよかったんじゃないかってレヴィが言ってたな」
「そうなんだ」
少年から返ってきた言葉に頷く真白。魔王である青髪少女から聞いたという説明は納得できるものだった。
これまで真白は自分の魔法で誰かが傷つくのを恐れて細心の注意の元、魔法を行使していた。それは制御の難しい魔力を無理矢理に制御し多少のコントロールをするというものだった。それ故に魔力の制御ということに関しては誰よりも優れている。最初から難易度マックスでプレイしていた状態から急に最弱イージーモードに変えたようなものだ。変えた直後は感覚のずれから少し手こずるかもしれないけど、慣れさえすれば楽勝になるのは必然。今の真白はそういった状態だった。
自分自身もそれになんとなくではあるが感じ取った空色髪少女はその力をより完璧なものにするため、気合を入れ直す。
それと同時、これからの自分の可能性にも期待に胸を膨らませていた。
「…とこころで、私は二番目?」
「…は?」
だがそこで空色髪少女が唐突に突拍子のないことを言いだした。
問われた陸は訳が分からずに疑問の声を漏らして首を傾げる。
何の脈絡もなく二番目と訊かれても訳が分かたない。この少女は急に何を言い出したのだろうか。
「さっき陸が、私と同じって言った。つまり私の前に誰かいたことになる。だから、私は二番目?」
「なんか言い方に悪意があるように感じるんだけど」
「レヴィが、こうやって陸と話すって聞いた」
「…あいつ何言ってるんだ」
淡々と告げられた空色髪少女の言葉に呆れを感じ、それ以上の呆れを今はいない自分の運命共同体に感じていた。
変なことを吹き込んだ青髪少女のことは置いておいて改めて質問に答える。
「言い方はともかく、お前は二人目じゃないぞ。これまで真白と同じようにしたのが二人いるから三人目だな」
「…そうなんだ」
返ってきた答えに真白は少し悲しそう(無表情)に頷いた。
それは自分が三番目だった、ということに対するものではなかった。自分と同じようにしてくれたものが他に二人も居るということは、その数はすなわち人工魔女の数を指すことになる。
国際法で禁じられている禁忌だというのに、それの被害者が『自分たち』の他にもいた。
いること自体は分かっていても、それでも多くは存在してほしくない。それだというのに目の前にいる少年が出会っただけで二人もいるなんて信じられないことだった。
「ん?急に黙ってそどうしたんだ?」
「…何でもない。少し、疲れただけ」
真白の思いに気付かずに少年は黙り込む真白にそんなことを言う。
訊かれた真白は小さく首を横に振り何でもないと答える。
それに対して陸は少し不思議にそうにしていたが、返ってきた答えに特に疑問を抱くことはなく疲れたという空色髪少女を心配するだけになった。
それを見て真白は安心のような感情を抱いていた。
心配してくれること自体は嬉しいけど、それでも心配を掛けたくないという思いの方が強い。これまで真白が抱いてきた憂いや恐怖、不安といった感情はあまり誰にも知られたくない者だった。特に陸には。
みんなの分まで全力で生きる。これは自分の義務で在って他人に押し付けるものではない。ましてや運命の恩人には託せない。
早乙女陸はこれからもきっと多くの人を救っていくだろ。
そんな救世主の重りにこれ以上なりたくなかった。
「それなら少し休むか。魔族はまだまだ居るんだしな」
「…うん」
空色髪少女の思いなど全く気付いていない少年は呑気にそんなことを言って離れた位置にいる魔族を鋭い視線で見ていた。
真白もそれに頷き小休止を挟むことにする。
二人の視線の先にはまだ多くの魔族が残っている。早く対処しなければならないが焦りすぎても危険だ。これからのことを考えると休憩をはさみながらのペース配分をしっかりしなくては数の暴力にやられてしまう。こうしてkこまめな休息が大事になってくるのだ。
「そろそろ次に行くか」
数分の小休止をそこそこに切り上げる子tにして次なる敵の討伐に向かおうと早乙女陸が話を切り出す。
「うん。十分に、休憩出来た。これからも頑張る」
少年の言葉に小さく頷いて肯定する白銀真白。いつもの無表情なままでこれからの決戦を決意してやる気を表現する。その青い瞳にはけちの炎が燃えているように見えた。
「それじゃあ、解除するぞ」
「うん」
言って少年は結界を解除する。
二人を守るように囲っていた半球状の水のドーム。それが陸の張っていた防御結界だ。
この水の結界は内外を物理的に遮断して外から中に居る二人を守ってくれる。そこまで強力なものではないが、ここにいる魔族のレベルなら余裕でことたりる。小休止するためだけの簡易的なものなのでこの程度でいいのだ。
落ち着いて休むにはこの戦場ではこの手段が最善と考えた。
「ありがとう」
ドーム状の水がなくなったのを確認してから空色髪少女が短く礼の言葉を口にする。
「これくらい、どうってことないぞ。それにいずれお前にも出来るようになるだろ」
「…私にも、出来るように、なる?」
少年の言葉に首を傾げる空色髪少女。
少年が先程まで展開していた水の結界はとても単純なものでただ水を半球状に張っていただけである。だからそれと同じように。空色髪少女の魔法である毒で再現することも可能だ。
とは言っても、今すぐには難しい。何かを生成する系統の魔法はかなり多くの魔力を必要とする。それを自分を余裕をもって覆うドームを形成するのはそれだけ多くの魔力が必要となる。魔力を多く使用すればするほど、その制御も難易度があがる。なので今すぐには難しい。
しかし陸は真白ならいずれは出来るようになると確信に近い予想をしていた。
もしそうなれば強力な結界になるだろう。
なにせ毒でできた結界だ。水でできたよりも凶悪なのは言うまでもない。
「それも含めて練習すれば出来るようになるだろ」
「うん。頑張る」
少年の鼓舞するような言葉に小さく宇なずく真白。
そこでタイミングよく荒阿多成る練習相手を見つける。
「よし、それじゃあ次はあっちの方に行くか。ちょうどいい数が居るし」
「うん」
見ればそこには数体の魔族。先程まで二人が倒していたものと同種のようで獣の形に近いものだ。
それにゆっくりと近づいていく。まだこちらには気付いていないようで、このまま気付かれずに行ければ奇襲ができるかたちになる。
「と、そうはうまくいかないか」
だけど渕リイの接近に気付いたのか腑言いにこちらを振り向いた一体の魔族が居た。それに続いてそこに居た全ての魔族が同じように二人に身体を向ける。
新たな獲物を見つけた魔族たちは勢いよく少年たちに突っ込んでくる。
それを受けて冷静に二人は対処した。
「それじゃあこれまで通り俺がっ引き留めておくから存分に練習してくれ」
「うん。ありがと」
短く礼を言う言う真白を見て陸も頷き、これまでと同じように魔族と対峙する二人だった。
「ケケ、あいつが例の奴か」
「あぁ、あとはあいつをさらえば任務完了だ」
闇に紛れるようにして二つの影が『あいつ』を見下して話していた。
その二つの影の先、『あいつ』と呼ばれるところに居るのは灰色髪の少年だった。
「本当に男のくせに魔法を使ってやがるぜ、ケケ」
一方は少年を見てどこか楽し気に桁けたと笑ってそんなことを言っていた。
しかしもう一方はそれとは反対の表情をしていた。
「男が魔法を使えるわけがないだろ。どうせ何かからくりがあるに決まっている」
不愉快な声色で話す影。それを聞いてもう片方の影は更に笑い声を上げた。
「ケケ、僻みかよ」
「うるせえ。黙って仕事しろ」
楽しそうに笑う影に対して更に不快感を纏う影。
「はいはい。分かってるよ。あいうが本物でも偽物でもオレには関係めーからな。ケケ」
ケラケラと笑いながら再び主年に視線を向ける一方の影。それに続いてもう一方も再び少年に視線を向ける。
「からくりを暴いてやる」
「ケケ、任務は捉えることだぜ」
「分かっている」
そんなやり取りをしつつ再びや胃に紛れる二tの影だった。
「今何か懐かしいような感覚がしたのだ」
一人大量の魔族を狩っていた青髪の魔王は首を傾げながらそんなことを呟いていた。
レヴィ
「久しぶりの我の出番mものすごく短いのだ」
陸
「お前は大体の魔族は一撃だからな」
レヴィ
「陸もそうなのだ」
陸
「俺はそうでも真白にとっては成長の機会だからな」
レヴィ
「なら我も次回成長期到来なのだ」
陸
「また嘘の予告を。あと、お前に成長期なんてあるのかよ」